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茹で蛙
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ムゲンの統合体は時のない部屋でせっせとゲーム修行を続けていた。
次の修行ゲームは、「茹で蛙」という名前のゲームだった。
なんとなくムゲンはそのゲームの名前からそのゲーム内容が推測できた。
シューちゃんは、またいたずらっっぽく笑っている。
ムゲンはゲームの開始ボタンをポチっと押した。
するとたちまちムゲンはゲームの世界にワープする……
気づくとムゲンは蛙の姿になってしまっていた。
雨蛙くらいの小さな蛙だ。
周りを見るとうじゃうじゃと同じような…ただし色あいが少しづつ違う雨蛙たちがひしめいている…
ランドセルをしょって学校と呼ばれるところに向かおうとしていたり、スーツケースをもって空を飛ぶ乗り物に乗り込もうとしていたり、いちゃいちゃしていたり、せっせと飛び跳ねてスポーツや運動のようなことをしている蛙などもいた。
ふと上を見るとなんだか偉そうな殿様蛙たちが雨蛙たちの集団を見守っている。
監視カメラのような装置が雨蛙の階層にたくさん設置されていて、そのもモニター画面を見たりしている。
殿様蛙たちには、お付きの部下のようなもう少し小さい蛙たちが付き従っていて、何か命じられると敬礼したりお世辞をいいながら、そそくさとその命令に従っている。
さらに上を見ると、殿様蛙たちよりもさらに大きな牛蛙サイズの蛙が複数いた。
牛蛙たちは、何やら見えない糸かエネルギーのようなもので殿様蛙たちを従えていた。
ムゲンはそうした光景を見て、なんだかな~と思う。
その理由は、牛蛙や殿様蛙やその部下の蛙たちの精神が煤けていたからだ。
黒い雨雲のようにその煤けた精神性が、上空に広がっていたからだ。
オーラと呼ばれるその色あいが煤けている場合には、たいてい良くないことが発生することをムゲンは経験的に知っていた。
それが上空全体に広がってしまっているのだ。
嫌な予感しかしない……
シューちゃんはと見ると、なんだからテッテレ~などと効果音を出しながらどこ吹く風という感じで小さなゲーム機を手にして別のゲームをピンクの雨蛙の姿で楽しんでいる……
おいおい、この状況でそんなことしていて大丈夫なのかよ……とムゲンは思うが、その思いを感知したシューちゃんはムゲンの方をチラリと見て、なぜか嬉しそうだ。
何十万年もゲームをやりぬいて超時空体にまで進化し、超時空体験図書館の司書試験にまで合格してしまったシューちゃんともなると、もはや天空の煤けたオーラを見ても、動じないらしい。
だが、案の定、その煤けたオーラに満ちた天空が裂けたかと思うとその裂け目から大勢の魔物たちが出現してしまった。
魔物たちは大火炎を吐きながら舞い降りてくる……
雨蛙たちは仰天して右往左往している。
牛蛙や殿様蛙やその部下たちも自分たちの何百倍もの大きさの魔物たちを見て、兵隊蛙たちに戦えと命令するも、圧倒的な力の差があるので到底たちうちできないことがわかる。
次第にゲーム内は魔物たちの吐く大火炎によって、蒸し風呂のようになってくる。
雨蛙たちも牛蛙たちも殿様蛙たちもその部下たちも……我先にと海の中に逃げ込み始めた。
ムゲンもそれに続く……
魔物たちの吐き続ける大火炎によって気温が上がりすぎて、熱くて地上にいることができなくなってしまったからだ。
ムゲンは、なんとか蛙たち皆で力を合わせることで魔物たちを討伐できないかと考えてみたが、圧倒的な力の差があるので不可能だと判断した。
次第に海の温度も上がってきた。逃げ場がない……
蛙たちは顔を出していると熱いので、さっと海の上に頭を出した瞬間に息を吸うとすぐさま海中に潜る……という感じの行動をを繰り返している。
ふとシューちゃんはこの状況でどうしているのかと気になって探すが海の中には見つからない。
逃げ場は海中しかもうないはずなんだがな……と思う。
まさかまたヒール魔法で大火炎魔物たちを手なづけたのだろうか……などと思うが、大火炎魔物たちは猛威をふるい続けている。
次第にムゲンは心配になってくる。ゲームとはいえ、たまにバクなどがあり事故が発生することもあるのだ。
