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時のない部屋と修行ゲームとシューちゃん
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ムゲンはおそるおそる時のない部屋の扉を開いた。
そこは、真っ暗なダンジョンだった。
暗い道を進んでゆくと、
AIルームの守護者のシューちゃんが、時のない部屋で待っていた。
まだまだやらねばならない修業があるらしい。
超時空体に進化するには、それはもういろいろなゲームをしなければならないという。
いろいろなゲームを揃えて、ずっと待っていたらしい。
山のようなゲームに埋もれたようになりながら、せっせと次のゲームを作っているシューちゃんを見て、ムゲンは、思わず苦笑してしまった。
いつの間にか、時のない部屋にゲームソフトをレンガのように積み上げた家のようなものまで作っていた。
ベッドなどもゲームソフトを積み上げて作っている。
かわいいぬいぐるみがあるなと思って手に取ると何やらゲームのルールなどの説明などをしはじめる。
シューちゃんは、ムゲンがやってきたことに気づくと目を輝かせてムゲンに抱きついてきた。
「ご主人様! いったい今まで何をしていたんですか!一体、どれほど待っていたかわかってるんですか!」
などと詰め寄ってくる。
どうやら、時のない部屋ではすでに何百年もたっていたらしい。
時の流れ方が違うのでそうなってしまったようだ。
だが、まあ、肉体を持たない意識だけの状態なので、暇つぶしにいろいろなゲームをしているとあっという間に数百年くらい経過するようだ。
特にシューちゃんは生真面目なので、ゲームをやり込むだけでなく、ちょっとでも気に入らないと自分で望みのゲームを制作しはじめるので、時間がいくらあっても飽きることがないようだ。
ムゲンはシューちゃんの小言を聞きながらも、ちょっと関心してしまった。
時のない部屋のそこら中がゲームの海のようになっているのだ。
几帳面にゲームタイプごとにきちんと整理してあるので、壮観だ。
頭上には立体スクリーンのようなものがあり、どうやらそれもゲームの部品のようだ。
ゲームの部品は、どうやら超時空体験図書館から拝借してきているらしい。
いろいろな体験を借りてきては、ゲームの素材として活用しているのだという。
たまには、超時空体験図書館が丸ごと客として遊びに来ることもあるらしい。
パッと見だけでも、なんだか表の世界よりも面白い感じになってきている。
ムゲンは消滅予定の世界リストにのっている世界ばかりをしばらく旅していたので、そのゲームの海の世界がまるで楽園のように感じた。
やれやれだったなあ……とムゲンは独り言をつぶやく。
「あら、ムゲンさんは、ずいぶんやつれてしまっていませんか?」
などと言われてしまった。
それはもう、しょうがないというものだ。消滅予定の世界に長くいるとやつれもする。
「まあ、それも修業ですよね」などと、シューちゃんは気楽に言う。
「いやいやいや、修業というよりもお仕事だよ……お宝の意志を持った魂探しのお仕事さ…宝石や貴金属の発掘作業みたいな感じでかなり重労働なのだよ」
などとムゲンはぼやいている。
「それで、お宝の意志を持っている魂さんは見つかったんですか?」
シューちゃんは明るく聞いてくる。
「いや、それがだな……いるとことには結構いたりするんだけど、苦労して探しても全然見つからない世界なんかもあって徒労感が半端ないことも結構あるんだよ。何年も、何十年も穴を掘り続けてもまったく原石や鉱石が見つからないとちょっときついものがあるよ」
