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第147話

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「蒼太君、申し訳ない。少しだけここで待っていてくれるかな」
「あ、僕は大丈夫です。どうぞどうぞ。」


 凪さんが俺の手を取って、そのまま一緒に部屋を出る。
 気持ちが昂って、どうにかそれを抑えるようにと抱きしめられた。


「真樹はこのまま中に入らず、ここで待ってて。」
「……ごめんなさい。勝手に一人で暴走して」
「仕方がないことだ。責めてるんじゃない。」
「蒼太が嫌な気持ちになってるかもしれないから、謝っておいてほしいです。」
「わかった。安心して」


 その場に取り残され、凪さんは部屋に入っていく。
 俺は自分のデスクに移動して、深く溜息を吐いた。


「大丈夫?」
「中林さん……。俺のせいで色々迷惑かけてすみません。」
「私のことはいいよ。あ、ココア飲まない?最近マシュマロ入れて飲むのにハマってて」
「わぁ、マシュマロ入りのココア……?飲みたい……」


 中林さんが入れてくれたそれを飲んで、ホッと一息吐く。
 気持ちが少し落ち着けば、あそこまで取り乱してしまった自分が恥ずかしい。


「……中林さん。」
「何?」
「中林さんは好きな人には幸せになってほしくないですか……?」
「それは勿論、なってほしいけど……。ああ、もしかして堂山君に嫌がらせしてる奴、好きな人をいじめるタイプ?」


彼女の言葉に苦笑する。
まるで小さな子供の話をしているように聞こえた。


「……なのかも知れません。自分で言うのも変な感じだけど」
「拗らせちゃってるのね。私はそういうの、中学生までなら可愛いと思う。」
「じゃあ今は?」
「恋愛経験積んで来いって感じ?」


 遠慮なくはっきりと物事を言う彼女に思わずクスッと笑う。


「大人で、本当にその人が好きなら、一途に幸せを願ってほしいな。ああ、でも……ほら、堂山君には特別な事情があるから、それで拗れちゃってるのかも……。ごめんね、こんな嫌なこと言って……。」
「いや、大丈夫です。確かに好きな人が期待通りじゃなかったら裏切られた気分になったりするんだと思うし……。」


 溜息を吐けば、彼女も同じように深く息を吐いた。


「人ってただでさえ難しいのに、そこに性格だったり個性が合わさるから面倒なのよね。まあ大丈夫よ。堂山君には専務がいるし、今悩んでることは専務にパスして、堂山君は考えすぎないことを徹底した方がいいかも。」


 凪さんに全てを任せて俺は何もしないなんて、そんなことできない。
 かと言って俺が何かをすれば今みたいにまた迷惑をかけることになる。


「知らない間に事が進んで終わっているのは嫌だな……。」
「随時報告してくれると思うけど……。最終的には堂山君と相手の問題だから。」


 ズズっとココアを飲んで、そうだよなと頷く。
 けれど正直、もう三森と面と向かって話すのが嫌で、オメガになってからずっと弱くなり続ける自分に呆れて、肩を落とした。
  
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