周囲を見ると複数の蛙たちがぷかぷかと意識を失って海の上に浮かんでしまっている。
熱さに耐えきれなかったのだろう……残酷すぎる……とムゲンは思う。
いや、それにしてもシューちゃんはどこにいるのだ……と再びムゲンはシューちゃんを探す。
すると、遠くかすんだ陸の上に千里眼を使ってシューちゃんを見つけた。
ピンクの雨蛙のシューちゃんはなんとそのまま干からびてしまっていた。
ムゲンは思わず海から飛び出してシューちゃんを助けようとするが、あまりの熱さに海から出れない。
やばいやばいやばい……とムゲンはあせりはじめる。あの状態では、もう死んでしまっているに違いない……
まあ、ゲームだから何らかの落ちがあるのだろうと思いつつも、万が一不慮の事故だったら……と気が気ではない。
変身術を使って熱さに強い種族になろうとするも、どうやら変身術はこのゲーム内では封印されてしまっているらしく変身もできない。
とうとう殿様蛙や牛蛙たちまで海の上に浮かび始めた……
ムゲンも熱さで意識が朦朧としはじめる……
ああ、もうダメかもしれない……と思うが、これは修行ゲームなのだから絶対に何かしら生き残れる正解があるはずだとも思う。
しかし雨蛙としてできることは何もないように感じる。
変身もできなきゃ、もうどうしようもないじゃないかと思う。
試しにダメ元で大火炎魔物たちに前のゲームで覚えたヒール魔法などを唱えて見るが、このゲームの基本仕様にそうした魔法スキルは与えられていないようで発動しない。
もちろん攻撃魔法や召喚魔法も使えなかった……
「お手上げだ……シューちゃん助けて!」などと思うが、助けは来なかった。
そしてついにムゲンの雨蛙も海に浮かんでしまった……
その後、海はグツグツと煮えたぎり、すべての蛙たちが茹で上がり……ついに海の藻屑となった。
さらには、大火炎魔物たちも自分たちの吐く大火炎の熱で自分自身もまた耐えきれない温度になって滅びていった。
そして、そのゲーム世界にいた一切の生命が消滅した。
ーーーーーーーーーーー
気が付くと「お疲れ様で~す!」とシューちゃんの声がする。
どうやらゲームのクリアに失敗したらしい。
ムゲンは元気そうなシューちゃんの姿を見てホッとする。
どうやら無事だったらしい。
「ムゲンさん、大丈夫ですか? このゲーム、初めての方はたいてい失敗するので気落ちしないでくださいね」
シューちゃんがとりあえず慰めてくれる。
ムゲンはそれを聞いて考え込む……どうすれば正解だったのかちっともわからない……
「あのですね、ムゲンさん、実はこの茹で蛙ゲームは、ゲーム内で生き残ろうとしたら100%失敗するゲームだったんですよ」
はあ? とムゲンは思う。
「まあ、このゲームをされる方は、みんなそんな反応をされますけど、どうしても生き残れない状況の時などに、いかに対処すればいいかということを学ぶためのゲームだったんですよ」
シューちゃんはそんなことを言う。
「じゃあ、シューちゃんもピンク蛙として干からびてしまっていたけど、シューちゃんはゲームクリアできたってこと?」
「はい^^ そうですよ。当然じゃないですか」
「あの状態がどうしてゲームクリアになるわけ? 逃げもせずに熱さにやられて干からびて死んでしまっただけだろう?」
「だって海に逃げたって死んでしまうだけなんですから、蛙として死ぬことはできるだけ早く覚悟しておく方がいいんですよ。そもそも大火炎魔物が出てこなくても、雨蛙の寿命も早いんですから、どっちみち生き残れないんですよ」
「いやいや、シューちゃん、それはあんまりじゃないの? じゃあ、どうすれば正解というか、ゲームクリアになるわけ?さっさと覚悟を決めて死んだ方がいいってわけ?」
「ただ無策に死ぬだけじゃだめですよ。ヒントは意識の置き所なんです」
「意識の置き所?」
「そうです。自分が蛙なのか、それとも意識なのか という部分です」
「はは~ん、なるほど、そういうことか……」
「さすがムゲンさん、気が付きましたか?」
「要するに、ああした状況では自分が蛙だという認識を自分で捨てて、自分が意識だと思うようにすればよかったってこと?」
