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心霊スポットの話/廃ホテルと花

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「心霊スポット凸、マジやめた方が良いと思う」

 そう言ったのは文芸部の友人、ではなく、彼女の同級生だ。同じ小学校と中学校に通っていて何度かクラスメイトになったという。地元の時は交流がほとんどなかったらしいが。ちょっとスレた感じの美人で、昔ワルだったんだろうと勝手に思ってたら、あながち間違いではなかった。本人曰く、授業バックレて煙草吸う程度だったらしいが。
 そして今は俺のバイト仲間でもある御坊さんは中学生の時、地元の心霊スポットに友人達と肝試しに行った。『あのビル』と呼ばれる、ビジネスホテルの廃墟。

「怖いってか、きちゃねぇってのが第一印象だった」

 ゴミとか落書きとか、自然にこうなったのではない荒れ方で、御坊さん達と似たような事を考えたヤツらが遊んでいった痕跡だらけ。それでも、ちょっと変だなと思ったブツはあった。

「道路とか踏切とか、事故が起きたら置いてあるじゃん」

 ジュースの瓶に、真新しい花が一本活けてあったのだ。部屋のど真ん中に。

「そんで、壊さなくていい空気を解ってて壊すヤツっているじゃん」

 ある意味空気が読めない友人の彼氏が、それを蹴り倒したのだ。ひゅんと冷たい風が吹き抜け、全員(その彼氏含め)が「ヤバい」と思った。御坊さんもコレは誰の仕込みではないと察した。

「こっからマジ意味不明なんだけど……」

 当然、外から笑い声がした。割れてサッシしか残っていない窓から見ると、パジャマ姿のお清さんが指をさしてこちらを笑っていた。時おり腹を抱えて躰を九の字に曲げて、まさに大爆笑といった感じで。

「いつもだったら何笑ってんだテメー! って私か誰かがキレたんだろうけど」

 本当に予想外の展開に恐怖が勝って、我先にと全員ビルから逃げ出した。

「ダチの一人がさ、お清さんの近所に住んでたのね」

 アレは本人だったのか、お清さんに化けたオバケだったのか。一応彼女の家に行った。深夜十二時過ぎ、家も辺りも静まり返っている。ただのクラスメイトの家にアポなしでインターフォンを押せる程、御坊さん達もDQNではない。当時は携帯電話を持っている十代は珍しい上に畑荒らしが横行していたらしく、お清さんの祖父母に泥棒だと勘違いされ、通報を受けた警官に回収された。
 翌日、お清さんが友人に「無人のビルに花を活ける夢を見た。一か所だけじゃなくて、全部の部屋にだから大変だった」と話しているのを、偶然聞いたそうだ。
 数年前に廃ビルは完全撤去され、現在はパチンコ店の駐車場になっているという。
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