その奇蹟に喝采を(4/6更新)

狂言巡

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雪城白雪の誕生日2

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 四月三十日、午前七時九分。枕元の電子音で目が覚め、半分まだ覚醒しない頭と手探りで携帯スマートフォンを手にする。メールでなく。着信。発信者は海の向こうの島国に居る友人。

「……もしもし」
「こんばんは、白雪ちゃん。寝てたでしょ?」
「……悪い……?」
「そんな不機嫌な声出さないでよ~。そろそろ起きなきゃいけない時間じゃないの?」

 そう言われるとその通りなのであってぐうの音のも出ない。

「そっち……今、何時……?」
「夕方の七時。仕事ももうすぐ終わりだよ」
「君も大変……」
「まあね。でも楽しい事の方が多いから何とかやっていけてる。で、白雪ちゃんはどうなの? ライヴの方は? 背は伸びた?」
「それは言わない約束。……楽しくやってる。棗達も元気だし」
「そっか、今度は英国こっちにも遊び来なよ」
「その予定……桃華、ありがと……」
「えへへ、なんで今電話したか、解ってるみたいだね」
「当たり前。何年一緒に居たと思ってる」
「うん! 二十歳のお誕生日、おめでとう。白雪ちゃん」
「うん。今日からお酒も解禁」
「白雪ちゃんはもう飲んでるじゃん……あ、もう切らないと。じゃ、頑張ってね!」
「……うん、桃華も」
「「Good-Bye」」

 切れた携帯電話をしばらく見つめていたが、手櫛で髪を纏めながらのっそりと起き上がる。顔を洗いに、洗面所へ。午前七時三十四分。メール一件着。

『おはよう、雪城。元気か? 今日は例の場所でいいんだろ?少し遅れるかもしれないけど、絶対行くから。待ってて。二十歳のお誕生日、おめでとう。蒼崎聡俊』

 携帯片手ににやにやと嬉しそうにしている、その顔が鏡に映っているのに気づき。誰も居ないとはいえ慌てて表情を変える。ジョギング用の服に着替えると、軽く走りに行くために家を出た。今日の講義は、午後から。だから午前中は自主トレに当てようと思っていた。走りこみも終わり、今度は学校用の服に着替えて家を出た。電車に乗っている途中で、ポケットの中の携帯が振動する。またメールが来たらしい。午前十時四十六分、メール一件着。

『おーっす、雪城。そっち晴れてんのか? 沖縄はマジあっちい。お前、今日誕生日だったな。一番に二十歳か。何か、羨ましいぞ。今日は行けねぇけど、夏休みにはゼッテー行くかんな。おめでとさん』

 再び、ゆるみそうな頬を引き締める。差出人は、ちゃんと解っている。今は南の果ての島にいる友人。何より覚えていてくれたのが、嬉しかった。駅に着き、学校までの道のりをまったり歩く。日差しは暖かく、春の空は何処までも澄んで、青い。再び、携帯に着信。午前十一時四分、着信一件。

「もしもし」

 耳に聞こえる、優しい声。

「……スピカ」
「おはよう」
「おはよ。学校は?」
「今、空き時間よ。白雪ちゃんは今日は午後からだったわよね?」
「うん、よく覚えている」

 くすくす笑う声が、耳にくすぐったい。

「昨日、電話で話したじゃない」
「そうだっけ?」
「お誕生日、おめでとう」
「……ありがとう」
「どういたしまして。今、何処に?」
「学校に向かって歩いている」
「そうなの。お邪魔じゃなくてよかったわ」
「君が邪魔なわけない」
「ふふ、ありがとう。それでは、今夜また会いしましょう」
「うん、待っているから。楽器、忘れないで」
「はい。ちゃんと持ってきてあるわ」
「じゃ、勉強、頑張って」
「白雪ちゃんもね」
「それは耳に痛い」
「ふふ。じゃあね」
「うん」