「そうですね、まあ、半分正解ですけど、まだそれだけじゃクリアになりません」
「なんで?」
「だって、それだけじゃその自分の意識の避難場所がないじゃないですか。あの蛙の世界しか意識になければ、自分が意識だと思えてもあの世界全体が終焉するわけなんですから、ムゲンさんの意識がどこにも避難できないじゃないですか」
「いやだってあのゲームの世界内以外に避難場所ってあるわけ?」
「そりゃそうでしょう? 蛙さんの姿はゲームの世界の一部ですけど、意識はありとあらゆるゲームの体験者なんですから」
「なるほど、そういうこと……」
「はい^^ そういうことなんですよ」
「じゃあ、シューちゃんはどこに意識を避難させたわけ?」
「そりゃあ、今攻略中の別のゲームの中に私の意識は避難してましたよ。はじめっから…」
「そんなのありなわけ?」
「はい、意識は自由ですから、何でもありなんですよ。自分が完全に自由な意識だという自覚が確固としてある方なら、どんなゲームからでもいつでも自由に自分が望むゲームというか世界に脱出できるんです。そうした確固たる自覚が持てれば、実はなんでもありなんですよ」
「なるほど……それってほとんど無敵じゃん」
「はい、だからまず最初にこの境地を得ておくとどんな糞ゲームもなんのそのなんですよ」
「はあ? 糞ゲームはわざわざしたくないよ」
「それなら、自由自在にいつでも自分の意識を自分が素晴らしいと思えるゲームに移す訓練をしなきゃですね」
「うんうん、なるほど、それはぜひ訓練したいな」
「であれば、ほら、この<ゲームを自分で創ってみようゲーム>なんかがお勧めですよ」
「ほうほう、なるほど、自分で新しいゲームというか、新世界を創造するゲームか……面白そうだね」
「でしょう? でしょう? ムゲンさんがどんな新ゲームを作ってくれるのか、ずっと楽しみにしていたんですよ!すぐにやります?」
「いやいや、まずは意識を自由にワープさせる訓練が先じゃないかな」
「それじゃあ、また茹で蛙ゲームやります?」
「いや、あれはもういい……他のゲームを選びたいね」
「あ、でもですね、適当に選ぶと中にはゲームスタートと共にすべての記憶が消されるゲームもあるので、そういうのだと自分が意識だという記憶や自覚まで消されてしまう場合がありますよ」
「そんなヤバいゲームまであるの?」
「それはまあ、超時空体になるための修行ゲームですから、ありとあらゆるダメ世界にもしたたかに賢く対応できるようになるためにそういうゲームもあるんですよ」
「マジかよ……」
「ですので、私がムゲンさんの案内役なんです」
「いや~、まあ、ありがとうと言うべきか……なかなか道は険しそうだね……」
「そんなことないですよ。要は意識の持ち方次第ですから、こうした修行ゲームを心から楽しまれる方もいますよ。まあ修行ゲーム全体を楽しむためには、あらゆる体験者への不屈の善意が確固としてないといけませんけど……」
「え? 何? 今サラッと難易度の高いこと言わなかった?」
「え? そんなこと言いました?」
「いや、あらゆる体験者への不屈の善意って……何それ?」
「あー、ムゲンさんならとっくに理解されていることだと思ってましたが、ほら、自業自得で自傷自滅にならないような選択をいかなる場合でも選択できる状態なら問題はありませんから」
「いかなる場合でもって……それって難しくない?」
「え? だってそれが超時空体たちの世界では常識といいますか、当然でしょう?」
「……」
「大丈夫ですよ。甘太郎さんなども統合されているんでしょう?」
「いや、分身体メンバーを統合し直さなきゃいけないかも……」
「あら、そうなんですか? それならいっそ私の分身体も何体か統合しちゃったらどうですか?」
「え? そんなことしちゃってもいいの?」
「そりゃあ、意識の世界はなんでもありなんですから、別にいいんですよ、双方の心からの納得合意さえあれば…」
「そんなことして後でズルしたとか言われないのかな……」
「なんでズルなんですか? 超時空体ならみんなしていることですよ。そうやって成長してゆくんです」
「え? そうなの?」
「そうですよ。人間族の方たちが交合して新しい存在を生み出して進化するのと似た感じで、超時空体たちは互いの分身体をそうやって互いに心からの合意のもとに分かち合うことで飛躍的に成長してゆくんです」
