藤の食卓

狂言巡

文字の大きさ
2 / 2

お祭りフード

しおりを挟む
 釣られた提灯、並んだ屋台、賑やかな声が交わされる人の群れ。

「夏といえばやっぱオマツリだろ」

 地元の祭だからそこまで混んでいないだろうと思っていたら、例年にない大盛況だ。屋台を出している側からすれば嬉しい悲鳴というヤツだろうか。

「ミノくん、それ似合ってる」

 祭! と大きく書かれた団扇を腰に挿し、頭にハチマキを巻いた富徳を、紫がフランクフルトを食べながら指差した。

「だろ! じーちゃんに貰ったんだ」

 甚平は動きやすくていい。着替えるのメンドクセというのが本音だったが、雰囲気は重要だと母親に言われてしぶしぶ着替えて来た。それはともかく、身嗜みは完璧だがお洒落にあまり興味の無い紫が浴衣を着て来てくれたのは予想外だった。薄水色の浴衣に金魚の模様が入っている。いかにも紫が選びそうな柄だ。

「面倒くさがりなお前が、よくそんな面倒くさいもん着て来たなあ」
「ママとおばあちゃんがやってくれた」

 髪型もいつもよりやたらと派手にキメていると思ったら、なるほど。過保護者組パパとシスコンを出し抜いて、紫のいつもと違うこんな姿を見られた事に対しては、今度礼をしないとな。

「いいじゃん。可愛い」
「……そう」

 可愛いからせっかく誉めてやったのに、顔の一つでも赤らめたらどうなんだ。デートなんだから塩対応は寂しいぞ。まあドンカンムスメにそんな事を要求する方が間違っているのか。紫は富徳の誉め言葉よりフランクフルトに夢中なようだ。花より団子、女子ならそこは花より男子にチェンジしてほしいのだが。

「あ、もうすぐ花火の時間だぜ」
「そうだね」

 少し、紫の気持ちが食べ物から花火に揺らいだ。目を見ればすぐ判る。

「いい場所、見つけておいたんだ。行こう」

 紫の手を握ると、人にぶつかりながら人ごみを抜けていく。腰に挿した団扇が抜けていないか心配だ。

「あったあった、」

 神社の境内と下の祭がやっている道を繋ぐ石段。ほとんどのヤツは花火を境内ではなく近所の川で見ようとするから、ここは意外に空いているのだ。石段の一つに腰を下ろすと、隣に紫が座った。彼女は食べるのが遅いので、手にはまだフランクフルト半分以上残っている。

「よく見つけたねえ」
「だろ! 彼氏っぽいだろ!」

 お手柄だと言わんばかりに目を輝かせている富徳に、紫は背伸びして頭を撫でてきた。まるで獲物を拾ってきた犬のようだと。せめて狼にしてくれ。

「フランクフルト、うまいか」
「……うん、食べる?」
「いや俺が食べたら、一口がでかいからユカの分が無くなるぞ」
「……別にいいけど」

 ぐいとつき出されたウィンナー。小さな歯形は紫のものだ。それならと遠慮なくガブリと一かみ。ケチャップが口いっぱいに広がる。

「うまいな」

 口についたケチャップを拭った時だった。
 ――ひゅるる、どん。
 花火が光り、数秒遅れて音が鳴る。

「始まった!」

 次次といろんな色の花火が上がっては、遅れてドドンと音が鳴り、また新しい花火が打ち上がる。

「……綺麗」

 横でぽそりと紫が呟いたが、その時富徳は花火を見ていたので、彼女がどんな顔をしていたのかは判らなかった。
 どん!
 一際、大きな花火が上がった。どうやらラストらしい。大きな花火を最後に打ち上げ、花火大会は終了した。

「あー、終わっちゃったな」

 楽しみにしていた大きなイベントが終わった後は、終わってしまったという虚しさがしみじみ込み上げるものがある。今、まさにそれだ。隣の紫を見やると、流石に食べ終え石段から立ち上がったところだった。

「ユカ、俺んち泊まりにこいよ」
「……大丈夫だけど、どうしたの」
「もっと、イチャイチャしたくなった」
「っ!」

 祭が終わった虚しさと、富徳は部活、紫は習い事が忙しくてまた暫らく二人きりで会えない寂しさが込み上げて、どうにもならなくなって、急に紫とアレコレしたくなった。

「ッ、みの、くん……」

 おっと、さっきは可愛いと誉めてもフランクフルトに夢中で変化がなかった顔が、今はどうだ。赤くなっているじゃないか、こんなに暗くても判る程に。

「はは、ユカってほんと可愛いな」

 そう言うと更に顔を赤らめ、固まってしまった。どうやらさっきの「可愛い」よりは言われて恥ずかしいらしい。さて、持ち帰りやすいようにいい感じに固まった手土産カノジョの手を引いて、明後日まで誰もいない家に帰るとしよう。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

後宮薬師は名を持たない

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

他国ならうまくいったかもしれない話

章槻雅希
ファンタジー
入り婿が爵位を継いで、第二夫人を迎えて後継者作り。 他国であれば、それが許される国もありましょうが、我が国では法律違反ですわよ。 そう、カヌーン魔導王国には王国特殊法がございますから。   『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...