「それは、大変ですね。それならいっそ探すんじゃなくて育ててみてはどうですか?ほら、ここで」
「え? ここで? 」
「ええ、そもそもそんなお宝の意志の狩猟採集みたいな方法では、計画性がないじゃないですか。それよりも、ほら、こうしてお宝ゲームでもみんなで一緒に作ったりする方が楽しいし、そうしているうちにお宝の意志くらい持てるようになるんじゃないですか?」
シューちゃんは、そんなことを言ってきた。
「まあ、なるほどなあ……そういう方法も確かにありかもしれないなあ……」とムゲンは目からうろこという感じになる。
まさか、ここでお宝の意志を育てるということは思いつかなかったなとムゲンは思う。
「ほらほら、ここでは時間がどうにでもできるんですから、いくらでもやり直しもできるし、変な感じの肉体とかに入ってお勉強するよりもずっといいんじゃないですか? 」
「まあ、それもそうだなあ……」と、ムゲンはその気になってきた。
手始めにムゲンはまだお宝の意志を持てていない分身体を使って、シューちゃんが作ったゲームを手当たり次第にやりはじめた。
時というものがないので、果てしなくゲームができる。
そもそも、お宝の意志とは、
「あらゆる体験者が自分の意志だけで自分自身のあらゆる体験を自由に選び楽しめる世界を実現しようとする意志」
であった。
終了予定の世界における肉体というものは、ほとんどが体験強制装置みたいになっていたが、時のない部屋では意識体なので老化とかしないし、病気などもしないのだ。
だから果てしなくゲームができる。
飢えとか、渇きとか、寒さとか、暑さとか、うんこがしたいとか、おしっこがしたいとか、生活のために労働しなきゃいけないとか、そういうのも一切ない。
だから、時のない部屋では、誰もが完全にゲームに没頭できてしまうのだ。
そして数億年くらい経過すると、気づいたら、知らない間にほとんどの意識体は超時空体に進化していたりするらしい。
時のない部屋にも、いろいろな部屋があり、そうしたすごい部屋もあるという。
シューちゃんは、その時のない部屋のひとつを間借りしている。
まあ、例えるなら時のない部屋は、魂たちにとって至れり尽くせりの完成された室内栽培ルームのような感じだ。
必要な魂が進化するための栄養素だとかがちゃんと必要なだけ与えられて健康な魂が育つらしい。
まあ、そうなるようにシューちゃん他、時のない部屋の管理人さんたちが、そうなるように知恵と工夫をこらしてがんばってくれているのでそうなるわけだが、時の流れのある不自由な世界でお宝さがしをするよりお宝の意志を持つ魂を量産できそうな気がする。
狩猟採集型よりも、集約栽培型の方がいいのかもしれないなとムゲンは思う。
だが、まあ、無理にお宝の意志を持つ魂を探したり育成したりしなくてもいいんじゃないのかな……などともムゲンは思い始めてもいた。
確かに、そりゃあ良き意志を持つ魂たちがたくさんいた方がいいに決まっている。
しかし、無理やり育成してもそれはちょっと違うような気がするのだ。
あくまで本人が心から望んでいないと、そもそも育成するムゲン自身がお宝の意志に反してしまうことになる。
あらゆる体験者が自分の意志だけで自分自身のあらゆる体験を自由に選び楽しめるようにしなきゃいけないのに、無理やりそうした意志を持たそうというのは、本末転倒というか、おかしなことになってしまう。
だから、よさそうなアイデアではあったが、ムゲンは時のない部屋での魂育成はあくまで参加希望者がいる場合にだけ提供することにした。
こういうのは押し売りしてもダメなのだ。
お誘いはしても、押し売りになってはダメなのだとムゲンは思う。