「それって常にうまくゆくの?」
「そりゃあ、まだ未熟なうちは失敗することもありますけど、意識レベルが高くなればなるほど失敗は0に近くなってゆきますよ」
「失敗してそのまま詰むみたいなことはないのかな……ちょっと心配だな……」
「だから、私が案内役してるんじゃないですか! 私が信用できませんか?」
「あー、まあ、信用していますよ」
「よかった~! ここで信用できない!とか言われたらどうしようかと思いました」
「それじゃあ、私の分身体、何体くらい統合しますか?」
「え? 何体って何体でも提供してくれるわけ?」
「ええ、必要であれば何体でも可能ですよ」
「それってみんな同じなわけ?」
「中身は同じですけど、姿形はいかようにでも変身できますよ」
「すごいね」
「そうですか、普通ですよ。超時空体になれば何体でも分身体を生み出せるんですから」
「じゃ、じゃあ、とりあえず3体だけお願いしようかな……」
「あら、そんな控えめな数を言わないで、ドーンと三万体くらい注文してくださいよ」
「それじゃあ、ゲームプレイヤーがシューちゃんメインになってしまうかもしれないよ」
「別にいいんじゃないですか? ムゲンさんが嫌でなければですけど……そうしたことを禁止するルールはないですから」
「いや、それじゃあ、俺の修行や成長にならないんじゃないの?」
「だってムゲンさんはそもそもいろいろな個性のキャラが統合されているんですから、その俺という人格もキャラを再編成すれば自由に変えれるわけでしょう? だったら、私の分身体がそこに何体加わろうが、ムゲンさんはムゲンさんのままじゃないですか?
そこがムゲンさんの最大の持ち味じゃないですか?」
「あー、そんなんでいいのかなあ……」
「いいも何も、せっかくのそのメリットを生かさないでどうするんですかって話です」
「じゃあ、何? ひょっとしてシューちゃん以外の超時空聖体様とか普通の超時空体の皆さんたちがそれぞれの分身体を提供してくれれば統合していいってわけ?」
「そうですよ、だからすごい可能性なんです。よくぞそこに気が付きました!」
あまりに思いがけない話に、ムゲンは目をパチクリとしてしまった。
次の修行ゲームは、「茹で蛙」という名前のゲームだった。
なんとなくムゲンはそのゲームの名前からそのゲーム内容が推測できた。
シューちゃんは、またいたずらっっぽく笑っている。
ムゲンはゲームの開始ボタンをポチっと押した。
するとたちまちムゲンはゲームの世界にワープする……
気づくとムゲンは蛙の姿になってしまっていた。
雨蛙くらいの小さな蛙だ。
周りを見るとうじゃうじゃと同じような…ただし色あいが少しづつ違う雨蛙たちがひしめいている…
ランドセルをしょって学校と呼ばれるところに向かおうとしていたり、スーツケースをもって空を飛ぶ乗り物に乗り込もうとしていたり、いちゃいちゃしていたり、せっせと飛び跳ねてスポーツや運動のようなことをしている蛙などもいた。
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殿様蛙たちには、お付きの部下のようなもう少し小さい蛙たちが付き従っていて、何か命じられると敬礼したりお世辞をいいながら、そそくさとその命令に従っている。
さらに上を見ると、殿様蛙たちよりもさらに大きな牛蛙サイズの蛙が複数いた。
牛蛙たちは、何やら見えない糸かエネルギーのようなもので殿様蛙たちを従えていた。
ムゲンはそうした光景を見て、なんだかな~と思う。
その理由は、牛蛙や殿様蛙やその部下の蛙たちの精神が煤けていたからだ。
黒い雨雲のようにその煤けた精神性が、上空に広がっていたからだ。
オーラと呼ばれるその色あいが煤けている場合には、たいてい良くないことが発生することをムゲンは経験的に知っていた。
それが上空全体に広がってしまっているのだ。
嫌な予感しかしない……
シューちゃんはと見ると、なんだからテッテレ~などと効果音を出しながらどこ吹く風という感じで小さなゲーム機を手にして別のゲームをピンクの雨蛙の姿で楽しんでいる……
