囚われ王子は焔の王に寵愛される

ノガケ雛

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第一章

第23話

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 痛い、やめて──


 声が聞こえた気がして、心拍数が上がる。
 体が押さえつけられているようで、動かせない。
 メリメリと開かれる痛さに声にならない声を上げ、逃げられない辛さに絶望する。

 中に注がれるものの熱さ。
 求めてもいない物が腹の中に生まれ、大きくなっていく。
 徐々に始まる何とも言い表せない苦痛。
 内側から、抉られるような感覚と、ようやく痛みが消えれば、無機質な金属の音。

 押さえられたまま腕と中に針を刺され、一日空けば再び精を注がれる。


 そんな毎日。
 戦が始まり、終わるまで、もしくは体が保つまで、出口の見えない苦痛。



「ん……ぃ、や……いた、いたい、痛い……っ」


 ノアリスは目を見開いた。
 汗をかいて、息は酷く上がっている。
 

「くぅん……」


 そばに居たロルフが、心配そうにこちらを見て、頭を擦り寄せて来た。

 まだ、太陽も登らない真夜中。
 視界が滲む。
 とめどなく涙が流れ、ノアリスはロルフを抱きしめた。
 

 あの痛みが、記憶から消えてくれない。
 怖い。痛い、苦しい。


「ロルフ……」


 夢を見るのが怖くなって、あれから眠ることもできなかった。
 

 朝、朝食を持ってきてくれたのはカイゼルではなく、イリエントだった。
 久々に見た彼に、少し緊張しながら「おはようございます」と声を掛ける。


「はい。おはようございます。……あまり眠れませんでしたか?」
「……」


 気付かれてしまった。
 ノアリスは俯いて、掛布を握る。


「いいのですよ。陛下ですが、本日は朝から会議がございまして、そちらが終わり次第お迎えに上がると」
「……そうですか」
「……。今日はロルフのお散歩に出かけるのでしょう? それまで、お休みになられますか?」
「ぁ……いいえ……」


 ロルフはベッドからぴょんと降りて、ノアリスはそれを追いかけるようにして、ゆっくりとベッドから降りた。


「朝食はこちらに置いておきますね。いつも通り、召し上がれるだけで構いませんからね」


 ノアリスは「はい」と返事をして、テーブルの方に向かった。
 しかし、料理を前にして、喉が詰まるような感覚がした。


「ノアリス様?」
「……後で、食べます」
「……わかりました。私は下がりますね」


 どこか訝しげなイリエントが部屋から出ていく。
 ノアリスは深く息を吐くと、夢のことを思いだして僅かに手を震わせる。


 兄は、そのうち連れ戻すと言っていた。
 その時がきたら、私は──


 考えるだけで、怖い。
 あの痛みを、二度と味わいたくない。


「……」


 今はただ、あの、あたたかいカイゼルに会いたいと、そう思った。





 会議を終えたカイゼルは、ふぅ……と深く溜息を吐いた。
 朝はイリエントにノアリスの食事を運ぶように伝えたが、どんな様子だったのだろうか。
 会議に遅れてやってきたイリエントの顔は、特に何も物語っていなかった。


「陛下」
「ああ」


 他の貴族らが退室した中、イリエントだけは残り、カイゼルの傍に腰掛けた。


「ノアリス様の今朝の様子ですが」
「ああ。どうだった」
「……何も仰ることはありませんでしたが、よく眠れなかったようです」
「そうなのか?」
「ええ。食事も、後で食べると」
「……」


 昨夜カイゼルが部屋を出てから、誰一人としてノアリスの部屋には入っていない。
 それに、もしも誰かが入っていたとしたら、ラオンが吠えるはずだ。


「夢でも見たか……」
「嫌なことを思い出されたのかもしれませんね」
「……今日、庭に出ることを楽しみにしていたが、難しそうか?」
「そこまでは……。それに、楽しみにしていらしたのでしょう? 突然中止は……そちらの方が悲しむのでは?」


 確かにそうだと、ひとつ頷く。


「お話しくださるかは別として、直接訊ねるのも良いでしょう」
「……ああ」
「無理に聞き出すのはいけませんが」
「そんなことはしない」


 ノアリスを傷つけないよう、慎重に行こう。
 静かに立ち上がり、会議室を出て、直接ノアリスのもとへ向かう。
 朝食は食べられたのだろうか。
 やはり心配は膨れるばかりだ。

 部屋の前についたが、すぐに扉を開けることはしなかった。
 何かあっても、焦って近づくのはダメだ。
 怖がらせて、距離が離れてしまうのは、いただけない。

 
 一度息を吐く。
 そうして三度ノックし、小さな返事が聞こえて扉を開けた。


「おはよう、ノアリス」
「お、おはよう、ございます」


 返事はくれたが、目の下にクマができている。
 置かれている食事は手をつけたのか、そうでは無いのか、一食分がまるまる置かれている気もしなくはない。


「朝は、食べれたか?」
「……いちごを、少し」
「それはよかった。もう腹は膨れてしまったか?」
「……はい。すみません」


 昨日の会話より、若干距離を感じる。
 カイゼルはしかしそれに気付いていないかのようにノアリスの傍に寄った。


「庭に出るか?」
「! はい」
「……無理はしないでくれると、約束できるか?」
「わ、わかりました。無理は、致しません」
「よし。では、行こうか」


 ロルフの名前を呼ぶ。
 すると床に寝転んでいたロルフがのっそり起き上がり、ノアリスの手に頭を擦り寄せた。


「はは、ノアリスは犬の扱いが上手いのだな。ロルフがこんなにも懐いている」
「ん……」


 少し、嬉しそうに口元を弛めたノアリスに、若干の違和感は感じるが、あまり敏感になりすぎるのも良くないのかもしれないと、カイゼルは追求することなく、共に庭に出た。
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