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オムライス
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エレベーターの扉が開くと、急に明るい色が目に飛び込んできて、槿は思わず目をしかめた。白とパステルカラーで統一された、明るくて清潔感のある店内。森の中をイメージしているのか、壁紙は柔らかい配色で木や花が描かれ、ところどころに切り株調のテーブルや椅子、可愛い動物のぬいぐるみが配置されている。受付にはメイド姿の若い女性が二人立っていて、槿を見るなり満面の笑顔をこちらに向けた。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
高くて可愛い声でそう言われ、槿は戸惑った。
「ご、ごしゅじん……?」
「ご主人様は、初めてのご利用でいらっしゃいますか?」
「う、うん……というか、藤野って言う子に呼ばれて」
アイドルのような華やかなメイクの女性に、しどろもどろになりながらそう言うと、一人のメイドが「ああ!」と手を合わせた。
「聞いてます、ちょっとお待ちくださいね」
そう言って奥へ引っ込んでいく。一分足らずで、もう一人のメイドを伴って戻ってきた。そのメイドの姿に、槿は瞠目した。
「……あっ?!」
「ろ、六条課長!」
「た、帚木君?! ……え? どうして君、こんな……その格好は……?」
「こ、これは……」
夕霧は、モジモジと肩を丸めた。彼女は槿が働いている会社の部下の一人だった。……だったはずだ。ブラウンの毛髪に包まれた頭頂部にレースのカチューシャのようなもの――後ほど、それをホワイトブリムというのだとヒカルから聞いた――を巻き、クラシックなロングスカートのメイド服(余談だが受付嬢はミニスカだった)を着ている。彼女は縦にも長いのでメイド服が今にもはち切れそうになっている。特に胸部が。
「ご、ご主人様……。詳しい話は、その、奥で」
『ゆうちゃん』と書かれたネームプレートが胸で揺れている。あまりの展開に頭が真っ白になってしまった槿は、その言葉にようやく我を取り戻した。ぎこちない足取りで夕霧の後について行く。通されたのは小さな個室スペースだった。
「……それで、どういう事だ?」
レースのテーブルクロスが敷かれた丸いアンティーク風のテーブル、それと揃いの椅子に座り、槿は上司の顔で部下を見上げた。夕霧は目を伏せて、拳を握りしめた。
「し、仕方無かったんですぅ……! 最近メイドが辞めてしまって、シフトが回らないって言うから……その、ヘルプに」
「……うち、副業は禁止なんだけどなあ」
「す、すみません……どうかこの事は内密に……来月には次のバイトが入ってくるそうなので後一週間足らずでお役御免です」
ペコペコと頭を下げてくる夕霧に、槿は肩を竦めた。金にがめついという噂は本当だったらしい。どういう経緯かは判らないが、ウマイ話が来たので引き受けたのだろう。この事を会社に密告したとしても、自分にとって何の旨みもない。
「……まあいい。下手こいて他のヤツらにバレないようにしろよ」
「すみません……」
夕霧が恐縮したように肩を落とした。せっかくの休日に、余計な問題が浮上してきた槿は大きく溜め息を吐き、水の入ったグラスを手にしたと同時に、個室のドアが開いてもう一人のメイドが入って来た。
「……いらっしゃいませ」
「え……」
入って来たのは、駅で財布を拾ってもらった女性だ。槿は持っていたグラスを取り落としそうになった。彼女も夕霧と同じ、黒を基調としたロングスカートのメイド服に身を包んでいる。胸元には「ひぃちゃん」というネームプレートをつけていた。
「あの……すみません。こんな格好で」
「……良い……」
「え?」
「い、いや。ちょっと吃驚したけど、その、似合ってるよ」
「そうですか?」
ヒカルは小首を傾げながら夕霧の横に立った。圧巻だった。二人共、正直メイドよりバニーガールの方が似合いそうな体躯なのにクラシカルなメイド服に包んで、少し恥じらいながらこちらを見ている。何故か目を離せない魅力があった。
「ご主人様……ここはバード王国です」
「ばーど……?」
「私が今からご主人様にこの国に入る為の魔法をかけるので、目を瞑っていてください」
「う、うん」
ヒカルに言われ、訳が理解らないながら言われた通りに目を瞑る。ふと、肩に何かを付けられる感覚がした。
「もういいですよ。これでご主人様はこの国の賓客です」
「えっ、なにこれ」
「翼です」
「そう……」
寄る年波で首が回らないので判らないが、テーマパークで売っているカチューシャみたいな物だろう。
「メニューはこちらです。何になさいますか?」
マニュアル通りなのかヒカルは澱みなくそう言って、可愛らしい見た目のメニューを広げた。
