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ピアス【少し昔】
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「穴、だいぶ安定したんじゃない?」
大学生になって初めてピアスを開けてから、暫らく経った。
「茜ちゃん、結構ビビってたよなー」
ケラケラ笑うキースの頬を軽く抓る。ビビっていたのがバレていた事に恥ずかしさを感じながら手入れをしていると、ふいに手が伸びてきた。
「変えないの? ピアス」
「変えたいですけど……」
茜の一つ前の席に座ったキースが茜のピアスをいじる。今月は欲しい書籍が出るし、一昨日壊れたスキャンカットも買い直したいし、現在の金銭的に厳しいのだ。
(よし、消毒完了)
消毒が終わったピアスホールにピアスを通しながらうーんと唸ったまま黙りこんだ茜に、キースはイイコト思い付いたと笑った。……彼の『イイコト』というのが茜にとっての『イイコト』とは限らない。
「何ですか?」
とりあえず話だけは聞いてみようと、先を促す。するとキースは自分の耳についていた黒い輪っかになっているピアスを外した。それは彼の持っているピアスの中でも、茜が密かに気に入ってるデザインだ。
「これ!」
ずいっと突き付けられたそれを戸惑いながらも受け取る。掌でコロリと転がるピアスは、やっぱりこれいいなと思う。黒い輪っかの部分に英語が細かく彫ってあるのだ。
「茜ちゃんにあげるよ」
へらりと笑ったキースは勝手に茜のピアスを外しにかかる。するりとピアスホールから抜き取られたシンプルなシルバーは彼の掌に収まった。
「え、いいんですか?」
「別に、安モンだし?」
「嬉しいですけど催促したみたいで……」
「んじゃーさ、これと交換。なっ?」
笑うキースの掌には茜がさっき外したばかりのシルバーのピアス。ピアッサーに最初から付いていた、本当にありふれた物なのに。
「でも、」
「いーからいーから」
言いかけた言葉はさらりと遮られた。するりと耳にかかる髪を掻き上げられて、まだ小さなピアスホールにピアスの通る感覚が訪れる。
「ほら、やっぱ似合う」
かちりと小さな音がして、キースの手が離れていく。そこを指先で撫でるとヒヤリとした。ニコニコと機嫌良さそうなキースはもう片方のピアスを取りながら更に笑みを濃くした。
彼によって付けられたもう片方も茜の耳で揺れる。黒いリングが、まだ色んなピアスを試した事のない茜には、少し重く感じた。
「っし、できた!」
満足げに笑うキースが茜のピアスを掌で遊ばせる。やっぱり申し訳ないなと指先で黒の輪を撫でながら彼を見上げる。
「やっぱり申し訳ないですよ、私のピアスだけじゃ」
「そ? 別にいーんだけど」
「明日、何か作ってきます」
「んー、じゃあさ……」
ぐっと近付いた距離に、瞼を閉じる暇もなく奪われた熱。掠めるように触れるだけのそれをして離れたキースの顔はまるで子供がイタズラに成功したような――。
大学生になって初めてピアスを開けてから、暫らく経った。
「茜ちゃん、結構ビビってたよなー」
ケラケラ笑うキースの頬を軽く抓る。ビビっていたのがバレていた事に恥ずかしさを感じながら手入れをしていると、ふいに手が伸びてきた。
「変えないの? ピアス」
「変えたいですけど……」
茜の一つ前の席に座ったキースが茜のピアスをいじる。今月は欲しい書籍が出るし、一昨日壊れたスキャンカットも買い直したいし、現在の金銭的に厳しいのだ。
(よし、消毒完了)
消毒が終わったピアスホールにピアスを通しながらうーんと唸ったまま黙りこんだ茜に、キースはイイコト思い付いたと笑った。……彼の『イイコト』というのが茜にとっての『イイコト』とは限らない。
「何ですか?」
とりあえず話だけは聞いてみようと、先を促す。するとキースは自分の耳についていた黒い輪っかになっているピアスを外した。それは彼の持っているピアスの中でも、茜が密かに気に入ってるデザインだ。
「これ!」
ずいっと突き付けられたそれを戸惑いながらも受け取る。掌でコロリと転がるピアスは、やっぱりこれいいなと思う。黒い輪っかの部分に英語が細かく彫ってあるのだ。
「茜ちゃんにあげるよ」
へらりと笑ったキースは勝手に茜のピアスを外しにかかる。するりとピアスホールから抜き取られたシンプルなシルバーは彼の掌に収まった。
「え、いいんですか?」
「別に、安モンだし?」
「嬉しいですけど催促したみたいで……」
「んじゃーさ、これと交換。なっ?」
笑うキースの掌には茜がさっき外したばかりのシルバーのピアス。ピアッサーに最初から付いていた、本当にありふれた物なのに。
「でも、」
「いーからいーから」
言いかけた言葉はさらりと遮られた。するりと耳にかかる髪を掻き上げられて、まだ小さなピアスホールにピアスの通る感覚が訪れる。
「ほら、やっぱ似合う」
かちりと小さな音がして、キースの手が離れていく。そこを指先で撫でるとヒヤリとした。ニコニコと機嫌良さそうなキースはもう片方のピアスを取りながら更に笑みを濃くした。
彼によって付けられたもう片方も茜の耳で揺れる。黒いリングが、まだ色んなピアスを試した事のない茜には、少し重く感じた。
「っし、できた!」
満足げに笑うキースが茜のピアスを掌で遊ばせる。やっぱり申し訳ないなと指先で黒の輪を撫でながら彼を見上げる。
「やっぱり申し訳ないですよ、私のピアスだけじゃ」
「そ? 別にいーんだけど」
「明日、何か作ってきます」
「んー、じゃあさ……」
ぐっと近付いた距離に、瞼を閉じる暇もなく奪われた熱。掠めるように触れるだけのそれをして離れたキースの顔はまるで子供がイタズラに成功したような――。
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