おいおい、この状況でそんなことしていて大丈夫なのかよ……とムゲンは思うが、その思いを感知したシューちゃんはムゲンの方をチラリと見て、なぜか嬉しそうだ。
何十万年もゲームをやりぬいて超時空体にまで進化し、超時空体験図書館の司書試験にまで合格してしまったシューちゃんともなると、もはや天空の煤けたオーラを見ても、動じないらしい。
だが、案の定、その煤けたオーラに満ちた天空が裂けたかと思うとその裂け目から大勢の魔物たちが出現してしまった。
魔物たちは大火炎を吐きながら舞い降りてくる……
雨蛙たちは仰天して右往左往している。
牛蛙や殿様蛙やその部下たちも自分たちの何百倍もの大きさの魔物たちを見て、兵隊蛙たちに戦えと命令するも、圧倒的な力の差があるので到底たちうちできないことがわかる。
次第にゲーム内は魔物たちの吐く大火炎によって、蒸し風呂のようになってくる。
雨蛙たちも牛蛙たちも殿様蛙たちもその部下たちも……我先にと海の中に逃げ込み始めた。
ムゲンもそれに続く……
魔物たちの吐き続ける大火炎によって気温が上がりすぎて、熱くて地上にいることができなくなってしまったからだ。
ムゲンは、なんとか蛙たち皆で力を合わせることで魔物たちを討伐できないかと考えてみたが、圧倒的な力の差があるので不可能だと判断した。
次第に海の温度も上がってきた。逃げ場がない……
蛙たちは顔を出していると熱いので、さっと海の上に頭を出した瞬間に息を吸うとすぐさま海中に潜る……という感じの行動をを繰り返している。
ふとシューちゃんはこの状況でどうしているのかと気になって探すが海の中には見つからない。
逃げ場は海中しかもうないはずなんだがな……と思う。
まさかまたヒール魔法で大火炎魔物たちを手なづけたのだろうか……などと思うが、大火炎魔物たちは猛威をふるい続けている。
次第にムゲンは心配になってくる。ゲームとはいえ、たまにバクなどがあり事故が発生することもあるのだ。
周囲を見ると複数の蛙たちがぷかぷかと意識を失って海の上に浮かんでしまっている。
熱さに耐えきれなかったのだろう……残酷すぎる……とムゲンは思う。
いや、それにしてもシューちゃんはどこにいるのだ……と再びムゲンはシューちゃんを探す。
すると、遠くかすんだ陸の上に千里眼を使ってシューちゃんを見つけた。
ピンクの雨蛙のシューちゃんはなんとそのまま干からびてしまっていた。
ムゲンは思わず海から飛び出してシューちゃんを助けようとするが、あまりの熱さに海から出れない。
やばいやばいやばい……とムゲンはあせりはじめる。あの状態では、もう死んでしまっているに違いない……
まあ、ゲームだから何らかの落ちがあるのだろうと思いつつも、万が一不慮の事故だったら……と気が気ではない。
変身術を使って熱さに強い種族になろうとするも、どうやら変身術はこのゲーム内では封印されてしまっているらしく変身もできない。
とうとう殿様蛙や牛蛙たちまで海の上に浮かび始めた……
ムゲンも熱さで意識が朦朧としはじめる……
ああ、もうダメかもしれない……と思うが、これは修行ゲームなのだから絶対に何かしら生き残れる正解があるはずだとも思う。
しかし雨蛙としてできることは何もないように感じる。
変身もできなきゃ、もうどうしようもないじゃないかと思う。
試しにダメ元で大火炎魔物たちに前のゲームで覚えたヒール魔法などを唱えて見るが、このゲームの基本仕様にそうした魔法スキルは与えられていないようで発動しない。
もちろん攻撃魔法や召喚魔法も使えなかった……
「お手上げだ……シューちゃん助けて!」などと思うが、助けは来なかった。
そしてついにムゲンの雨蛙も海に浮かんでしまった……
その後、海はグツグツと煮えたぎり、すべての蛙たちが茹で上がり……ついに海の藻屑となった。
さらには、大火炎魔物たちも自分たちの吐く大火炎の熱で自分自身もまた耐えきれない温度になって滅びていった。
そして、そのゲーム世界にいた一切の生命が消滅した。
ーーーーーーーーーーー
気が付くと「お疲れ様で~す!」とシューちゃんの声がする。
どうやらゲームのクリアに失敗したらしい。
ムゲンは元気そうなシューちゃんの姿を見てホッとする。
どうやら無事だったらしい。
「ムゲンさん、大丈夫ですか? このゲーム、初めての方はたいてい失敗するので気落ちしないでくださいね」
