無影の冒険者 ~最強レベルの影の薄さ《隠密》と観察力《観察眼》で異世界無双~

丁鹿イノ

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8.師弟

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「ふぅ……」

 真一は翔との鍛錬を終え、汗を流すために浴場に来ていた。
 日本で入ったことのないような豪華な風呂に浸かりつつ、今後の計画を考える。

 そろそろ最低限の知識と力は得られており、自身の《異能》も実戦で使える程度には鍛えられた。
 真一は、そろそろ柚月達を探しに出ても生きていけるだろうと考察する。

 ここにいるクラスメイトはどうするかという問題があるが、この世界では珍しい黒髪黒目が複数人でパーティを組むというのは目立ちすぎる。
 影の薄さを活かして目立たずに旅ができる真一の強みを完全に消すことになってしまうだろう。

 真一は、ぞろぞろと旅に連れて行くよりも今のところ勇者として待遇が良いオルトリアに居た方が安全ではないかと考えていた。また国王や宰相は若干きな臭いが、セリーヌという信頼出来る王女がいることも大きい。

 真一は、最後にをどう手に入れたものかと頭を悩ませるのであった。



「ここを出て、他の友人を探しに行こうと思います」

 真一のその言葉にセリーヌは驚きの表情を浮かべた。

「えっ!? 探しに行くとは……シンイチの友人達は、獣人領と魔人領にいるのですよ?」
「はい、分かっています。種族関係なく中立な冒険者ギルドで国境を跨ぐクエストを受ければ、問題なく他種族領に入れるはずです」
「そ、それは、入ることは可能かもしれませんが……危険です! 他種族領での人族の扱いは保証されませんよ!?」

 セリーヌが真一に凄い剣幕で迫る。美しい王女の顔があまりに近づいてきたため、真一は焦って後ろに下がる。

「僕は影が薄いからきっと大丈夫です。それに、そんな危険なところであるならば尚更、友人達をそのままにはしておけません」
「……どうしても行かれるのですか……大切な方がいらっしゃるのですね……?」
「はい……」
「……女の子ですか?」

 セリーヌがかつてないほど鋭い視線を真一に向けて問いかける。
 高い観察力を持っているが女心だけは分からない真一は、その質問の意図が分からないままおずおずと答えた。

「……女の子もいますね」
「むぅー…………シンイチにそこまで大切にしてもらえるなんて、羨ましいです」

 セリーヌはぷくーっと頬を膨らませ、そっぽを向いた。

「セリーヌがピンチになっても僕は絶対に助けに行きますよ」
「……ほんとですか?」
「本当です」
「……分かりました。それで良しとします! あーあ、折角素敵な話し相手ができたと思ったのに、また退屈な生活に戻ってしまうのですね……」

 セリーヌが悲しげな表情を浮かべ、下を向いた。
 真一は自分がいなくなることで気軽に話せる同年代の友達がいなくなってしまうのかと気付き、セリーヌの頭をぽんぽんと軽く撫でた。

「……また戻ってきたら、一緒にお茶してくれますか?」
「勿論ですわ! 早く友達を助けて戻ってきてくださいね!」
「善処します。あと図々しいのですが、セリーヌにお願いしたいことが――」
「なんでも言ってくださいまし!」

 セリーヌはドンと薄い胸を叩き、慎ましい胸を張った。

「ここにいる友人達を守ってやって欲しいんです」
「分かりましたわ。私にお任せ下さい!」
「ありがとう、これで安心して旅立てます」
「あと、渡したいものがあるので旅立つ前にもう一度会いに来てくださらない?」
「わかりました、楽しみにしてますね」
「えぇ、待っていますわ」

 真一はセリーヌが差し出してきた小指に自らの小指を絡ませて、微笑んだ。



 日が傾き始め、真一のヴェインとの訓練もそろそろ終わりかという時間になった。

「よし、今日の訓練は終わりだ。シンイチ、大分動きが良くなってきたじゃないか! 一か月前までは戦闘経験もなかったペーペーだったとは思えないくらいだ」
「ヴェインさんのお陰です、ありがとうございます。ところでヴェインさん、最後にもう一度だけお願いできませんか?……模擬戦形式で」
「ほぉ……いいだろう、ここらでもう一度気持ちを引き締めてやろう!」
「一つお願いがあるのですが……もし僕が勝てたら、ヴェインさんがお持ちの僕らの国のマジックナイフをいただけないでしょうか?」
「……なんだ、コレが欲しいのか?」
「はい。祖国の武器が欲しくて……」

 というのは建前である。
 真一は、自らの戦闘スタイルには剣よりもナイフの方が適していると考えていた。
 そしてどうせナイフを使うのなら、できるだけ斬れ味の良い物が欲しい。
 そう考えた真一は、ヴェインに模擬戦を仕掛けてマジックナイフを景品とする作戦を立案した。

「国宝級の貴重な品なんだが……いいだろう。俺に、勝てたらな」
「ありがとうございます」

 ヴェインは獰猛な笑みを浮かべ、木刀をひと振りした。
 一方、真一は嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべて木刀を構える。

