壺中日月長(3/14更新)

狂言巡

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説得【軽度の残酷表現アリ】

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 鬼威の配下である入道は、童女が庭の隅で泣いているのを見つけた。どうしたのかと聞けば、少女の世話を任されている女中がどこからか迷い込んだ猫の親子を見つけ、仔猫を譲ってくれたのだという。そして可愛がっていた仔猫ソレがいなくなってしまったのだ。同族が居ない彼女の慰めなればと思ったのだろう。
 大層ヤキモチ妬きではあるが、鬼威も己の配下と交流する事に口出しはしない。だから入道も黙認はしているが、ただの動物を愛でるなど、魑魅魍魎が跋扈するシマで控えた方がいい趣味だと思う。逃げてられたのは行幸とすらいえた。最悪、小腹が空いた誰かが喰ってしまったのかもしれない。

「育てておっきなったら、鬼威さんと一緒に喰べよー思てたのに……」

 メソメソと泣いている彼女に、入道はかける言葉が見つからない。挙句の果てに「可愛いかったから、大切な相手と食べたかった」と付け加えてくる。今のところは人の仔である童女に、入道は「これはダメだ。人間の世界で育てない方が良い」と確信した。こうなると仔猫の行方は逃げ出したのではなく、可愛がっている最中に彼女がうっかり胃に収めてしまった可能性まで浮上した。入道が深々と溜め息をつくと、小さな子供は薄い肩をますます頼りなく竦めた。どうにも愛情に飢えている様子は以前から察していた。人ならざる存在との共同生活が決して嫌でも怖くもないのだろうが、寂しいのだろう。

「お前がどんなに好いて可愛がっても、食べればいなくなる。触れる事も話す事も出来なくなる。一時的にお前の腹が満たされるだけで、傍に居てくれない。解るな?」

 まさか大妖怪の自分がこんな倫理的な事を口にする日がくるとは思わなかったが、教えないわけにはいかない。好きな相手を食べる性癖を抱えたならば、種族の交流どころではなくなる。童女は涙をポロポロと零しながらも頷いたのを見て、入道は一先ず理解した事に安堵した。正直そこの基本を理解できないまま、とんだイカレた思考を育てて異食狂いに走られたならば、入道もどう矯正していいか判らない。褒める代わりに「何か甘い物でも作らせるから、一緒に来い」と言うと、子供も嬉しそうについてきた。
 おずおずと伸ばされた子供の小さな手は、爪先が血で汚れているので、手を洗わせる事が先だろう。人間と猫のような体格差では、子供がどんなに背伸びをしても手を繋ぐ事など出来ない。それに気が付き、しょんぼりと項垂れるので、また溜め息を吐く。肩に乗せてやると、童女はようやく笑った。
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