シューちゃんがとりあえず慰めてくれる。
ムゲンはそれを聞いて考え込む……どうすれば正解だったのかちっともわからない……
「あのですね、ムゲンさん、実はこの茹で蛙ゲームは、ゲーム内で生き残ろうとしたら100%失敗するゲームだったんですよ」
はあ? とムゲンは思う。
「まあ、このゲームをされる方は、みんなそんな反応をされますけど、どうしても生き残れない状況の時などに、いかに対処すればいいかということを学ぶためのゲームだったんですよ」
シューちゃんはそんなことを言う。
「じゃあ、シューちゃんもピンク蛙として干からびてしまっていたけど、シューちゃんはゲームクリアできたってこと?」
「はい^^ そうですよ。当然じゃないですか」
「あの状態がどうしてゲームクリアになるわけ? 逃げもせずに熱さにやられて干からびて死んでしまっただけだろう?」
「だって海に逃げたって死んでしまうだけなんですから、蛙として死ぬことはできるだけ早く覚悟しておく方がいいんですよ。そもそも大火炎魔物が出てこなくても、雨蛙の寿命も早いんですから、どっちみち生き残れないんですよ」
「いやいや、シューちゃん、それはあんまりじゃないの? じゃあ、どうすれば正解というか、ゲームクリアになるわけ?さっさと覚悟を決めて死んだ方がいいってわけ?」
「ただ無策に死ぬだけじゃだめですよ。ヒントは意識の置き所なんです」
「意識の置き所?」
「そうです。自分が蛙なのか、それとも意識なのか という部分です」
「はは~ん、なるほど、そういうことか……」
「さすがムゲンさん、気が付きましたか?」
「要するに、ああした状況では自分が蛙だという認識を自分で捨てて、自分が意識だと思うようにすればよかったってこと?」
「そうですね、まあ、半分正解ですけど、まだそれだけじゃクリアになりません」
「なんで?」
「だって、それだけじゃその自分の意識の避難場所がないじゃないですか。あの蛙の世界しか意識になければ、自分が意識だと思えてもあの世界全体が終焉するわけなんですから、ムゲンさんの意識がどこにも避難できないじゃないですか」
「いやだってあのゲームの世界内以外に避難場所ってあるわけ?」
「そりゃそうでしょう? 蛙さんの姿はゲームの世界の一部ですけど、意識はありとあらゆるゲームの体験者なんですから」
「なるほど、そういうこと……」
「はい^^ そういうことなんですよ」
「じゃあ、シューちゃんはどこに意識を避難させたわけ?」
「そりゃあ、今攻略中の別のゲームの中に私の意識は避難してましたよ。はじめっから…」
「そんなのありなわけ?」
「はい、意識は自由ですから、何でもありなんですよ。自分が完全に自由な意識だという自覚が確固としてある方なら、どんなゲームからでもいつでも自由に自分が望むゲームというか世界に脱出できるんです。そうした確固たる自覚が持てれば、実はなんでもありなんですよ」
「なるほど……それってほとんど無敵じゃん」
「はい、だからまず最初にこの境地を得ておくとどんな糞ゲームもなんのそのなんですよ」
「はあ? 糞ゲームはわざわざしたくないよ」
「それなら、自由自在にいつでも自分の意識を自分が素晴らしいと思えるゲームに移す訓練をしなきゃですね」
「うんうん、なるほど、それはぜひ訓練したいな」
「であれば、ほら、この<ゲームを自分で創ってみようゲーム>なんかがお勧めですよ」
「ほうほう、なるほど、自分で新しいゲームというか、新世界を創造するゲームか……面白そうだね」
「でしょう? でしょう? ムゲンさんがどんな新ゲームを作ってくれるのか、ずっと楽しみにしていたんですよ!すぐにやります?」
「いやいや、まずは意識を自由にワープさせる訓練が先じゃないかな」
「それじゃあ、また茹で蛙ゲームやります?」
「いや、あれはもういい……他のゲームを選びたいね」
「あ、でもですね、適当に選ぶと中にはゲームスタートと共にすべての記憶が消されるゲームもあるので、そういうのだと自分が意識だという記憶や自覚まで消されてしまう場合がありますよ」
「そんなヤバいゲームまであるの?」