シューちゃんは、ちょっと残念そうではあったが、それもそうねと納得してくれた。
ということで、時のない部屋での魂育成については、あくまで希望者がいたらの話になった。
「じゃあ、誰かが希望したらこの部屋にこれるようにしておくわね」などとシューちゃんは何やら部屋のコントロール装置をいじりはじめた。
しかし、待てど暮らせど、誰も来ない。
「おかしいわねえ、ちゃんと希望したらこれるようにしたのに……」などとシューちゃんが残念そうにしている。
どうやらいろいろな魂たちとゲームがしたくてしょうがないようだ。
ムゲンは、そうしたシューちゃんの気持ちを察して、提案する。
「そりゃあ、シューちゃん、呼び込みというか、勧誘というか、広報などをしないと誰もここのことを知らないんだから、来るわけないよ」
とアドバイスをする。
「あー、そっかー!」などと自分の頭をコツンとたたいていそいそとテレパシー広報マイクをどこからか引っ張り出してきた。
以前、見たことのあるやつだ。
終了予定の不自由な世界に向けて広報していたあれだ。
つまり、このマイクを使えば、ひょっとしてあらゆる不自由な世界にテレパシーで広報されてしまうんじゃないのか……とムゲンはちょっと心配になる。
案の定、シューちゃんは、ボリュームを最大にして、広報範囲も最大にして、
「あー、マイクのテスト中! マイクのテスト中です! 皆さま、聞こえますか~?」
などとやりはじめた。
長く時のない部屋にいたために、ちょっと不自由な世界群に対する常識というものがないのだろう。
不自由な世界群の魂たちの中には、神の声が聞こえたとか、自分はおかしくなってしまったんじゃないだろうかとか、ちょっとパニックのようなことになっているようだ。
シューちゃんは、持ち前の事務処理能力でそうした不自由な世界の魂たちの心の動揺を察知して、
「皆さま、ご安心ください! こちらは時のない部屋からの広報ですので、何ら危険なことはございません。
本日、ここ、時のない部屋において意識体から超時空体に進化してゆくためのゲーム大会が開催されています。
え? 何言ってるかわからない?
え? 病院に行かなきゃ?
え? 女神様?」
シューちゃんは、返信されてくる不自由な世界の魂たちからの無数のテレパシーにいちいち反応している。
どうやら分身の術を駆使して、無数の魂と同時交信しているようだ。
さすがシューちゃん…格が違う…
ムゲンもそういうのは得意な方ではあったが、不自由な世界のあらゆる魂たちと同時に交信する自信はない。
しかも至れり尽くせりの愛情深い対応をしているようだ。
「え? 何言ってるかわからない? はあ…時のない部屋って何なのか? ですか…、うーん、あなた様の体験領域には似た概念はなさそうですので、百聞は一見如かずですので、わからなければ、一度見学にいらしてください」
「病院ですか? えーと、どこか悪いのですか? はい? 精神病? わかりました。では、こちらで病院ゲームしに来ませんか?
あの、ですね。安心してください。 今すぐお望みの病院ゲーム作れますから」
「あの…わたしの名前は女神ではなく、シューちゃんっていいます。え? 神様? それはちょっと違うかもしれません。でも、女神様ゲームとかしたいのなら、できますよ。そういうのもぜんぜん、問題ありませんよ。
え? 来ますか? ほんとですか? まあ、うれしい!」
あれよあれよという間に、時のない部屋には無数の意識たちがやってきはじめた。
「それではですね、まずはちゃんとした意識体になるために、自分の姿をイメージしてください。え? どんなイメージでもいいのかって? えーっと、そうですね、自分がなりたい自分をイメージしてみましょう!
