手折られた天使の黙示録

大和菫子

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1章 We love, because He first loved us.

脱走





廊下の端にある通用口。

ここは警備室を経由する裏口へ繋がっている。

先生たちが出勤してきたり、子どもたちが学校から帰ってくる時や外出で使うこともある。
ただしそれはちゃんと許可を得ていなければいけなかった。




ガチャガチャ
「あれー?なんでだろ締まらない…」

佐久眞先生が自動で閉まるはずのドアを何度か開け閉めしている。
鍵がかかる時の独特な重い音はしているのに関係なく開くドア。

「ついにダメになったか。この前トウヤとリュウが取っ手に掴まって遊んでいたからそのせいだろうな。」

「おぉ…やんちゃしてますね。たしかになんか歪んでるかも?」

少しだけ上向いたドアノブは、開ける時の感覚が以前と違うように感じる。
このままだと警報器が鳴るかもしれないと、國吉先生が警備室に連絡するらしい。

「警備に制御できないか聞いてみる」

「直るまでは使えないですね…」













「なぁ、裏口壊れたって聞いた?」

「アイツらが遊んでて壊したらしいぞ。」

ユイトはクイっとアイツらがいる方をさす。
今日も遊び場を独占して、備え付けのテーブルをわざわざ端に寄せ、アグレッシブな取っ組み合いをしていた。


「しばらくエレベーターだけだって。ちょっと遠くなるなぁ」

可愛く唇を尖らせて文句を言うソウタ。

僕はまだエレベーターで降りた先がどうなっているのか知らないから、いまいちどう不便なのかわからない。

「階段で降りる方がダルくないか?」

「だって集合場所から近いんだもーん。間に合わない時は絶対階段!」

エレベーター来るの待ってらんないしー、ギリギリまで寝てたいもん!といつもギリギリを狙っているらしい。

「来週、業者さん来て直してもらうって。学校には間に合うんじゃない?」

「そうなんだ、じゃあ大丈夫か」
心配して損したーとすぐ手元の端末でゲームを再開する。ゴロンと寝転びながら僕のベッドの半分を占領していた。


「その間は出入り自由になるって」
そう言ってユイトも僕のベッドの上でケータイをいじりだした。


二人がいて端に座るしかない僕はこれまでにない好機に胸が高鳴って、ベッドの主が追いやられているこのぞんざいな扱いに何も思わなかった。




自由…出るチャンスだ。









エレベーターはナースステーションから見えるから使うことはできない。外に出るのに許可が出てないらしい僕はそもそも外出できないから、出るならその日に出てドアが直りそうなあたりで戻ってくるしかない。

30分、もしくは1時間くらいしかない。


───いや、戻らなければそれでいいんじゃないか…




戻らないと言う選択肢が頭に浮かんでから、イギリスのみんなに会いたい気持ちと、ユイトやソウタ…その他もろもろの人たちの顔が脳裏に焼き付いて離れない。
これが名残惜しいと言うことか…と初めての感情にどうすればいいのかわからない。
僕はここに慣れてしまったんだ、という現実が受け止められなかった。



出たい出たいと思っていたのに、いざ本当に出られるとなったらどうしようか迷う。ずっと考えていた脱出計画より簡単に出られそうな状況で、外に出ないと言う選択肢はないけれど、これと言ってできることがなかった。


少し行って帰ってくる…?
なんでもいい、行く理由と戻る理由が欲しい。

なんで外に出たいのかもわからなくなってきた頃、ようやく街が気になるという建前で行くことにした。

戻る理由はおいおい考えることにする。






窓の外から見えた、人気の多そうな方へ行ってみよう。

夜になると人工的な明かりがキラキラ光っていて、向こうには人が多いことがわかる。きっとそっちの方へ行けば見慣れない飛行機の行き先もわかるだろう。


慣れない端末に電源をつけて、着替えたズボンのポケットに突っ込んだ。










こそっと様子を確認する。


修理してる人が今はいないようだ。
図ったようにちょうどよく誰も通りかからない。


今だ。
そう思った。



一歩、境界線とも思える銀色の縁を跨ぎ、階段へ出る。



踏み出したらもう止まらなかった。


一気に駆け降りて息を整える暇もなくたどり着いたフロア。
また現れた扉も同じく透明で反対側がよく見えた。






どうしよう。

青い制服を着た人が出口に立っている。

あれが警備の人か…

あそこにいられたら出て行くことは叶わない。

一瞬でいい、どこかへ行ってくれたら。




「すいませーん!通りたいんでドア押さえてもらっていいっすか?」

「あぁ、はい」


どーぞどーぞ。という感じでダンボールに包まれた重そうな扉持って、出口から入ってくる警備員と修理業者。


あ…、このままこっちへくるっ!


やばいどこかへ隠れなきゃ…


階段は白の踏面に蹴込はスケルトン仕様になっていて下を向かれると一発でアウト。

階段の下がちょうどいいのに透けているせいで隠れられなかった。


どうするっ、どこか隠れられそうな場所!

焦りと動悸から変な汗がじわっと滲んだ。


「ケイ、こっち!」


「!」


なんでっ…


「ここ実は扉になってんだぜ。」

そう言って同化した壁から小さい取っ手をつまみ出してグイグイ引っ張ると広いホールに出た。



「ここは?」

「エレベーターホールだ。大型の検査機器とかここから運ぶらしい。だからめっちゃ広くていろんなとこに出られる。Sub棟のエレベーターにも繋がっているんだぜ」


「そう、なんだ…
でもどうして?    



ユイト…

いいの?」


「行くの見えちゃったからさ。手伝ってやろうかと思って。あの質問来た時から行こうとしてるんだとは思ったけどなんの準備もしてないのな。」


行き当たりばったりで大丈夫か?なんて心配しながら、ちょっと気恥ずかしそうに鼻をかいていた。





「まぁ、ここも職員が出入りするから安全ではないけど、もう直ぐ戻ってくるやつがいるからそれに紛れて出ればいいよ」



扉一枚隔てた先はまだ警備員と修理業者の声が聞こえている。


「こっちのエレベーターから乗って行くもんだと思ってたのになんで階段から行くんだよ…」

耳をそばだててぶつぶついっているユイト。

そうか階段で行くと思わなかったからこっちに来たんだ。






「けーびいんさーん、帰りました!」


「お!ちょうどいい…!アイツらも階段から行くからそのうちに紛れて行くぞ!」

「うんっ…」







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