 ポケットに携帯を入れると、ちょうど学校前。そのまま、講義室ではなく屋外ステージへと向かう。荷物をベンチに乗せ、かるくアップをしているところに。

「ユッキー!」

 聞きなれた声。顔を上げると遠くから走ってくるのが見える。

「おはよ、棗。君、授業中のはずじゃ」

 息を切らすこともなく、棗もベンチに荷物を置く。

「起きたらさっきだったのさ」

 嬉しそうに言う腐れ縁の肩を軽く叩きながら軽い小言を投げる。

「少しは真面目にやって。今回ばかりは私しかいないし、教えるのも限界があるのに」

 そう言われた方も、素直に返事をしている。これからは、ひばりも、スピカも蒼崎も。誰も居ない。全ての成績の面倒は見てやれないのだ。暢気そうな棗の背中を見て、流石の白雪も軽くため息をつく。それから、二人で練習している途中で、ベンチの荷物の中からくぐもった電子音。

「……あ、やば。棗、ちょっとタイム!」
「りょーかーい」

 荷物の山の中から、携帯を慌てて拾い上げる。着信一件。午前十一時二十一分。

「おはよう、白雪ちゃん」
「春朝、おはよ、どうした?」
「急用じゃないよ。今、駅についたんだけど。君、何処に居るの?」
「どこって、学校」
「成る程。で、電話に出ているってことは、講義中じゃないわけだね」
「当たり。駅って? 朝野駅?」
「違うよ」

 そういって、春朝の口にする駅の名を聞いて開いた口が塞がらなかった。それは先程、自分が降りてきた駅だったから。

「って……君、何時の電車に乗ってきた……?」
「何時って、八時過ぎだけど?」
「私、てっきり夕方にでもくるのかと思ってた……」
「せっかく里帰りするんだしさ。そんなゆっくり行ったら勿体無いでしょ」
「それもそうかも。私、午前中は講義ないから今屋外ステージにいる」
「よし、じゃぁ、今から向うよ。じゃ、あたね」

 電話を切った後しばらく携帯を見つめていたら、棗に声をかけられる。振り向いて、意地悪げに口端を上げてやった。

「ユッキー! まだ~?」
「……棗。今日の君は、春朝に怒られる」
「へ? ひばりん?」
「もう着いたって。こっち。今から来る、ここに」

 その言葉をきいて。棗の顔から血の気が引く音が聞こえたような気がした。

「……ゆ、ユッキー……僕、今日は講義午後からってことで…」
「さて、どうしよう」
「ミスド二日分奢るよ!」
「……伍日」
「分かったって!」

 大学生になっても。やはり従兄ひばりに怒られるのが怖いらしい。自分の出す条件もすんなりのんでいる。ベンチを離れようとした時。再び携帯に着信。今日はよく電話がなると思いつつ。着信相手をみて、少し、驚いたが電話に出る。着信一件。午前十一時二十八分。

「……よぉ」
「……初嵐はつあらし。どうした、珍しい」
「別に。今日のことを確認しようと思ってな」
「……来られるわけ……? 忙しいんじゃない?」
「……約束だからな」
「……覚えてた?」
「俺は、約束を破るのも破られるのも嫌いなんだよ」

 胸の中が熱くなる。まさか、コイツまで来るとは、思っても居なかった。

「ありがと……」
「……誕生日おめでとう」
「うん……ありがと……バンドあるからそれだけ忘れないで!」
「分ってるっつの。じゃ、六時に学校で」
「うん。待ってるから」

 携帯を片手に、空を仰ぐ。青く澄んだ空は、手を伸ばしても届かない。でも、今なら届くような気がした。二十歳の誕生日には、みんなで会おうと約束し、それぞれへの道を進んだ。あれから、二年。一番乗りの、今日。みんなが覚えてくれていたのが、何よりのプレゼントなのだ。その幸せをかみしめる。そして、一生忘れないと、心でそっと誓う。地球の何処に居ても、自分達はずっと親友で戦友。痛みも、苦しみも、喜びもともに分ち合ったあの懐かしい日々をそっと思い起こしながら、白雪は誰もが等しく見上げられる空に、軽く手をあげた。
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