その奇蹟に喝采を(4/6更新)

狂言巡

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バースデーイブ

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 桃華の『水族館に行きたい』という希望のために、誕生日に一番近い日曜日の午後、練習を終えてから電車に乗ってやってきた。春の午後の、温かいようなまだ肌寒いような、ぼんやりとした空気。ガラスのドームの入り口をくぐると、すぐに地下へと伸びる下りのエスカレーターがある。トンネルのようなそこを降りると、目の前には青白い光を放つ、巨大な水槽が迎えてくれる。
 薄暗い館内の中、その水槽の前だけが別世界のようだ。無言で二人は歩を進める。まるで、海の底のような水槽の中を泳ぐのは――シャチだ。
 パンダのような白黒のボディ。一見可愛らしい外見だが『海のギャング』と呼ばれる程に逞しく、それでいて仲間を大切にする彼らが、桃華は大好きだった。ぺたりと白いおでこと掌を水槽にくっつけて見入っている。
 その後ろ姿を、スピカは黙ってみていた。一心不乱に見つめるその様は、普段のあっけらかんとした姿や、人知れず努力をする姿、元気に楽しくピアノを弾いている時とはまた違った姿で。さまざまな角度から見える如月桃華という少女が、スピカは不思議でたまらなかった。ある時はあどけない子供、ある時はおませな少女だったり……。
 ころころと変わる表情。起伏に忙しい感情。それは決して、スピカにとっては迷惑なものではない。自分とは違う、一人の人間として好意的に受け止められた。小一時間ほど、シャチの水槽の前にへばりついていた桃華は大きく溜め息をついた。

「満足、できたかしら?」

 スピカのその言葉に、金色のツインテールを揺らして振り返ると、とびきりの笑顔を見せる。

「まんぞく、した。すっごく、可愛い」

 その笑顔をみて、スピカも胸の中があたたかくなる。その笑顔があるだけで、それだけで、嬉しい。一足早い誕生日プレゼントは成功したようだ。

「それは、よかったわ」

 ゆっくり微笑む友人をみて、桃華は迷わず手を伸ばす。

「ありがと、スピカちゃん」

 差し出された友人手を、スピカはしっかり握り締めた。
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