「それじゃあ、かかってこい」
「……僕が先手でいいのですか?」
「あぁ、先手は譲ってやる」
「では、参ります!」

 真一はヴェインへ一足飛びに迫る。
 真一がこの一ヶ月散々走らされた成果は確実に脚力に反映され、以前より格段に素早くなっていた。

 ヴェインは内心弟子の成長を喜びつつも、まだまだだなと息を吐く。
 確かに真一のこの一ヶ月の成長は目覚しいものがあったが、所詮は一ヶ月。歴戦の騎士である自分や他の兵士達にもまだまだ及ばない。
 ヴェインはこの模擬戦で、少し調子に乗ってしまった弟子の鼻っ柱を一度折っておこうと思い、いつもより強めに木刀を握った。

「ハァッ!!」

 いつも受けにくい角度から放ってくる剣撃。
 恐らく弟子の持つ《異能》により、弱点になりうる場所を判断して狙ってきているのだろう。
 ヴェインは若干顔を顰めつつも、その攻撃を軽くいなす。いくら狙いが良くても、身体能力の差はあまりに大きかった。
 大きな筋力の差から、木刀を弾かれた真一はぐらりと体制を崩した。

「まだまだだな」

 ヴェインが新一に向かって素早く強く踏み込み、上段から凄まじい速度で木刀を振り下ろす。
 今までの訓練では一度も見せたことのない力の入った一撃。
 相当痛いだろうが、いい教訓になるだろう。ヴェインがそう思いつつ放った一撃は、虚しく空を切っていた。

「ッ!!?」

 まさか今の一撃を外すとは夢にも思っていなかったヴェインは目を見開き、ギリギリで躱した真一を睨みつけた。
 たまたま勘が当たったのか、もしくは今まで力を隠していたのか、それとも《異能》で攻撃まで読めるというのか、様々な可能性がヴェインの頭の中を駆け巡る。

 そんなヴェインの隙を真一は見逃さず、すかさず切り込んでいく。
 咄嗟に受けようと構えたヴェインに向けて、真一は下段からの切り上げを地面に当て土を巻き上げた。

 ヴェインはここで目潰しかと少し感心しつつ、顔前で木刀を振るい風圧で土を払う。
 泥臭い戦いなど数え切れないほど経験している。発想は良かったが、効かない相手がいることは学習すべきだ。そう思ったヴェインがカウンターを放とうと前を見ると、視界から真一がいなくなっていた。

「死角に回り込んだかッ!?」

 ヴェインは咄嗟に後ろを振り向きつつ、木刀を横に薙ぎ払うように振るった。
 しかし後にも真一はおらず、代わりに《隠密》で隠れているだけで動いていなかった真一がヴェインの後頭部へ渾身の一撃を食らわせた。

「うがっ!?」

 真一は脳震盪で意識を奪うつもりで木刀を振るったが、首の筋肉すら強靭に鍛えているヴェインは衝撃に耐えて意識を保っていた。
 しかしそれでも脳は揺れており、体に力が入らず木刀も取り落としてしまっていた。
 そんなヴェインの首筋に、真一は木刀を当てる。

「どうでしょうか?」
「……あぁ、俺の負けだ」

 ヴェインは仰向けに転がり、手足を投げ出して大の字に寝転がった。

「シンイチ、土を巻き上げたあとのはなんだ?
何かはわからんが《異能》の力だろ?」
「はい。でヴェインさんの死角を読んで、視界に入らないようにしました」

 ピクリとヴェインの眉が動いた。

「……俺ァすぐに死角に攻撃を放ったんだがな」
「その攻撃に合わせてまた死角に回り込んで、攻撃したんです」
「んな上手くいくかぁ!?」
「僕もここまで上手くいくとは思ってませんでしたが、実際上手くいってしまったので」

 真一は肩を竦めて苦笑した。

「……確かにそう言われるとな……」

 ヴェインは真一の能力に何かしらのひっかかりを覚えているようであったが、渋々納得して引き下がった。

「約束の品をいただいてもいいですか?」
「……これ、国宝級の貴重な代物なんだがなぁ……」
「……」
「わーったよ! んな顔で見るな! 確かに俺はこんなちっこいナイフほとんど使わないから持ってても仕方ないしな。ほら、マジで大事に使えよ? 国宝級だからな!?」
「はい、大切に使います。……ヴェインさん、本当にありがとうございました」

 真一はヴェインに向かい深く腰を曲げ、礼をした。
 それを見たヴェインは軽く目を見張り、軽薄に笑った。

「ふっ……改まってどうした、まるで――」

 ハッとしてヴェインは真一を見る。
 真一は無言で困ったように笑っていた。

「ただ感謝を、伝えておきたかっただけですよ」
「……そうか。……無茶だけはすんじゃねぇぞ、馬鹿弟子」
「はい、師匠」

 真一に引っ張り上げられ立ち上がったヴェインは、そのまま手を固く握り激励するかのように真一の肩を強めに叩いた。
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