白黒リスタート(2/24更新)

狂言巡

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残念な旦那様(夫婦期)

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 私は他の人より旦那様が不器用なだけだと知っているつもり。いくら達観して厭世的に見えようとも、プライベートではとても幼い顔をしている事も屋敷の外にいる人より知っているつもり。そんな風に見えないのにお菓子作りが好きで、作った物を嬉しそうに食べたりドヤ顔でお裾分けしてくれる姿や真白が淹れたお茶を美味しいと飲んでくれる彼が大変複雑な事情で捻くれているがとても優しい人だという事も知っている。だから真白は年の離れた夫――鴇シュアンの妻である事を誇りに思っているのだ。
 でも。テーブルに並べられた赤い首輪や手錠、その他大人の玩具としか言い表せないような器具達に愛だけでは乗り越えられない壁があるのだと知った。ええ確かに先月自分は二十歳を迎えましたけれど。

「……駄目か」

 残念そうに問い掛けられた言葉に大きく頷き返す。いくらシュアンの事を心底大好きでもこういう性癖にはついていけない。けれど見て判る程に漂う哀愁と器具を黙黙と集めていく姿に少し罪悪感が湧いて、それ以外の事なら何でもしますと口にすればシュアンは子供のように目を輝かせて真白を見つめてくる。

「真白さん、キスをしてもいいか?」
「はい、どうぞ」

 花が咲いたように愛しい笑みを焼き付けるため、瞼を下ろす。唇の触れ合う時はいつだって幸せだけれどまだ恥ずかしくて、自然と瞼に力がこもってしまう。シュアンが小さく息を吐いたのを合図に膝の上に置いた拳に力を込めると、ひやりとしたものが首へ押し当てられた。そして無機質な音が届いたと同時に温もりが離れていく。何事だろう、嫌な予感に胸を覆われながらシュアンをそろりと窺うと、やはりというか、その視線は熱く首へと注がれていて。恐る恐るテーブルへ視線を向け、辺りを見渡す。けれど一際目立っていたあの赤い首輪が見当たらない。

「あの、シュアン、さん」
「真白さん……!」

 加減という言葉を忘れてしまったらしいシュアンは力強く真白を抱きしめ、感極まったように先月買って頂いたリボンに頬を擦り寄せる。苦しさにもがいてみても立派な体格のシュアンに敵うはずがなくて、耳元に掛かる吐息と愛の言葉がなけなしの力を奪っていく。
 唯一シュアンを制止出来るだろう従姉はいつお散歩から帰宅されるのか判らない。次点でシュアンの意識を移動させられるのは古株の使用人(ただし制止可能か微妙)くらいのものだろう。どうすれば正気を取り戻して下さるのか、真っ白な天井をぼんやりと見上げながら、真白はさっきのキスの甘さを少し恋しく思った。
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