ミズノカイダン(9/17更新)

狂言巡

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 あの崖からしか見えない船が海上に存在するという。助かった人は一様に「乗ってみたかった」と口惜しがるのだ。





 あの人、ずっと海を見てるな。まさか身投げする気じゃ……。声を掛けると振り向いた女の顔を見て、男は悲鳴を上げて逃げ出す。先月心中したカップルの片割れと瓜二つだったのだ。





 事故があった海にね、出るんですよ。白い服に小さな小舟……いえ犠牲者の方じゃなくて、関係者の方々。賠償するしないの裁判真っ只中に雲隠れしちゃって、海外に逃げたとか言われてますけど……。





 実家は代々漁師の夫(三男)から聞いた話。一番上の兄が父と共に漁に出ていた時の事。少し離れた場所で止まっている船から、誰かが手を振っている。海賊船ではなさそうだ、何かトラブルであったのかと近づいた。

「ダメだ戻れ!」

 双眼鏡で確認していた父が叫んだ。陸に着いて船から降りてからもまだ顔が青いままの父曰く。

「人形だったよ、げらげら笑ってる」





 その町には、海を向いている、髷を結った珍しいお地蔵様があった。あれは老人以外の男は近づいちゃいけないよ。お地蔵様の視線の先に、岩礁があるだろう。でないとあそこで死ぬまで笑って過ごす羽目になる。その昔、腹いせに殺された海女の祟りさ。





 テトラポットの上に女が乗って、海面を凝視している。

「子供とはぐれてしまったの」

 先月、母が子を抱えて心中したのだ。奇跡的に子は助かった。

「連れて行くのよ今度こそ」





 どんな天気でも息子は毎日海で泳いでる。目が遭うと睨まれる。もう苦しくないでしょ、許してよ。





 船が転覆して海に投げ出された妹は命は助かったが、二度と声が出なくなってしまった。海に奪われたのさ。今日も潮騒から懐かしい声が聞こえる。





 某海岸でキャベツを入れたラーメンを食べていると、ペットボトルが流れてきた。ほんの気紛れでキャベツ入りラーメンを詰めて再び海に流した。数日後、ペットボトルに『キャベツ』『ラーメン』と書かれた紙が入った状態でしょっちゅう流れてくるようになったと人伝に聞いた。俺のせいかな。
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