「それはまあ、超時空体になるための修行ゲームですから、ありとあらゆるダメ世界にもしたたかに賢く対応できるようになるためにそういうゲームもあるんですよ」
「マジかよ……」
「ですので、私がムゲンさんの案内役なんです」
「いや~、まあ、ありがとうと言うべきか……なかなか道は険しそうだね……」
「そんなことないですよ。要は意識の持ち方次第ですから、こうした修行ゲームを心から楽しまれる方もいますよ。まあ修行ゲーム全体を楽しむためには、あらゆる体験者への不屈の善意が確固としてないといけませんけど……」
「え? 何? 今サラッと難易度の高いこと言わなかった?」
「え? そんなこと言いました?」
「いや、あらゆる体験者への不屈の善意って……何それ?」
「あー、ムゲンさんならとっくに理解されていることだと思ってましたが、ほら、自業自得で自傷自滅にならないような選択をいかなる場合でも選択できる状態なら問題はありませんから」
「いかなる場合でもって……それって難しくない?」
「え? だってそれが超時空体たちの世界では常識といいますか、当然でしょう?」
「……」
「大丈夫ですよ。甘太郎さんなども統合されているんでしょう?」
「いや、分身体メンバーを統合し直さなきゃいけないかも……」
「あら、そうなんですか? それならいっそ私の分身体も何体か統合しちゃったらどうですか?」
「え? そんなことしちゃってもいいの?」
「そりゃあ、意識の世界はなんでもありなんですから、別にいいんですよ、双方の心からの納得合意さえあれば…」
「そんなことして後でズルしたとか言われないのかな……」
「なんでズルなんですか? 超時空体ならみんなしていることですよ。そうやって成長してゆくんです」
「え? そうなの?」
「そうですよ。人間族の方たちが交合して新しい存在を生み出して進化するのと似た感じで、超時空体たちは互いの分身体をそうやって互いに心からの合意のもとに分かち合うことで飛躍的に成長してゆくんです」
「それって常にうまくゆくの?」
「そりゃあ、まだ未熟なうちは失敗することもありますけど、意識レベルが高くなればなるほど失敗は0に近くなってゆきますよ」
「失敗してそのまま詰むみたいなことはないのかな……ちょっと心配だな……」
「だから、私が案内役してるんじゃないですか! 私が信用できませんか?」
「あー、まあ、信用していますよ」
「よかった~! ここで信用できない!とか言われたらどうしようかと思いました」
「それじゃあ、私の分身体、何体くらい統合しますか?」
「え? 何体って何体でも提供してくれるわけ?」
「ええ、必要であれば何体でも可能ですよ」
「それってみんな同じなわけ?」
「中身は同じですけど、姿形はいかようにでも変身できますよ」
「すごいね」
「そうですか、普通ですよ。超時空体になれば何体でも分身体を生み出せるんですから」
「じゃ、じゃあ、とりあえず3体だけお願いしようかな……」
「あら、そんな控えめな数を言わないで、ドーンと三万体くらい注文してくださいよ」
「それじゃあ、ゲームプレイヤーがシューちゃんメインになってしまうかもしれないよ」
「別にいいんじゃないですか? ムゲンさんが嫌でなければですけど……そうしたことを禁止するルールはないですから」
「いや、それじゃあ、俺の修行や成長にならないんじゃないの?」
「だってムゲンさんはそもそもいろいろな個性のキャラが統合されているんですから、その俺という人格もキャラを再編成すれば自由に変えれるわけでしょう? だったら、私の分身体がそこに何体加わろうが、ムゲンさんはムゲンさんのままじゃないですか?
そこがムゲンさんの最大の持ち味じゃないですか?」
「あー、そんなんでいいのかなあ……」
「いいも何も、せっかくのそのメリットを生かさないでどうするんですかって話です」
「じゃあ、何? ひょっとしてシューちゃん以外の超時空聖体様とか普通の超時空体の皆さんたちがそれぞれの分身体を提供してくれれば統合していいってわけ?」
「そうですよ、だからすごい可能性なんです。よくぞそこに気が付きました!」
あまりに思いがけない話に、ムゲンは目をパチクリとしてしまった。
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