囚われ王子は焔の王に寵愛される

ノガケ雛

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第一章

第24話

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 雲ひとつない青空が広がっている。
 肌を撫でる風はほんのりとあたたかく、心地がいい。
 ノアリスはそんな空の下を、カイゼルとロルフと共に歩いていた。

 色とりどりの花が咲いている。
 ちょん、と指先で触れるとくすぐったそうに揺れるのが可愛らしい。


「カイゼル様」
「ああ、どうした」
「いい、お天気ですね」
「そうだな」


 これまで、外に出られたのは月に一度、それも少しの間だけ。
 それが、今は制限されることも無く、太陽の下にいる。
 嬉しい。嬉しいけれど──また、これが無くなるのかもしれないと思うと、苦しい。


「ノアリス。ロルフがボールを投げてほしいと」


 俯いていた顔を上げた。
 ロルフはいつも部屋で投げているボールを咥えて、尻尾が取れちゃうのではないかと思うほどに、ぶんぶん激しく振っている。


「ボール、くれる?」
「わふ!」
「ありがとう」


 受け取ったボールを、ポイッと投げてみる。
 ロルフは走ってそれを取りに行き、楽しそうに帰ってきた。
 そんな彼を褒めて、もう一度投げる。
 こんな生活が、ずっと続いてほしい。
 痛みのない、穏やかであたたかい日々が。


「ノアリス、どうかしたか」
「……」


 無意識に腹部の布を握りしめていた。
 連れ戻されたら、この日々が消える。


 ここにまた、精を注がれる。
 そしてまた、卵ができてしまう。


「? ノアリス、……おい、ノアリス!」
「っ、」


 崩されてしまう。
 いつ? 今? 三日後? もっと先?

 カイゼルのあたたかな言葉も、ロルフの楽しそうな姿も、イリエントの穏やかな笑みも、もう、なにも、見られなくなる……?


「う……」
「! ノアリス!」


 吐き気が襲ってきて、口を手で覆う。
 綺麗な庭を、汚してしまう。
 申し訳なくて、湧き上がってきたものを飲み込もうとしたが、それができずに指の間からポタポタと吐き出してしまう。


「いい。ノアリス、そのまま全部出せ。──おい、医者を呼べ!」


 背中を撫でる手が優しい。
 しかし、ノアリスは今、深夜に見たあの夢の世界に囚われてしまっている。
 頭の中では、押さえつけられたまま、無理矢理卵を産まされる痛みを思い出し、目の前がチカチカと白く点滅した。


「っ、ぁ……」
「少し、抱き上げるぞ。部屋に戻るだけだ」
「ひっ、ぃ、ぃや、痛いのは、いや……」
「痛いことはしない。大丈夫だ。いい子だから、落ち着け」


 カイゼルの声はやさしい。しかし、今のノアリスには届かない。
 抱き上げられると怖くなって、足をバタバタと暴れさせた。
 そうすればぎゅっと強く抱きしめられ、思うように体が動かなくなってパニックに陥る。
 また、体が動かない。嫌だ。中に挿れられてしまう。
 思い出すのは、逃げられないほどの力の強さと、広げられる感覚。


「ぃ、やぁ……っ、痛いのは、もう、やだ……っ」
「ああ。大丈夫だ。大丈夫。何もしない」


 ノアリスはカイゼルの胸に何度も拳を振るう。
 いそいで部屋に戻ったカイゼルは、ひとまずノアリスをベッドに寝かせると、少し距離をとって彼が落ち着くのを待った。


 汚れた手や口元を拭ってやりたいが、しかしもう少ししてからの方がいいかと、隠れるように控えていた侍女に温かいお湯と布を持って来るように伝える。

 ノアリスはガクガクと震えていて、自由に動けるはずなのにまるで体を固定されているかのように動かさない。
 そして、うわ言のように「痛い」と「いやだ」そして「やめて」を繰り返している。


「ノアリス」
「っひ、ひ、いや、いた、い……」
「大丈夫だ。ノアリス、落ち着いて」


 トン、トンと、一定のリズムで胸を叩く。
 ゆったりと、ゆっくりと。
 しばらくの間、そうしていれば、うわ言のように繰り返されていた言葉が、少しずつ少なくなっていく。
 

「っ、は、はぁ……は、」
「いい子だ。上手に呼吸ができてる。──俺を見れるか?」


 忙しなく動いていた瞳が、カイゼルを見た。
 涙がいくつも零れている。


「ありがとう。そのままでいい。少し、手と口元を拭うぞ。痛くはないからな」
「っ、ふ……はぁ、は……ぅ」


 持ってこさせた布とお湯でノアリスの口元と手を拭う。
 相変わらず震えはなくならないが、それでもだんだんとマシになってくる。


「怖いな。だが、俺が傍にいる。俺が誰か、わかるか?」
「……っ、は、か、かい、カイゼル、さま……っ」
「そうだ。ここに居る。痛い思いも、辛い思いもさせない」
「っ、ぁ、カイゼルさま、体、動か、ない」
「大丈夫。動くようになる。今は体が驚いているんだ」


 そっとノアリスの頬を撫でる。
 涙を流す彼に微笑みかけ、何度も言葉をかける。


「ロルフはボール遊びができて、嬉しかったみたいだ」
「っ、」
「また、外に出て遊んでやってくれ」
「ぁ、ぅ……」


 トン、トンと叩く手は止めない。

 ノアリスが一度深く息を吐いた。
 そうして、胸を叩いていた手をそっと握られる。
 弱い力ではあったけれど、それは確かにカイゼルを安心させた。


「よく頑張った」
「っ……」


 瞳から、大粒の涙が零れる。
 カイゼルはふっと笑うと、ノアリスの上体を抱えるようにして抱きしめた。
 ノアリスの手が、カイゼルの腕に触れ、きゅっと掴まれる。
 

「痛いところはないか? 動かしにくいところは?」
「ぁ、あり、ません……」
「よかった」


 金色の髪を慈しむように撫でる。
 ノアリスはカイゼルに体を預け、そっと目を伏せた。
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