囚われ王子は焔の王に寵愛される

ノガケ雛

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第一章

第16話

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 ルイゼンに着く頃。
 ノアリスは相変わらず体が痛むのを感じていたが、カイゼルとイリエントの介護があって、塔にいた時より随分と過ごしやすいことに有難みを感じていた。
 体を起こすことも、食事をするのも、用を足しに行く時も、全てに手を貸してくれる。
 頼りないと思われているのかもしれないが、それは事実であるからと甘んじて受け入れる。
 座ることができるようになり、ベッドに腰掛けていると、ふと、窓の外を見ていたカイゼルが立ち上がった。


「もうそろそろ着くから、降りる準備をしよう」
「まだお顔を見られるのはあまり良くないので、少し窮屈な思いをさせますが……こちらを被っていただきたいのです」


 イリエントが差し出したのは、ヴェールだった。
 視界が全て無くなる訳では無いし、それを被るくらい全く問題ないのだが、彼らはいつもノアリスに心を配ってくれる。


「はい。大丈夫です」
「ありがとうございます。馬車から降りる時は陛下が貴方様を抱えます。貴方様は特段何かをする必要はありません。そのまま、お過ごしいただくお部屋に案内しますので、ご安心を」


 イリエントの説明に、ノアリスは頷いた。
 ハラハラと金色の髪が肩から滑る。
 カイゼルはその髪に一束触れると、そのまま、優しく小さな頭を撫でた。


「ここまでよく堪えてくれた。城に入れば窮屈な思いをしなくていい様に、色々揃える。必要なものがあれば遠慮なく言うように」
「……ぁ、ありがとう、ございます」


 頭を撫でられることは、この馬車に乗ってから何度かあった。
 その度に、胸の奥の方がほわっとして、むず痒く感じる。


「俺が部屋まで運ばせてもらうが、今、どこか痛むところはあるか? 極力体に響かないようにはするつもりなんだが……」
「ぁ、い、いえ。特に、痛みは」
「痛みは無い? 違和感は?」
「……それは、ございますが、でも問題ありません。いつものことです」


 ノアリスはそう言って頷いた。
 産卵のあとは、しばらくずっと続く違和感。
 これはなかなか消えてはくれないが、何度も経験しているので我慢できないほどではない。


「……わかった。しかし、何かあれば直ぐに教えてくれ」
「はい」


 カイゼルはぐっと手を握り、湧き上がる怒りを鎮めていく。
 イリエントはそんなカイゼルの様子を横目で見ると、ふんわり微笑んでノアリスを見つめた。


「いつものことであっても、我々には我慢せず、お伝えくださいね」
「……」
「できる限り、貴方様のお身体に負担をかけたくありません。誰も叱ったりなどしませんから、感じたままを教えてください」
「……感じた、まま」
「はい。貴方様のお心を尊重します」


 そんな言葉を掛けられたのは初めてで、ノアリスは思わず目を瞬いた。


「……なぜ、そんなにも、お優しいのですか」
「……」
「私のようなものに、貴方様方が心を配る理由が、私には、分かりません……。私は、何を返すことも、できないのです。……卵は、産めます、が……」


 しりすぼみになっていく声。
 俯いて、床を見つめる。
 卵は産める。そうして恩を返せるとしても、もう、産みたくはない。

「卵は必要ない。言っただろ。俺はそなたが笑顔を見せてくれるだけでいいと」
「っ……」
「いつか『自分こそが愛されるべきだ』と思えるくらいになってくれたらいいな。そして、そなたはそれに値する」
「そ、んな」


 ノアリスは何故か手が震えるのを感じ、きゅっと両手を握りしめる。


「俺の言葉は何よりも正しい。──そうだろう、イリエント」
「ええ。まあ、たまにお門違いなことをおっしゃる時もありますが」
「……」
「ですが、陛下の言うことは信じてもよろしいかと」


 イリエントをぎろっと睨んだカイゼルは、しかし穏やかな目でノアリスを見下ろした。


「不安に思うことは沢山あるだろう。何を選んでいいのか分からなくて、困惑することも。そんな時は、俺に聞けばいい。イリエントでもいいが──こいつは理屈っぽいからな。聞いてると眠くなる」
「眠くなるですって? これまでそんなふうに思っていたんですか? 信じられませんこの王は。ノアリス様、やはり信じなくて結構ですよ!」
「……ふふ」
「!」


 小さな笑い声が聞こえて、カイゼルとイリエントは静かに目を見張った。
 ノアリスの口元が極わずかだが上がっている。

 二人はそれに驚きつつも、嬉しくなって、カイゼルは再びノアリスの頭を撫で、イリエントは穏やかに微笑んでいた。


 
 馬車の歩みが止まり、カイゼルはヴェールを被ったノアリスをそっと抱き上げた。


「辛くないか?」
「はい」


 肩に触れる手から、緊張か不安か震えているのが伝わってくる。


「顔を上げておく必要も無い。誰にも見られたくないのなら、俺の肩口に顔を隠してもいいからな」
「……それでは、印象があまり、良くないのでは……?」
「ん?」
「……まるで、私を攫って連れてきたかのように、思われるの、ではと、思いました……」
「どう思われようが、構わん。俺が今一番優先したいのは、ノアリス、そなただ。それに、心配せずとも俺は意外と国民からの信頼は厚い」


 心配するノアリスに、カイゼルは半分ふざけながら、そして半分真面目に答える。
 とにかく、安心させてやりたい一心なのだ。


「……差し出がましいことを、申しました。申し訳、ございません」
「謝るな。それに、そなたの意見が差し出がましいなどと思うはずがない。むしろ、気遣い感謝する」


 馬車の扉が開く。
 カイゼルはふっと微笑むと、躊躇うことなく眩しい光の方へ足を進めた。
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