「ことりさんのおひるねオムライス……なかよしバードのハンバーグ……ことりさんのおめかしカレー。今月のオススメはオムライスです。魔法でことりさんを一緒に起こしましょう。上手に起こせたら、一緒にチェキを撮れます」
「魔法……チェキ……」
日頃無縁すぎるワードを連発されて、槿は最早オウム返しをするしか出来なかった。勧められるがままにオムライスセットを頼む。
「あ、あのさあ」
そのままヒカルを見上げると、彼女は小さく口角を上げてこちらを見た。
「何か?」
「い、いや……何でもない」
どうかしているという自覚はある。どうして、まだ会って二回目の年下の女の子がメイド服を着ただけで、こんなにもときめいてしまうのか。心拍数は明らかに通常よりも早くなっている。夕霧がトレイを持って戻ってきた。
「ご主人様、召し上がれ、ことりのおひるねオムライスです」
真っ白な皿には、ケチャップライスと薄く焼かれた卵が鳥が腹這いになったような形で盛りつけられている。なるほど、おひるねオムライスとは言い得て妙だ。彩りのいいサラダも添えられており、栄養バランスが整えられている上にかなり見栄えするプレートになっていた。カフェラテも、心なしか笑っている気がする鳥のラテアートが描かれている。
「ご主人様、一緒に魔法を掛けましょう」
そう言ったヒカルが手にしているのは、槿も見慣れたケチャップだった。
「私の手の上に、手を重ねて下さい」
「う、うん」
言われた通り、恐る恐る手を重ねる。柔らかい手は、暖かくて触り心地が良い。こうする事が自然であるような、不思議な心地がした。
「ご主人様。魔法の合言葉は、ちゅんちゅん・キュンキュンです」
「へ?」
「ちゅんちゅん、キュンキュン」
「ち、ちゅんちゅん、キュンキュン……?」
「一緒に言いますよ。さんはい」
「ちゅんちゅん・キュンキュン」
言いながら、ヒカルがケチャップで目と嘴を書いていく。ぱっちりと目の開いた小鳥に、夕霧が「わー」と言いながら拍手した。
「ことりさんを起こせましたね。大成功です」
「は……ハハ」
「後でチェキを撮りましょう」
「う、うん」
槿は、口元をひきつらせながらスプーンを取った。バード王国なのに、鶏肉の入った料理を食べる事になるなんて。……これ、国民を食べる事にならないのだろうか。なるべく鳥の顔を崩さないように端から食べながら、槿はふとヒカルを見上げた。
「あのさ」
「はい?」
「……君の、連絡先を聞ける魔法ってないの?」
夕霧が、息を飲んで口元を両手で塞いだ。いざとなったら副業の事で夕霧を脅してでも、ヒカルの連絡先をゲットするつもりだった。彼女は頬どころか顔全てを赤く染めて、レースで縁取られたエプロンを握りしめた。
「……もう、ご主人様はその魔法を使ってらっしゃいます」
「え?」
「……オムライス、全部召し上がったら解りますから」
果たして槿の目的は、オムライスのお皿の下から出てきたのであった。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
高くて可愛い声でそう言われ、槿は戸惑った。
「ご、ごしゅじん……?」
「ご主人様は、初めてのご利用でいらっしゃいますか?」
「う、うん……というか、藤野って言う子に呼ばれて」
アイドルのような華やかなメイクの女性に、しどろもどろになりながらそう言うと、一人のメイドが「ああ!」と手を合わせた。
「聞いてます、ちょっとお待ちくださいね」
そう言って奥へ引っ込んでいく。一分足らずで、もう一人のメイドを伴って戻ってきた。そのメイドの姿に、槿は瞠目した。
「……あっ?!」
「ろ、六条課長!」
「た、帚木君?! ……え? どうして君、こんな……その格好は……?」
「こ、これは……」
夕霧は、モジモジと肩を丸めた。彼女は槿が働いている会社の部下の一人だった。……だったはずだ。ブラウンの毛髪に包まれた頭頂部にレースのカチューシャのようなもの――後ほど、それをホワイトブリムというのだとヒカルから聞いた――を巻き、クラシックなロングスカートのメイド服(余談だが受付嬢はミニスカだった)を着ている。彼女は縦にも長いのでメイド服が今にもはち切れそうになっている。特に胸部が。
「ご、ご主人様……。詳しい話は、その、奥で」
『ゆうちゃん』と書かれたネームプレートが胸で揺れている。あまりの展開に頭が真っ白になってしまった槿は、その言葉にようやく我を取り戻した。ぎこちない足取りで夕霧の後について行く。通されたのは小さな個室スペースだった。
「……それで、どういう事だ?」
レースのテーブルクロスが敷かれた丸いアンティーク風のテーブル、それと揃いの椅子に座り、槿は上司の顔で部下を見上げた。夕霧は目を伏せて、拳を握りしめた。
「し、仕方無かったんですぅ……! 最近メイドが辞めてしまって、シフトが回らないって言うから……その、ヘルプに」
「……うち、副業は禁止なんだけどなあ」
