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心霊スポットの話/廃墟とオセロ

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「オカ研入ってるからって霊感あるとか、全然思ってないんだけど……」

 それなりにモテそうなチャラい先輩に相談を持ちかけられた。
 初対面だと思ったら、数回オカ研の飲み会に参加してたらしいが記憶にない。写真部に所属しているという彼は、飲み会の二次会がてら心霊スポットに凸したらしい。俺らと同じ気配がするなと聞き役に入る。先輩方がこぞって卒論や就職活動で引退し、仕切り屋のミケさん(仮名)が実質部長になった。幽霊屋敷へGОも彼女が言い出しっぺでお膳立ても同上。着いたら飲み会に参加しつなかったはずの後輩(俺からすればタメ)が友人を連れて参加してきた。
 泥酔とまではいかないが、一人にするのはちょっと不安かもくらいに酔っている。初対面の酔っ払いを世話しながら肝試しって勘弁してよ……後輩と部長を除いたメンバーの空気に、酔いが抜けるまで車に乗せておこうと本末転倒な方向に行った。

「オバケは出たんすか?」
「うーん……酔ってたから幻覚でしょって言われたら反論できないけど」

 二階が一番怖いと言うので向かったら、一階から子供の笑い声がした。0時はとっくに回っている。ゾッとしたが飛び降りるわけにもいかない。恐る恐る一階に降りると、車で待機させていた後輩の友人がケラケラ笑いながらオセロしていた。

「錯覚かもしれないけど、明らかに誰かと対戦してるように見えたの」

 全員、我先に逃げ出した。

「オセロ強制ゲームの家なんですか?」
「うーん、ベランダに出るって聞いたんだけど……」

 夜が明けて酒が抜けた翌朝。点呼したら後輩の友人が居ない。やばい、置いてきちゃった。勝手に帰ったんだよねと言い切れる程に彼らも能天気でなかった。

「誰も連絡先知らなくてさ、協力してほしいんだ」
「え、でもお清さんの友達って写真部なんじゃ」
「ダメ、部長もダメ」

 俺を頼る前に、まず自分達でどうにかしようとしたようなのだが。ミケさんと後輩は頑なに拒否した。

「もう一回行くのが怖いとかじゃなくてさぁ、もう肝試しなんかオマケでお清さんとっちめてやりたかったみたい」
「はぁ?」

 俺もその先輩さんもお清さんとトラブルがあったなんて初耳だった。でも彼女と交流が一年近く経つ俺としては、お清さんまた変なのに目をつけられたんだなぁと同情した。先輩は車を持っていたが、ミケさんと後輩に見つかると面倒臭いので電車で例の家に行った。真っ昼間というのもある所為か、ただの空き家にしか見えない。日中は問題ないらしい。不法侵入する事以外は。手分けして探そうと別々の部屋に向かった途端、先輩が悲鳴を上げた。

「いた! いた!」

 ―ーそれからはてんやわんやだった。空き家に居たのはミケさんだった。盤面の前で「かてない」と泣いていたらしい。ちなみに肝心のお清さんの行方だが、結果的に言うと無事だった。例の家とかなり離れているが、同じ市内である母方の祖父母の家に突撃訪問して一夜明かしたらしい。真っ当な生活態度の孫が連絡アポなしかつ着のみ着のままでやってきたので、只事ではないと娘夫婦に電話をかけて居場所が発覚したのだ。
 お清さん曰く、友人と宅飲みにしていて、その先の記憶はなく気づいたら祖父母の家で寝ていたという。財布やスマホ等、貴重品は写真部の後輩が袋に入れてゴミ捨て場に放置されており、怪しんだ近隣住民が交番に届けてくれたので事なきを得た。
 後輩はいつの間にか大学を辞めており、以後の足取りは不明である。
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