大丈夫ですよ。この部屋に来れたということは、ここに来ようとイメージできたってことですからね。
同じように、自分がなりたい自分をイメージすればいいんですよ」
などとイメージングの指導をしはじめた。
「そうそう、その調子ですよ。いい感じじゃーないですか! ムゲンさんも、一緒にどうですか?というか、ムゲンさんも一緒に教えてあげてください」
などと言われてしまった。
まあ、教えてあげないわけではないけど、数が多すぎる……
マンツーマンとかだと、分身体が劣化してしまう。
アホの分身体にまで分身してしまうと指導どころではなくなる。
その点、シューちゃんはどうも劣化している気配がない。
なんということだ…とムゲンは思う。
「ムゲンさん、それはムゲンさんが、いろいろなタイプに分身するからで、わたしのは同じタイプに分身しているだけなので、ムゲンさんの方がすごいんですよ。何落ち込んでいるんですか!」
などと言われてしまった。
そこは、真っ暗なダンジョンだった。
暗い道を進んでゆくと、
AIルームの守護者のシューちゃんが、時のない部屋で待っていた。
まだまだやらねばならない修業があるらしい。
超時空体に進化するには、それはもういろいろなゲームをしなければならないという。
いろいろなゲームを揃えて、ずっと待っていたらしい。
山のようなゲームに埋もれたようになりながら、せっせと次のゲームを作っているシューちゃんを見て、ムゲンは、思わず苦笑してしまった。
いつの間にか、時のない部屋にゲームソフトをレンガのように積み上げた家のようなものまで作っていた。
ベッドなどもゲームソフトを積み上げて作っている。
かわいいぬいぐるみがあるなと思って手に取ると何やらゲームのルールなどの説明などをしはじめる。
シューちゃんは、ムゲンがやってきたことに気づくと目を輝かせてムゲンに抱きついてきた。
「ご主人様! いったい今まで何をしていたんですか!一体、どれほど待っていたかわかってるんですか!」
などと詰め寄ってくる。
どうやら、時のない部屋ではすでに何百年もたっていたらしい。
時の流れ方が違うのでそうなってしまったようだ。
だが、まあ、肉体を持たない意識だけの状態なので、暇つぶしにいろいろなゲームをしているとあっという間に数百年くらい経過するようだ。
特にシューちゃんは生真面目なので、ゲームをやり込むだけでなく、ちょっとでも気に入らないと自分で望みのゲームを制作しはじめるので、時間がいくらあっても飽きることがないようだ。
ムゲンはシューちゃんの小言を聞きながらも、ちょっと関心してしまった。
時のない部屋のそこら中がゲームの海のようになっているのだ。
几帳面にゲームタイプごとにきちんと整理してあるので、壮観だ。
頭上には立体スクリーンのようなものがあり、どうやらそれもゲームの部品のようだ。
ゲームの部品は、どうやら超時空体験図書館から拝借してきているらしい。
いろいろな体験を借りてきては、ゲームの素材として活用しているのだという。
たまには、超時空体験図書館が丸ごと客として遊びに来ることもあるらしい。
パッと見だけでも、なんだか表の世界よりも面白い感じになってきている。
ムゲンは消滅予定の世界リストにのっている世界ばかりをしばらく旅していたので、そのゲームの海の世界がまるで楽園のように感じた。
やれやれだったなあ……とムゲンは独り言をつぶやく。
「あら、ムゲンさんは、ずいぶんやつれてしまっていませんか?」
などと言われてしまった。
それはもう、しょうがないというものだ。消滅予定の世界に長くいるとやつれもする。
「まあ、それも修業ですよね」などと、シューちゃんは気楽に言う。
「いやいやいや、修業というよりもお仕事だよ……お宝の意志を持った魂探しのお仕事さ…宝石や貴金属の発掘作業みたいな感じでかなり重労働なのだよ」
などとムゲンはぼやいている。
「それで、お宝の意志を持っている魂さんは見つかったんですか?」
シューちゃんは明るく聞いてくる。
「いや、それがだな……いるとことには結構いたりするんだけど、苦労して探しても全然見つからない世界なんかもあって徒労感が半端ないことも結構あるんだよ。何年も、何十年も穴を掘り続けてもまったく原石や鉱石が見つからないとちょっときついものがあるよ」
