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寮
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蒼崎聡俊は寮の廊下の角で一人、大層困っていた。
(どうしよう……)
(何なんだアレは!)
叫んで吐き出してしまいたい衝動を、ひとまず腹に押し込んだ。聡俊はまたちらりと角から半分だけ顔を出して、角から二つ先の(角から手前の部屋は空き部屋だ)部屋を見た。彼がなぜそんなストーカーもどきな事をしているのか。それは、なぜか自分の部屋の前に、巫女姿の女が立っているせいだ。足元まで茫茫と伸びている長い髪のせいで顔は覗えないが、どこからどう見ても普通の女ではない。
(人間……じゃないよな)
第一、何の知らせもないのに異性が男子寮にいるはずが無いのである。仮に普通の女子がいたとしても話しかけ難いが、あのような異様な雰囲気をバンバン出しているならば、尚更だ。
(このままじゃ、部屋に入れない)
(いっそここから花野を呼んでみようか)
花野というのは彼の同室者だ。まあ彼が帰っていればの話だが……聡俊がうんうん悩んでいれば、不意に女に動きがあった。気付かれたかと角から咄嗟に顔を引っ込めて、聡俊は眉毛と息を顰める。
(もし気づかれて、向かってこられたらどうしよう)
(だからってこのままじゃ……)
頭を抱えるしかない。人間なのかも人外なのかも判らない女と、なるべく関わり合う事はしたくなかったのだ。それからしばし、時が過ぎた。
(もう、大丈夫かな?)
いない事を願いつつ、聡俊は恐る恐る角から顔を出してみる。残念、女はまだそこにいた。そのままそこにいただけで無く、状態は多少変わっているようだった。まず、首が大きく前に傾いていて、流れた髪の隙間から白い首筋が見える。その首筋には黒ずんだ小さな円形の斑模様がたくさん浮いていて、その周りは微かに赤く染まっていた。
骨と皮だけのような細い両手はドアノブにかかり、戸を開けようとしているかのようにがたがたと揺らしている。その振動でか、首は前後に小さく揺れつつ更に傾いてきて、ついに後ろに落ちてしまった。逆さまになった頭部が見える。聡俊の視点からでは左にだが。
(うわぁっ!)
長く、しかも量の多い髪が歪んだ曲線を描いて床に落ちる。だが、首は床に落ちなかった。どうやら皮一枚で繋がっているようだ。聡俊は再び、角に自分を隠した。
(やっぱ、人間じゃない)
最悪だ。自らの部屋の方を気にしつつ、聡俊は頭を抱える。
(何だってあんな化け物がいるんだ……)
そうしてまた、ちらりと角から顔を覗かせた聡俊の肩に、手が置かれた。
「わぁあっ!」
唐突なそれに驚き、おもわず声を上げて彼は飛び退いた。それに対して彼を振り向かせたのはれっきとした人間で――張本人の雛菊春光は目を丸くする。
「ソウ、どしたんじゃ。そないに驚いて」
怪訝そうな顔をする天然パーマの友人に、聡俊は暫らく口をぱくぱくさせて固っていたが、ふと我に返って角に隠れる。友人の挙動不審な様子に、春光は今度は首を傾げた。
「部屋の前に、化け物がいるんだよ」
「ほう」
聡俊の緊迫に満ちた言葉に、友人はあっさり返した。化け物がいると聞いたばかりだというのに彼は恐れる様子も無く(恐怖心より好奇心が先攻したらしい)、躰も顔も隠さずに部屋を覗き見た。その行動に驚いた聡俊は目を見開き、慌てて友人の腕を掴んで死角に引き戻そうとしたが、その前に振り返った彼は平然と言う。
「廊下には何もおらんき」
「え?」
その意外な言葉に、聡俊が思わず角から顔を出して部屋を見ると。確かにそこには誰も何もいなかった。
「本当だ……いつの間に……」
聡俊が呟いた時、春光はこう続けた。
「蛍光灯にぶら下がっちょるがな」
その時、タイミング悪く聡俊は顔を上げていた。だから蛍光灯に長い髪を絡み付けてブランコよろしく揺れている女の生首と、しっかり確認できた。
(どうしよう……)
(何なんだアレは!)
