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翁草の照準2

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「――叔父さん、この子が私達の娘です」

 篝火は当時三歳だった彼女を腕に抱くまで、気付かなかった。

「初めまして、私は大宮篝火。君のお祖父さんの弟だよ」

 目線を合わせるようにしゃがみ込んで、手の甲に口付ける。一瞬驚いたように目を開いて、そしてくすぐったそうに笑顔を浮かべた。まるで、少女の周りに本当に花が咲いたのかと思った。ろくに言葉を交わさないまま、笑顔だけで篝火を魅了した。嬉しいのと同時に、苦しい気持ちになるのは、どうしてなのだろうか。

「君の名前を私に教えてくれるかな?」

 躊躇うように愛らしい眉を寄せ、そして後ろの母に顔を向ける。了承の意味と解釈しても良いのだろう。母親はにっこりと笑い、そして頷いた。

「私の名前はね、」

 彼女の名前を忘れない。ずっと、永遠に。愛しい運命の番を、けっして忘れはしない。だから、だから。君の笑顔で、私を満たしてくれ。彼女が傍に居る事で自分は退屈から救われる。そして彼女の為に、自分は何が出来るだろうか。
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