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パスタ【婚約中】
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使用人曰く、真白が嫁いでから旦那様は仕事以外での外出が増えたという。こういう何気ない外食も、立派な変化だそうだ。今日訪れたのは最寄り駅の近くにあるパスタ料理屋だった。流石日曜の昼なので客の出入りは頻繁だが、全席カーテンで隔離され、店内に流れる落ち着いたBGMのおかげでさほど煩わしいとは感じられない。
「……パスタも箸で食べるんですね」
「そうだよ」
自分が頼んで運ばれてきたカルボナーラをくるくると銀色のスプーンとフォークで巻き上げながら真白は尋ねる。パスタはそもそも、日本料理ではない。イタリア料理に詳しいわけではない真白が本当に正式な食べ方だと確定できる食べ方はなかったが、少なくとも箸で食べるのが禁じられているという事はないだろう。
しかし、シュアンは店員に「箸をもらえるか」と尋ね、店員は黒塗りの箸を一膳運んできてくれた。店側としては、そう珍しくもないのかもしれないとは思ったものの、真白の中には違和感がベトリと張り付いた。今日は何が目の前で起きるだろうかと思わせるそれは、期待というモノにも近かった。べとりといえば、クリーム系のソースは、店によってはベトリとしている。麺によく絡まるように濃厚に作られているならば、箸で食べてもさほど食べ難くはないのかもしれなかった。
真白は気を取り直してシュアンのその皿を見つめる。そら豆、海老、サイコロ大に切られたトマトがソースにまみれつつも顔を覗かせていた。成る程、女性客をターゲットにした店の考えそうな事だ。脂っこい物は避け、さっぱりと仕上げるのが流儀らしい。これを箸で食べるのか。ソースはスープ状に近く、サラリと滑って落ちそうなこれを。真白の口にカルボナーの黒胡椒がぴりりと広がった。
シュアンの箸は、真白のそんな驚愕など知る由もなく、何の迷いも見せずに皿へと向かっていく。箸の先はさらりと開かれて、苦もなくパスタを捉える。嘘でしょと思う真白の目には、ただ静かに食されていくトマトクリームのパスタが映った。優雅に、信じられないと思う程よどみなく麺は薄い唇に運ばれていく。シュアンが箸を使って口に運び、咀嚼をして嚥下するまでの一連の動きから、真白は目を逸らせなかった。指の一本さえ動かせずに、呆然とそれを見つめていたのだ。
「……真白さん、さめるぞ」
「え、はい……」
返事しながら真白はくるくると銀色のフォークを回した。シュアンのパスタよりいくらか太い麺はもう既に絡まりきっているそれは、回したところで意味が無い。真白の頭は、今かなり空回っていた。思わず見惚れる程の美しい所作。食べている物がパスタなのに、使う道具が箸というチグハグ感。それらが、真白の脳内を取り巻いて渦のようになっていた。
「……シュアンさん、パスタ美味しいですか?」
「まずくはないな」
美味しかったんですね、シュアンさん天邪鬼ですもんねと真白は口に出さず確認する。『鴇シュアン』の項目の全てを理解したいとは決して思っていなかったが、まさかこんな形で『理解できない』状況に陥るとは思っていなかったのだ。自分は何故、変わり者の夫の、箸でトマトクリームパスタを食べるというシチュエーションに見惚れるなどという行為をしてしまったのか。思わず、唇から笑みが零れた。
「……パスタも箸で食べるんですね」
「そうだよ」
自分が頼んで運ばれてきたカルボナーラをくるくると銀色のスプーンとフォークで巻き上げながら真白は尋ねる。パスタはそもそも、日本料理ではない。イタリア料理に詳しいわけではない真白が本当に正式な食べ方だと確定できる食べ方はなかったが、少なくとも箸で食べるのが禁じられているという事はないだろう。
しかし、シュアンは店員に「箸をもらえるか」と尋ね、店員は黒塗りの箸を一膳運んできてくれた。店側としては、そう珍しくもないのかもしれないとは思ったものの、真白の中には違和感がベトリと張り付いた。今日は何が目の前で起きるだろうかと思わせるそれは、期待というモノにも近かった。べとりといえば、クリーム系のソースは、店によってはベトリとしている。麺によく絡まるように濃厚に作られているならば、箸で食べてもさほど食べ難くはないのかもしれなかった。
真白は気を取り直してシュアンのその皿を見つめる。そら豆、海老、サイコロ大に切られたトマトがソースにまみれつつも顔を覗かせていた。成る程、女性客をターゲットにした店の考えそうな事だ。脂っこい物は避け、さっぱりと仕上げるのが流儀らしい。これを箸で食べるのか。ソースはスープ状に近く、サラリと滑って落ちそうなこれを。真白の口にカルボナーの黒胡椒がぴりりと広がった。
シュアンの箸は、真白のそんな驚愕など知る由もなく、何の迷いも見せずに皿へと向かっていく。箸の先はさらりと開かれて、苦もなくパスタを捉える。嘘でしょと思う真白の目には、ただ静かに食されていくトマトクリームのパスタが映った。優雅に、信じられないと思う程よどみなく麺は薄い唇に運ばれていく。シュアンが箸を使って口に運び、咀嚼をして嚥下するまでの一連の動きから、真白は目を逸らせなかった。指の一本さえ動かせずに、呆然とそれを見つめていたのだ。
「……真白さん、さめるぞ」
「え、はい……」
返事しながら真白はくるくると銀色のフォークを回した。シュアンのパスタよりいくらか太い麺はもう既に絡まりきっているそれは、回したところで意味が無い。真白の頭は、今かなり空回っていた。思わず見惚れる程の美しい所作。食べている物がパスタなのに、使う道具が箸というチグハグ感。それらが、真白の脳内を取り巻いて渦のようになっていた。
「……シュアンさん、パスタ美味しいですか?」
「まずくはないな」
美味しかったんですね、シュアンさん天邪鬼ですもんねと真白は口に出さず確認する。『鴇シュアン』の項目の全てを理解したいとは決して思っていなかったが、まさかこんな形で『理解できない』状況に陥るとは思っていなかったのだ。自分は何故、変わり者の夫の、箸でトマトクリームパスタを食べるというシチュエーションに見惚れるなどという行為をしてしまったのか。思わず、唇から笑みが零れた。
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