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【学生時代】ケーキ
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話を聞きながらケーキを食べ進めていた茜は、しっとりした生地の断面から現れた暗めのオレンジ色の物体に思わず沈黙した。改めて口の中で味を確かめてみるとメイプルを混ぜたシンプルなパウンドケーキだと思っていた物の中に、干した果物特有の甘味を感じる。咄嗟にクッキーの種類を確認するが、そちらはチョコチップやジャム、ココアなど数種類あるだけで、ドライフルーツの類は使われていない。だが、このパウンドケーキには使用されていた。
ドライフルーツの類はお菓子によく混ぜられる物だ。店で売られる物にだって入っている事が多い。お菓子だけではなく、パンや物によっては通常の料理にも幅広く登場する存在だった。それの何が問題かというと、茜の数少ない嫌いな番付にナッツとドライフルーツ(だから給食のドライフルーツ入りパンは食べずに持ち帰っていた)がランクインしているのである。
茜はもう高校生なので、とんでもない失敗料理とか生理的に無理でない限り嫌いな食べ物だって我慢して食べられる。ただ、それは小さいとはいえ水気のないフルーツを丸ごと飲み込むという手段をとるわけで……。更に一番の問題は、現在茜の皿の中でこちらを嘲笑うようにして顔を見せたドライフルーツだ。どうやって隠れていたのだという程に大きさのあるドライフルーツを無理に飲み込もうとすれば喉に引っかかるかもしれない。
しかし繰り返すが、嫌いな食べ物ごときで大騒ぎするには年齢はとっくにすぎている。それに現在の茜は蛍が見たいと叔父の明波にねだった結果、連れられて別荘に訪れた身だ。ワガママは避けるべきだろう。ギリギリ大目に見てもらえそうではあるが、嫌いな食べ物への忌避より、羞恥が勝った。覚悟を決めてドライフルーツに立ち向かおうとした茜は自分へ向けられる視線に気が付いた。
「アタシはお砂糖とミルクどっちも~」
「せっかくの香りが台無しだ」
「何よ、ルビーちゃんには選ばせてたのに」
「レディファーストってやつだよ」
「アタシが頭数に入ってないじゃないのよ~」
そんな明波と烏羽のやり取りが聞こえる中、すぐ隣にいる秋津がカップに口をつけたままじっと茜を見ていた。視線がぶつかり、クスッと喉で笑われて、茜は頬が熱くなるのが判った。ケーキに入っている物の扱いに悩んでいたのをバッチリ見られていたのだ。誤魔化そうとフォークでドライフルーツごと生地を突き刺せば、一口にはやや大きく切り取ってしまう。それでも秋津以外に気付かれる前に一気に片づけるべきだと茜がフォークを持ち上げた時だった。
彼は自然な動作でカップを下ろし、体を僅かにこちらへ向けた。えっ何だろうと見上げた先で「あー」と秋津の口が開く。声は出していないが何をしているのか解って、茜は目を丸くした。すると早くしろとばかりに秋津がちょいちょいと指を動かす。我に返った茜が遠慮がちに彼の口元へとフォークを運べば、噛り付くように秋津の口の中にドライフルーツが消えて行った。
ドライフルーツの類はお菓子によく混ぜられる物だ。店で売られる物にだって入っている事が多い。お菓子だけではなく、パンや物によっては通常の料理にも幅広く登場する存在だった。それの何が問題かというと、茜の数少ない嫌いな番付にナッツとドライフルーツ(だから給食のドライフルーツ入りパンは食べずに持ち帰っていた)がランクインしているのである。
茜はもう高校生なので、とんでもない失敗料理とか生理的に無理でない限り嫌いな食べ物だって我慢して食べられる。ただ、それは小さいとはいえ水気のないフルーツを丸ごと飲み込むという手段をとるわけで……。更に一番の問題は、現在茜の皿の中でこちらを嘲笑うようにして顔を見せたドライフルーツだ。どうやって隠れていたのだという程に大きさのあるドライフルーツを無理に飲み込もうとすれば喉に引っかかるかもしれない。
しかし繰り返すが、嫌いな食べ物ごときで大騒ぎするには年齢はとっくにすぎている。それに現在の茜は蛍が見たいと叔父の明波にねだった結果、連れられて別荘に訪れた身だ。ワガママは避けるべきだろう。ギリギリ大目に見てもらえそうではあるが、嫌いな食べ物への忌避より、羞恥が勝った。覚悟を決めてドライフルーツに立ち向かおうとした茜は自分へ向けられる視線に気が付いた。
「アタシはお砂糖とミルクどっちも~」
「せっかくの香りが台無しだ」
「何よ、ルビーちゃんには選ばせてたのに」
「レディファーストってやつだよ」
「アタシが頭数に入ってないじゃないのよ~」
そんな明波と烏羽のやり取りが聞こえる中、すぐ隣にいる秋津がカップに口をつけたままじっと茜を見ていた。視線がぶつかり、クスッと喉で笑われて、茜は頬が熱くなるのが判った。ケーキに入っている物の扱いに悩んでいたのをバッチリ見られていたのだ。誤魔化そうとフォークでドライフルーツごと生地を突き刺せば、一口にはやや大きく切り取ってしまう。それでも秋津以外に気付かれる前に一気に片づけるべきだと茜がフォークを持ち上げた時だった。
彼は自然な動作でカップを下ろし、体を僅かにこちらへ向けた。えっ何だろうと見上げた先で「あー」と秋津の口が開く。声は出していないが何をしているのか解って、茜は目を丸くした。すると早くしろとばかりに秋津がちょいちょいと指を動かす。我に返った茜が遠慮がちに彼の口元へとフォークを運べば、噛り付くように秋津の口の中にドライフルーツが消えて行った。
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