狼と猫の食卓(1/3更新)

狂言巡

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コーヒーブレイク

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 マグカップにインスタントコーヒーの粉を銀のスプーンで一杯分を注ぎ、黒猫は深夜のキッチンでぼんやりと火にかけられた小鍋を眺めた。黒狼本邸には薬缶がないので、湯を沸かす時はいつも鍋だ。そろそろ薬缶か電気ポットを購入した方がいいとは思う。大人数の茶を淹れる時、わざわざお玉で湯を注ぐのは面倒だ。普通に飲むのもねぇとのっそり椅子から立ち上がり、冷蔵庫がある方へ足を向けた。
 スプレー式のホイップクリームでウィンナーコーヒーにするのは、黒猫の十八番だ。ホットでもアイスでも、飲み物の上にクリームを絞り出してやると甘党組は喜ぶ。かつては幼い子供達のためにココアの上にクリームを絞ってやったものだ。とりあえずそのスプレーを手に取ったが、黒猫の目はまだ何かを探している。その手が伸びていった先は酒の収納がメインの冷蔵庫だ。
 ポコポコと水が沸騰する音が耳に届く。小鍋の中を覗くと、底からいくつも気泡が生まれ、水面に現われては弾けていく。黒猫は火を止めた。鍋から微かに立つ湯気、白いマグカップの底に溜まった褐色の粉末、鈍く光る細長いスプーン、チョコレートシロップの瓶。
 零さないように慎重に、黒猫は鍋を傾けてマグカップに湯を注いだ。その刺激で少し粉末が溶け込み、熱湯の色が変わる。鍋を置くと、スプーンを入れてくるくるかき混ぜた。特有の香ばしい匂いが鼻先へ届く。くるくるくるくる……。黒猫は猫舌だから、こうやって冷ましているのだ。既に器の中の液体は黒褐色に染まっていた。それでも黒猫はかき混ぜ続ける。
 どうして自分はこうもカフェインに強いのだろう。夫達はいつもコーヒーを夜中の仕事のお供にしていたのに、黒猫には利かない。飲んでもぐっすりと眠る事ができる。もういいだろうと黒猫は手を止めた。マグカップにリキュールをトポトポ流し込むと、コーヒーの香りに甘い匂いが混ざっていった。軽くかき混ぜて最後にスプレー式のホイップクリームで表面を飾る。これ以上は冷めなくなるだろう。マグカップを持ち、黒猫はキッチンのテーブルの方へ移動した。音を立てないように椅子を引いて座る。

「熱っ」

 行儀悪く両肘をついて一口啜り、思わず呟く。ウィンナーコーヒーの類いを飲むたびこうだ。クリームが蓋になっているのだから、息を吹きかけたところで冷めるわけでもない。かき混ぜずに飲んでみたいのに、また熱に負けて黒猫はスプーンを手に取った。クリームの層に銀色のそれを突き立て、コーヒーと撹拌させていく。
 立ち昇るコーヒーとチョコレートの匂い。クリームが消えるまでかき混ぜ、黒猫はフウフウと息を吹きかけると口を付けた。熱い、だが今度は味を感じられる。苦めのカフェモカのような味だ。コーヒーの風味はしっかりしているが、ホイップクリームと混ざったので口当たりがまろやかになり、苦みが抑えられている。奥底にはチョコレートの甘み。酒精アルコールの匂いが鼻へ抜けていった。
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