手折られた天使の黙示録

大和菫子

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1章 We love, because He first loved us.

603



「ここが新しい部屋ね」




いきなりドアを開けたかと思えば、突然荷物を持って来いと登場したドSコンビのうちの茶髪の方。

白衣を着ているだけなのになぜかチャラいやつについて行くと、たどり着いた部屋は見覚えがあった。


少し歩いて曲がり角を曲がる道順。
ここ…
ユイトがいる部屋だ。


「くれぐれも馬鹿なことはしないこと。」

念を押すように僕の両肩を掴みながら、張り付いた笑みを向けてくる嫌がらせに、すぐさま心のシャッターを閉じる。

「…………」
無理やり目を合わせようと視界に入り込んでくる、鬱陶しいサディストのうちの一人を徹底的に無視していると、クスッと笑う声が後ろから聞こえた。

「だって。ソウタ、わかった?」

「ボク何もしないもーん」



振り向くとソウタとソウタの先生が連れ立っていた。

「ケイくん、一緒だね!やった!嬉しい!」


先生と繋いでいた手を未練無く離し、僕に抱きついてくる。


あの一件以来あんまり姿を見なかったけど、元気にしていたようだった。



「はぁ…問題児しかいないじゃんこの部屋」

「まとめて見られると思ったら楽かもよ?」

「えー、絶対なんかやらかすってコイツら」


ペシペシとソウタのおでこに打撃をくらわすチャラ男。

手加減しているのがわかっているからソウタも戯れている。




604号室

部屋のナンバープレートの下にある名前欄。

前は空白だったところにソウタと僕の名前がもうすでに書かれていた。




ガラッ


「コラー!」

「まだ何もやってねぇよ!!」
入ってすぐ怒声を浴びせる、医者に似つかわしくない行動に素早く反応したのはユイトだった。


「なんだ、まだか。」残念そうに当てが外れた、みたいな顔をする。

いの一番に入り込んだチャラ男は適当な椅子に座ってもう何もする気がなさそうだ。代わりに世話をして回るソウタの担当は何も気にせずテキパキ働いている。

「空きベッドで遊ばないの、荷物もどけて。そこソウタね。」

ユイトの隣にソウタがいくようだ。



「ケイはこっち。」

ボーッとつっ立っていたらグッと出口すぐのベットの方へ向かされる。

隣はカーテンが閉まっていて誰がいるかわからない。

寝てるのかな。



「いい?部屋では静かに過ごすこと。
はしゃがない、汚さない、イタズラしない!
悪巧みしないこと!」

「「はーい笑」」

「…」

「ケイは返事くらいしなさい」

コツンとあたる手の甲。ソウタにしたみたいに触れられるけど同じように反応はできなかった。















大部屋になったとて何をするでもない。


少しの荷物を棚に置いたらもうすることがなくなった。

勉強に使うだろうから、と端末も一緒に持ってきていたようで、手元に置ける位置に繋がれている。


また電話が鳴るのが嫌だから電源はついていない。

使う時だけにして引き出しにしまっておこう。


ついたままの充電ケーブルを引っこ抜き、一番上の引き出しを開ける。


「なぁ、ケイ!連絡先交換しようぜ」
「ボクも~!」

「…番号しか、わからない」

「え?電話番号しか知らないの?アドレスは?アプリは?使ってない?」

嘘だろー!初期設定も全然してないじゃん!と設定を促すポップアップをみて僕から端末を奪い取った。


「貸して!」


「テキトーにアプリおとしていい?」
「…?うん」

ちょっとよくわからないから、そのまま二人に端末を渡してやってもらおう。

「何にも入ってねー…俺らこれ使ってるから登録しとくぞ。」

「うわぁ、キーボード英語だ…あ、このアプリ入れときたい!」

「あー、コレな。」あ、コレもいるんじゃね?コレは?次々に追加されるアプリは何が何だかもうわからない。

パスワードを入力する画面のたび顔認証にかけられる。

毎日会うのにメッセージアプリなんか必要なのか?


