情愛ボトルキープ(1/2更新)

狂言巡

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割れ鍋に綴じ蓋

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 和良とヒカルは、お互いの仕事がたまたまかち合って知り合った。和良は今でも当時の労働を快く思っていない。出来れば忘却させたい記憶だ。だが、同時に思い出の場所でもある。きっと簡単には忘れられないだろう。彼らは世間でいう『社畜』という状態に置かれた際、終電を失った深夜零時すぎに、心身共に限界ボロボロの状態で駆け込んだビジネスホテルで一線を越えたのが始まりだった。
 和良は「惚れた腫れた」というものをそれなりに経験してきたつもりだが、今までやってきたのはお遊びに等しかったのだと、まざまざと知らしめられた苦い記憶でもある。和良は恋愛において、結局それまで一定以上の感情を伴わせた事さえなかったのだ。それはヒカルも同じだと思いきや、彼女はまともに「惚れた腫れた」を経験した事さえなかった。だというのに、彼ら一世一代の最初の大恋愛は、見事な泥沼と化したのだった。
 血が出る程に咬み付いて首も絞めたし、思い切り殴られた。顔の半分が内出血して青黒く変色し、痛々しい和良の顔を見て、関係者達は軒並み息を呑んだ程である。和良は自分の顔の状態より、大喧嘩の結果ヒカルに「もうおしまいだぁ」と泣きながら吐き捨てられて家を出ていかれた後、殴られていない場所がじわじわ痛みだした事に衝撃を受けていた。
 『思春期のガキ』と誹られる程に感情の起伏が激しいくせに、素直にわんわん泣き喚ける程、幼くもない。和良は暫らくその場に立ち尽くして、怒りとは違う、深い悲しみを感じていた。あの雌狸と「別れる」のが怖いのだ。そんな事を思ったのは、これまで一度もなかった。
 そして同じように「別れたくない」と思い直して頭を冷やしたヒカルが、数日家を空けた後、隠れるように帰ってくる彼女を待つ。ばつが悪そうな顔で真っ暗な寝室にそろそろ入ってくる女を捕らえるのだ。
 喧嘩の後はいつだって、セックスに耽った。世間で言う「終わってる関係」と周囲に評されて然るべきだとは理解しているが、そうでないと本音を言い合えない。そして繋がっている時ならば、愛してるんだと心から言えた。自分達は離れられない。どんなに泥沼と化して争い合って、血みどろになりながら、やっぱり離れたくないという答えに行き着いてしまう。
 あの頃に比べれば、ずいぶん落ち着いた。昇進で異動が増えたヒカルは、社員寮に入らず毎日自宅へ戻ってくる。たまに長く家を空ける事もあるが、それは和良もお互い様だ。二年三年で土地を離れなければならない流浪の身も、和良は苦にならない。むしろ、世界中に顧客やスポンサーがいる彼にとっては好都合。ヒカルも最早いちいち配置換えのたびに「一緒に来る?」とは聞いてくる事さえなくなった。
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