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デート【椛と藤】

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「駄目……これも駄目かな……これも……駄目にも程がある……」
「もしかしなくても俺は今貶されているのか?」

 男女二人で遊園地に行く事は、別に世間一般的にマイナーな事ではない。ただ紅葉にとって子供の時さえ無縁だった場所に、中年期に差し掛かった年頃に遊びに行く展開は微塵も想定していなかった。正直場違いだと思って、居た堪れなさすらある。それを前日、楽しみのあまりに二十時に寝て五時半に起きた恋人には伝わらない。

「いや要らねぇよこれ……自分の分だけ買え」
「私だけ被ってたら浮かれポンチみたいじゃないですか。紅葉さんも一緒に浮かれポンチになって。郷に入っては郷に従え、ですよ」

 真剣な目付きでほとんどぬいぐるみに近い帽子を吟味するヒカルの頭上に、きちんと栗鼠の顔を模した帽子が鎮座していた。

「ネズミじゃなくていいのか?」
「こっちの方が可愛いから」

 ちょいと栗鼠の両耳を摘んで満足そうに微笑むヒカルの姿に、思わず生唾を飲み込んでしまい、喉が鳴る。身長差があるので気づかれなかったようだ。こういうあどけない仕草に自分は弱いんという事を判ってほしくなったが、警戒されて見られなくなるかもしれないので我慢する。ふと、ヒカルの頭に乗っている栗鼠の色違いが棚に並んでいる事に気付く。眉間に皺を寄せて吟味するヒカルからそっと離れて大きめのサイズを一体を掴み、頭に乗せる。まぁ結構悪く仕上がりだ。

「俺はこれでいい」
「あ、ちょ、何で勝手に」
「いいじゃねぇか、お揃いで」

 一瞬にして顔を赤く染めるヒカルが面白くて、二つまとめてレジへと持っていく。店を出れば皆一様に魔法にかけられた態で過ごすのだろう。覚悟を決めて歩む木漏れ日の下は存外優しかった。
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