「あ、ついでに先生たちの連絡先も入れとくねー」

それは別にいらないかな…

余計に興味をなくした僕を見かねてソウタが口実を作る。
「あったら便利だから、ね?お守りと思ってたらいいよ。」


「そう…」








移動してきたときはスカスカだった棚は教師が持ってきたテキストで埋まってしまいそう。

学校が始まるまであと数日。
ギリギリまで勉強させたい教師とアイツらの共謀で僕はここ数日、宿題にかかりきりだった。



数字が書けるように書き順のプリントや国語の音読、ハサミやノリを使う練習など、こんな宿題あるんだとなるようなものばかり。

(まるで幼児教育だ…出来ないからしょうがないけど)


教師の時間内で終わらなかったものは、手が空いている者が教えたり横で見守っている。

正直なところ、構わず放っておいてほしい。







答え合わせはできる限りしたいらしい。
意気揚々とペンを持ち、リズムよく赤丸が続く。
ほとんどミスもなく今日の分は終わった。


「やっぱり飲み込み早いな」

「やる気がないだけだろ?まだ3年生の内容だし。」

「漢字全般ダメだけどな」



次々にプリントの出来を覗きながら貶してくる暇人ども。一瞬聞こえた褒めた内容もすぐにかき消された。


「短期間でここまで出来たら十分だよねぇ?」

唯一褒めてくれるとソウタから聞いていた通り、なんでも甘い強面で渋い先生。

ここでは結構上の立場らしい。
すぐさま軌道修正するようにまとめ上げている。


「あ、そういえば繕西室長と鶴海科長帰ってくるそうだよ。」


「何ヶ月ぶりだ?」

「丸2ヶ月ってところだろうね」

「あーまた拾ってきた患者増えるのか…」

「こらこら…忙しいのも落ち着くはずだし、休み増えるからそんなこと言わないで、ね?」



新しい医者?
なんとなく偉そうな感じ。
何かあるごとにあの二人の名前が出ていたからきっとトップの人なんだろう。

もしかしたら…
話ができたらイギリスに戻れるかもしれない。

ふと浮かんだ淡い考えに少しだけ希望が見えた。
散らかった文房具を片付けながら、迎えにきたユイトとソウタと一緒に部屋へ戻る。



二人に聞いてみようかな…


「…さっき、だれかがもどるって聞いた。だれのこと?」

知ってるかとそう訊ねる。

繕西ぜんざい先生と鶴海つるみ先生のことでしょー?知ってるよ!」


「繕西先生はねー、熊みたいにおっきくて、でっかくてー力持ちで!前に腕にこう掴まって、グルグルーって回って楽しかった!」


「人柄とか聞いてんじゃないの?それ」


「あ、そっち?あのねーうーん、あ、野生のクマみたいに勘が鋭い!すぐ悪いことしたらバレるよ」
実体験だよ!っていい笑顔で言うソウタは怒られることに抵抗はないようだった。なんなら構ってもらえて嬉しいみたい。

「熊の印象強すぎだろ…
簡単に言えば、そうだなぁ、ここの一番偉い人。だな。」

「担当に文句あったら告げ口するといいぞ。大人しくなる笑」


「あとはープレイがすっごい上手い!!記憶無くすくらい気持ちいい!」

「おい、でけえ声で言うなよ…まぁ否定はしないけど。」

プレイ最重要なソウタがそう言うのだから相当なんだろう。

いつの間にかプレイさせられてしまわないよう気をつけないと。上手くて立場が一番上ならDomとしても位が高いはずだし、僕が元Domだって知られたら最悪、研究対象になってしまう。


「…ケイ?」

「あ、そうなんだ。ありがとう」

「?まぁ、まともな人だから大丈夫だぞ。デカいだけで。」

「やっぱユイトもそう思ってんじゃん!」

「あれは誰が見てもデケェよ!」





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