叫んで吐き出してしまいたい衝動を、ひとまず腹に押し込んだ。聡俊はまたちらりと角から半分だけ顔を出して、角から二つ先の(角から手前の部屋は空き部屋だ)部屋を見た。彼がなぜそんなストーカーもどきな事をしているのか。それは、なぜか自分の部屋の前に、巫女姿の女が立っているせいだ。足元まで茫茫と伸びている長い髪のせいで顔は覗えないが、どこからどう見ても普通の女ではない。
(人間……じゃないよな)
第一、何の知らせもないのに異性が男子寮にいるはずが無いのである。仮に普通の女子がいたとしても話しかけ難いが、あのような異様な雰囲気をバンバン出しているならば、尚更だ。
(このままじゃ、部屋に入れない)
(いっそここから花野を呼んでみようか)
花野というのは彼の同室者だ。まあ彼が帰っていればの話だが……聡俊がうんうん悩んでいれば、不意に女に動きがあった。気付かれたかと角から咄嗟に顔を引っ込めて、聡俊は眉毛と息を顰める。
(もし気づかれて、向かってこられたらどうしよう)
(だからってこのままじゃ……)
頭を抱えるしかない。人間なのかも人外なのかも判らない女と、なるべく関わり合う事はしたくなかったのだ。それからしばし、時が過ぎた。
(もう、大丈夫かな?)
いない事を願いつつ、聡俊は恐る恐る角から顔を出してみる。残念、女はまだそこにいた。そのままそこにいただけで無く、状態は多少変わっているようだった。まず、首が大きく前に傾いていて、流れた髪の隙間から白い首筋が見える。その首筋には黒ずんだ小さな円形の斑模様がたくさん浮いていて、その周りは微かに赤く染まっていた。
骨と皮だけのような細い両手はドアノブにかかり、戸を開けようとしているかのようにがたがたと揺らしている。その振動でか、首は前後に小さく揺れつつ更に傾いてきて、ついに後ろに落ちてしまった。逆さまになった頭部が見える。聡俊の視点からでは左にだが。
(うわぁっ!)
長く、しかも量の多い髪が歪んだ曲線を描いて床に落ちる。だが、首は床に落ちなかった。どうやら皮一枚で繋がっているようだ。聡俊は再び、角に自分を隠した。
(やっぱ、人間じゃない)
最悪だ。自らの部屋の方を気にしつつ、聡俊は頭を抱える。
(何だってあんな化け物がいるんだ……)
そうしてまた、ちらりと角から顔を覗かせた聡俊の肩に、手が置かれた。
「わぁあっ!」
唐突なそれに驚き、おもわず声を上げて彼は飛び退いた。それに対して彼を振り向かせたのはれっきとした人間で――張本人の雛菊春光は目を丸くする。
「ソウ、どしたんじゃ。そないに驚いて」
怪訝そうな顔をする天然パーマの友人に、聡俊は暫らく口をぱくぱくさせて固っていたが、ふと我に返って角に隠れる。友人の挙動不審な様子に、春光は今度は首を傾げた。
「部屋の前に、化け物がいるんだよ」
「ほう」
聡俊の緊迫に満ちた言葉に、友人はあっさり返した。化け物がいると聞いたばかりだというのに彼は恐れる様子も無く(恐怖心より好奇心が先攻したらしい)、躰も顔も隠さずに部屋を覗き見た。その行動に驚いた聡俊は目を見開き、慌てて友人の腕を掴んで死角に引き戻そうとしたが、その前に振り返った彼は平然と言う。
「廊下には何もおらんき」
「え?」
その意外な言葉に、聡俊が思わず角から顔を出して部屋を見ると。確かにそこには誰も何もいなかった。
「本当だ……いつの間に……」
聡俊が呟いた時、春光はこう続けた。
「蛍光灯にぶら下がっちょるがな」
その時、タイミング悪く聡俊は顔を上げていた。だから蛍光灯に長い髪を絡み付けてブランコよろしく揺れている女の生首と、しっかり確認できた。
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