「それは、大変ですね。それならいっそ探すんじゃなくて育ててみてはどうですか?ほら、ここで」
「え? ここで? 」
「ええ、そもそもそんなお宝の意志の狩猟採集みたいな方法では、計画性がないじゃないですか。それよりも、ほら、こうしてお宝ゲームでもみんなで一緒に作ったりする方が楽しいし、そうしているうちにお宝の意志くらい持てるようになるんじゃないですか?」
シューちゃんは、そんなことを言ってきた。
「まあ、なるほどなあ……そういう方法も確かにありかもしれないなあ……」とムゲンは目からうろこという感じになる。
まさか、ここでお宝の意志を育てるということは思いつかなかったなとムゲンは思う。
「ほらほら、ここでは時間がどうにでもできるんですから、いくらでもやり直しもできるし、変な感じの肉体とかに入ってお勉強するよりもずっといいんじゃないですか? 」
「まあ、それもそうだなあ……」と、ムゲンはその気になってきた。
手始めにムゲンはまだお宝の意志を持てていない分身体を使って、シューちゃんが作ったゲームを手当たり次第にやりはじめた。
時というものがないので、果てしなくゲームができる。
そもそも、お宝の意志とは、
「あらゆる体験者が自分の意志だけで自分自身のあらゆる体験を自由に選び楽しめる世界を実現しようとする意志」
であった。
終了予定の世界における肉体というものは、ほとんどが体験強制装置みたいになっていたが、時のない部屋では意識体なので老化とかしないし、病気などもしないのだ。
だから果てしなくゲームができる。
飢えとか、渇きとか、寒さとか、暑さとか、うんこがしたいとか、おしっこがしたいとか、生活のために労働しなきゃいけないとか、そういうのも一切ない。
だから、時のない部屋では、誰もが完全にゲームに没頭できてしまうのだ。
そして数億年くらい経過すると、気づいたら、知らない間にほとんどの意識体は超時空体に進化していたりするらしい。
時のない部屋にも、いろいろな部屋があり、そうしたすごい部屋もあるという。
シューちゃんは、その時のない部屋のひとつを間借りしている。
まあ、例えるなら時のない部屋は、魂たちにとって至れり尽くせりの完成された室内栽培ルームのような感じだ。
必要な魂が進化するための栄養素だとかがちゃんと必要なだけ与えられて健康な魂が育つらしい。
まあ、そうなるようにシューちゃん他、時のない部屋の管理人さんたちが、そうなるように知恵と工夫をこらしてがんばってくれているのでそうなるわけだが、時の流れのある不自由な世界でお宝さがしをするよりお宝の意志を持つ魂を量産できそうな気がする。
狩猟採集型よりも、集約栽培型の方がいいのかもしれないなとムゲンは思う。
だが、まあ、無理にお宝の意志を持つ魂を探したり育成したりしなくてもいいんじゃないのかな……などともムゲンは思い始めてもいた。
確かに、そりゃあ良き意志を持つ魂たちがたくさんいた方がいいに決まっている。
しかし、無理やり育成してもそれはちょっと違うような気がするのだ。
あくまで本人が心から望んでいないと、そもそも育成するムゲン自身がお宝の意志に反してしまうことになる。
あらゆる体験者が自分の意志だけで自分自身のあらゆる体験を自由に選び楽しめるようにしなきゃいけないのに、無理やりそうした意志を持たそうというのは、本末転倒というか、おかしなことになってしまう。
だから、よさそうなアイデアではあったが、ムゲンは時のない部屋での魂育成はあくまで参加希望者がいる場合にだけ提供することにした。
こういうのは押し売りしてもダメなのだ。
お誘いはしても、押し売りになってはダメなのだとムゲンは思う。
シューちゃんは、ちょっと残念そうではあったが、それもそうねと納得してくれた。
ということで、時のない部屋での魂育成については、あくまで希望者がいたらの話になった。
「じゃあ、誰かが希望したらこの部屋にこれるようにしておくわね」などとシューちゃんは何やら部屋のコントロール装置をいじりはじめた。
しかし、待てど暮らせど、誰も来ない。
