手折られた天使の黙示録

大和菫子

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1章 We love, because He first loved us.

マサキと南先生

うーん…頭につけたノリみたいなベタベタが取れない。

少し休んで遅めの夕食を取ったあと、
僕は大部屋に設置されている洗面台の鏡を見ながら、あっちこっちについた電極の跡と奮闘していた。



腕疲れてきた。
やっぱりお風呂入ろう。その方が早く取れそうだ。



そう思ったけれど、怪我して転院してそのまま入院…なんて思ってなかったら何もお風呂道具がない。




どうしようかな。

タオルもないし歯ブラシもない。
着替えもないことに気づいて慌てて両親にメールした。



もうすでに南先生から電話があったらしい。


明日入院に必要なものを持ってきてくれるらしい。
何時に来るの?と言ったら、
この病院は例外を除いてお見舞いができないんだって。親族でも危ない人がいたり、嘘をついて入られたら護れなくなるからだって。

しばらく会えないのかな…お父さんお母さんは大丈夫かな。僕がいない分ゆっくりして欲しい。


警察にお世話になったことも、心配させないように明るく、なるべく深刻にならないよう話した。

大体の事情はやはり警察から聞いたようで、僕が無事に専門の病院にいられることにすごく安堵していた。

両親はもう家は危ないからしばらく帰らず、お父さんの会社の近くのウィークリーマンションを借りながら新しい家を探してくれるって。




退院するころには新しい家かなぁ。



一気に変わった環境に気分が落ち込むかと思ったけれど、絶対安心な場所にいられるってだけで前向きになれるんだと知って、やっと心が休まる。



ほっと息をつける時間が久しぶり。
やさぐれた心が落ち着いて、今後のことも考えられるようになった。


同じ部屋の子もSubだから臆せず話しかけられるし、久しくいなかった友達も作れそう。




早速、同室になった子に教えてもらったコンビニに行くため、財布をポケットにしまいエレベーターへ向かう。

服も売ってるって言ってたなぁ…あんまり高くないといいけど。足りなかったらお母さんにアプリにチャージしてもらわないと。

少し明かりが落とされたエレベーターホール。

ここから降りてどこに行き着くのかわからないけれど、1階にあるらしいコンビニ。 

ちょっと暗いだけでまだ夜とは言えないけれど、一人で動いているだけで急に大人になったみたいに自由に感じる。




ちょっと緊張しながらポチッと真新しいボタンを押した。





ん?
押せてなかったのか反応しないボタンをもう一度押す。

一向に動き出さないエレベーターはシン…としていた。




もしかして動いてない?
うわ、どうしよう…。明日までこのままかなぁ。



目につく移動手段はここと階段くらい。

ここから階段かぁ…
体力は落ちたとは言え、剣道をやっていた時も階段ダッシュとかしていたからそこまで疲れないかな…。

ついてないなぁと階段のある方へ向かおうとした。



背後から早足で駆け寄ってくる足音。


「ごめんねー!そのエレベーター20時になったらもう動かないんだよ。何か用事だった?」



「あ、…南先生」

昼もいたのにまだいるんだ。
医者って大変だなぁ。


急いできたように少し息が上がっている。

部屋へ戻って、と促すようにエレベーターから離される。


「あの、着替えとかなくて、下?に買いに行きたい…です。」


焦ったように見えた南先生のせいで、僕にもうつったみたいにどもってしまった。



事情をつっかえながら話すと「あぁ、そうだったんだね。」と言って、僕の肩に回していた手を離した。



フゥ…まるで安堵したように息を吐きながら、前髪をかきあげて一息をついた。

ちょっと張り詰めた雰囲気が散って、先生の疲れたような笑顔。

その仕草だけでダンディーな大人な雰囲気だけど、
険しいままの眉間の皺が消えていない。






「あのね、予定にない入院をすることもあるから、ひとしきりの準備はこっちで揃えているんだよ。」



そうなんだー…知らなかった。



「それと、外に出る時は先生の許可が必要だから声かけてね。」



あ、だから焦ってたのか…疲れているのに走らせて申し訳なくおもう。


「…はい、すみません。」


まだ距離のある言葉にクスッと笑った。
















「下着はMサイズでいいかな?病衣は汚れない限り2日に一回の交換だからね。私服がよかったらそっちでもいいよ。」

新品のタオルと歯ブラシも渡されてそのままお風呂にいく。


簡単に説明したあと「お風呂から出たらちょっとお話ししよう」と言って脱衣所で別れた。




ゆっくり入っておいでって言われたけど待たれてると思うとうかうか入ってられない。


今日あったことだろうなぁ…となんて説明しようか不安になる。

警察に通報されたら履歴が残るらしいし、また何かあったら今度は警察署に連れて行かれるかも…。


僕は悪くない、それはわかっているのに証明するのが難しく思えた。









「あ、来たね。」


ここおいでと勧められたソファーに腰掛ける。


「ベタベタ取れた?」

「3回洗ったので…たぶん大丈夫です。」

そう?といいさらっと乾かしたての髪を掬う。電極がついてたあたりを触って「うん、綺麗に落ちてる」


なんか、お父さんみたい。

もう12歳というのに、同じことを幼い頃にしてもらったような、あるはずもない思い出が蘇ってくる。


南先生もお父さんと近い年代だろうけど…。
何故か無性に甘えたくなってくる。

きっとお風呂から出たてで、ぽわ~としているせい。




「水分補給してね」ポンと置かれた麦茶をグビグビ飲んで妄想を振り解いた。







グラスを置いたタイミングを計ったように、先生が話し出す。



まさかそこから聞かれるなんて思わなかった。
信じて疑いもしなかったのに。




「本題なんだけど、一緒に来たあの人って本当に警察の人だった?」



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