「す、すみません……どうかこの事は内密に……来月には次のバイトが入ってくるそうなので後一週間足らずでお役御免です」
ペコペコと頭を下げてくる夕霧に、槿は肩を竦めた。金にがめついという噂は本当だったらしい。どういう経緯かは判らないが、ウマイ話が来たので引き受けたのだろう。この事を会社に密告したとしても、自分にとって何の旨みもない。
「……まあいい。下手こいて他のヤツらにバレないようにしろよ」
「すみません……」
夕霧が恐縮したように肩を落とした。せっかくの休日に、余計な問題が浮上してきた槿は大きく溜め息を吐き、水の入ったグラスを手にしたと同時に、個室のドアが開いてもう一人のメイドが入って来た。
「……いらっしゃいませ」
「え……」
入って来たのは、駅で財布を拾ってもらった女性だ。槿は持っていたグラスを取り落としそうになった。彼女も夕霧と同じ、黒を基調としたロングスカートのメイド服に身を包んでいる。胸元には「ひぃちゃん」というネームプレートをつけていた。
「あの……すみません。こんな格好で」
「……良い……」
「え?」
「い、いや。ちょっと吃驚したけど、その、似合ってるよ」
「そうですか?」
ヒカルは小首を傾げながら夕霧の横に立った。圧巻だった。二人共、正直メイドよりバニーガールの方が似合いそうな体躯なのにクラシカルなメイド服に包んで、少し恥じらいながらこちらを見ている。何故か目を離せない魅力があった。
「ご主人様……ここはバード王国です」
「ばーど……?」
「私が今からご主人様にこの国に入る為の魔法をかけるので、目を瞑っていてください」
「う、うん」
ヒカルに言われ、訳が理解らないながら言われた通りに目を瞑る。ふと、肩に何かを付けられる感覚がした。
「もういいですよ。これでご主人様はこの国の賓客です」
「えっ、なにこれ」
「翼です」
「そう……」
寄る年波で首が回らないので判らないが、テーマパークで売っているカチューシャみたいな物だろう。
「メニューはこちらです。何になさいますか?」
マニュアル通りなのかヒカルは澱みなくそう言って、可愛らしい見た目のメニューを広げた。
「ことりさんのおひるねオムライス……なかよしバードのハンバーグ……ことりさんのおめかしカレー。今月のオススメはオムライスです。魔法でことりさんを一緒に起こしましょう。上手に起こせたら、一緒にチェキを撮れます」
「魔法……チェキ……」
日頃無縁すぎるワードを連発されて、槿は最早オウム返しをするしか出来なかった。勧められるがままにオムライスセットを頼む。
「あ、あのさあ」
そのままヒカルを見上げると、彼女は小さく口角を上げてこちらを見た。
「何か?」
「い、いや……何でもない」
どうかしているという自覚はある。どうして、まだ会って二回目の年下の女の子がメイド服を着ただけで、こんなにもときめいてしまうのか。心拍数は明らかに通常よりも早くなっている。夕霧がトレイを持って戻ってきた。
「ご主人様、召し上がれ、ことりのおひるねオムライスです」
真っ白な皿には、ケチャップライスと薄く焼かれた卵が鳥が腹這いになったような形で盛りつけられている。なるほど、おひるねオムライスとは言い得て妙だ。彩りのいいサラダも添えられており、栄養バランスが整えられている上にかなり見栄えするプレートになっていた。カフェラテも、心なしか笑っている気がする鳥のラテアートが描かれている。
「ご主人様、一緒に魔法を掛けましょう」
そう言ったヒカルが手にしているのは、槿も見慣れたケチャップだった。
「私の手の上に、手を重ねて下さい」
「う、うん」
言われた通り、恐る恐る手を重ねる。柔らかい手は、暖かくて触り心地が良い。こうする事が自然であるような、不思議な心地がした。
「ご主人様。魔法の合言葉は、ちゅんちゅん・キュンキュンです」
「へ?」
「ちゅんちゅん、キュンキュン」
「ち、ちゅんちゅん、キュンキュン……?」
「一緒に言いますよ。さんはい」
「ちゅんちゅん・キュンキュン」
言いながら、ヒカルがケチャップで目と嘴を書いていく。ぱっちりと目の開いた小鳥に、夕霧が「わー」と言いながら拍手した。
「ことりさんを起こせましたね。大成功です」
「は……ハハ」
「後でチェキを撮りましょう」
「う、うん」
槿は、口元をひきつらせながらスプーンを取った。バード王国なのに、鶏肉の入った料理を食べる事になるなんて。……これ、国民を食べる事にならないのだろうか。なるべく鳥の顔を崩さないように端から食べながら、槿はふとヒカルを見上げた。
「あのさ」
「はい?」
「……君の、連絡先を聞ける魔法ってないの?」
夕霧が、息を飲んで口元を両手で塞いだ。いざとなったら副業の事で夕霧を脅してでも、ヒカルの連絡先をゲットするつもりだった。彼女は頬どころか顔全てを赤く染めて、レースで縁取られたエプロンを握りしめた。
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