愛着スタンピード(1/13更新)

狂言巡

文字の大きさ
16 / 25

【朝顔と藤2】光芒

しおりを挟む
 月を眺めて一服している槿の真後ろに座り込み、肩口に額を押し付ける。

「どうしたのヒカルちゃん」
「槿さん、あんまり私にしないでほしいんです」

 それを聞いた槿は煙草を灰皿に置き、空いた手で肩に置かれたヒカルの頭をそっと撫でた。この手はいつだってヒカルを甘やかす。これ以上、自分を駄目にしないで欲しい。

「どうして?」
「私はね、一人で地味に生きてあっさり死ぬ予定だったんです。大叔父様いなくなちゃったし」

 未だ初恋を引きずっている恋人に、槿は何も言わない。しかし、彼女の頭を撫でる手は止めなかった。

「それなのに槿さんと会っちゃった」

 ヒカルには眩しすぎるくらいに真っ当な彼が、事ある毎に自分を呼ぶのだ。珍しい動物が見た。あの料理が美味しかった。今度一緒に食べに行こう。一緒にテレビ観ていいか。今度出かけないか。槿はヒカルと色々な事を共有したかった。まるで殻に引き籠もったまま朽ちていこうとしている自分を現世に引き戻すかのように。始めは強引さに負けてしぶしぶ付き合っていた。しかし、それがいけなかった。

「気が付いたら、私一人じゃ生きられなくなってた」

 楽しい事、腹が立つ事、美味しい物、面白い事、何かあれば槿と分かち合いたいと思うようになっていた。

「このままじゃ私、槿さんに捨てないでって縋りたくなっちゃう。――だからもうこれ以上、優しくするのは辞めて欲しいんんです」

 ツンと鼻の奥が痛むのを感じる。いい歳した大人が泣くなんてみっともない。愚図つくヒカルとは対照的に、槿は上機嫌そうに肩を揺らして笑った。一頻り笑うと、グイグイと後ろに座るヒカルに体重をかけ、遂にバランスを崩した彼女を腕に収めた。

「ヒカルちゃん、幸せは怖いものじゃないぞ。それに、一人で生きていたいと考えていた君を変えたのは、俺なんだ。君が俺に縋ってくれるのはもちろん嬉しい」

 自分の背に回されようとしていた手に己の指を絡ませる。そしてヒカルの顔を覗き込み「それから」と続けた。

「俺の事好きなのはちゃんと解ってるけど、もっと言ってくれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...