「おかしいわねえ、ちゃんと希望したらこれるようにしたのに……」などとシューちゃんが残念そうにしている。
どうやらいろいろな魂たちとゲームがしたくてしょうがないようだ。
ムゲンは、そうしたシューちゃんの気持ちを察して、提案する。
「そりゃあ、シューちゃん、呼び込みというか、勧誘というか、広報などをしないと誰もここのことを知らないんだから、来るわけないよ」
とアドバイスをする。
「あー、そっかー!」などと自分の頭をコツンとたたいていそいそとテレパシー広報マイクをどこからか引っ張り出してきた。
以前、見たことのあるやつだ。
終了予定の不自由な世界に向けて広報していたあれだ。
つまり、このマイクを使えば、ひょっとしてあらゆる不自由な世界にテレパシーで広報されてしまうんじゃないのか……とムゲンはちょっと心配になる。
案の定、シューちゃんは、ボリュームを最大にして、広報範囲も最大にして、
「あー、マイクのテスト中! マイクのテスト中です! 皆さま、聞こえますか~?」
などとやりはじめた。
長く時のない部屋にいたために、ちょっと不自由な世界群に対する常識というものがないのだろう。
不自由な世界群の魂たちの中には、神の声が聞こえたとか、自分はおかしくなってしまったんじゃないだろうかとか、ちょっとパニックのようなことになっているようだ。
シューちゃんは、持ち前の事務処理能力でそうした不自由な世界の魂たちの心の動揺を察知して、
「皆さま、ご安心ください! こちらは時のない部屋からの広報ですので、何ら危険なことはございません。
本日、ここ、時のない部屋において意識体から超時空体に進化してゆくためのゲーム大会が開催されています。
え? 何言ってるかわからない?
え? 病院に行かなきゃ?
え? 女神様?」
シューちゃんは、返信されてくる不自由な世界の魂たちからの無数のテレパシーにいちいち反応している。
どうやら分身の術を駆使して、無数の魂と同時交信しているようだ。
さすがシューちゃん…格が違う…
ムゲンもそういうのは得意な方ではあったが、不自由な世界のあらゆる魂たちと同時に交信する自信はない。
しかも至れり尽くせりの愛情深い対応をしているようだ。
「え? 何言ってるかわからない? はあ…時のない部屋って何なのか? ですか…、うーん、あなた様の体験領域には似た概念はなさそうですので、百聞は一見如かずですので、わからなければ、一度見学にいらしてください」
「病院ですか? えーと、どこか悪いのですか? はい? 精神病? わかりました。では、こちらで病院ゲームしに来ませんか?
あの、ですね。安心してください。 今すぐお望みの病院ゲーム作れますから」
「あの…わたしの名前は女神ではなく、シューちゃんっていいます。え? 神様? それはちょっと違うかもしれません。でも、女神様ゲームとかしたいのなら、できますよ。そういうのもぜんぜん、問題ありませんよ。
え? 来ますか? ほんとですか? まあ、うれしい!」
あれよあれよという間に、時のない部屋には無数の意識たちがやってきはじめた。
「それではですね、まずはちゃんとした意識体になるために、自分の姿をイメージしてください。え? どんなイメージでもいいのかって? えーっと、そうですね、自分がなりたい自分をイメージしてみましょう!
大丈夫ですよ。この部屋に来れたということは、ここに来ようとイメージできたってことですからね。
同じように、自分がなりたい自分をイメージすればいいんですよ」
などとイメージングの指導をしはじめた。
「そうそう、その調子ですよ。いい感じじゃーないですか! ムゲンさんも、一緒にどうですか?というか、ムゲンさんも一緒に教えてあげてください」
などと言われてしまった。
まあ、教えてあげないわけではないけど、数が多すぎる……
マンツーマンとかだと、分身体が劣化してしまう。
アホの分身体にまで分身してしまうと指導どころではなくなる。
その点、シューちゃんはどうも劣化している気配がない。
なんということだ…とムゲンは思う。
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