とある高台夫婦の事情(5/25更新)

狂言巡

文字の大きさ
10 / 21

漣の家/髪の話

しおりを挟む
 ハート模様の可愛らしいバッグから、マジシャンのようにシュシュを出してくる亜玖登は、今に鼻歌を歌いだしそうな程に上機嫌だった。その傍らでは、海月が櫛で沙々波の髪を丁寧に梳いていた。

「沙々波さんの髪はふわふわで本当触り心地が最高いですね。叶うならずっと触っていたい……」

 そろそろ腰に届きそうな長さの黒髪に指を絡ませ、うっとりと呟いた海月に、キーホルダーを収めている箱を整理していた沙々波は首を傾げた。

「そうかえ? うちの髪て伸ばして重たしてもすぐ寝癖がついたり絡まって大変じょ。うちゃ、海月ちゃんや亜玖登くんみたいにまっぐすな髪に憧れるわぁ」
「きっとさらさらヘアーな紗々波ちゃんも可愛いよね!」
「沙々波さんならどんな髪型にされても世界一素敵ですよ」
「おおきにやれ。お世辞でも嬉しいわ」

 過剰なぐらいだが素直に好意を示す二人の言動は未だに照れ臭くて、沙々波ははにかんだように微笑んだ。花が綻ぶような可憐な笑みに、海月も亜玖登も黄色い悲鳴をあげる。

「沙々波さん! なんでこんな可愛いんですか! 後光が差していらっしゃる……まさに地獄に菩薩……!」
「もーお世辞じゃないっていつも言ってるでしょ! もう宇宙一可愛い!まさに天使!」

 きゃぴきゃぴの桃色的悲鳴を通り越して蛍光色的音声で騒ぐ二人だが、これもいつもの事。沙々波は一人冷静に時計を見て「あっ」と声をあげた。

「海月ちゃん、亜玖登くん、子供らそろそろ学校から帰ってくるわ」
「え、もうそんな時間!?」
「アクト、シュシュ決まった?」
「うん。今日は清楚な白のお花模様のレース!」
「最高に沙々波さんにお似合いです!」
「白は沙々波ちゃんの髪に映えるからねぇ」

 海月の長い指先が器用に沙々波の髪をポニーテールにしてまとめ、可憐なシュシュを結ぶ。

「完成しました」
「おおきに、スッキリしたわ」

 シュシュは亜玖登が製作した物の一つで毎日違い物をセレクトしてくる。髪を結わうのは海月の担当だ。彼らは、愛する女のその髪の毛一本まで愛していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...