トラックメイカー

Luna

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部屋の中の俺は、ふと辺りを見渡すといつの間にか暗闇の中で直立していた。
俺の体は硬直していた。言葉を発することも呼吸することも出来なかった。
どれほどの時間を暗闇の中で過ごしたかはわからないが、1時間ほどの時間経過を体感したと思った瞬間辺りが明るくなった。

俺は例の4人が座っている部屋で直立していた。
「タノシカッタカイ?」
モザイクで覆われた人は低い声で言った。
「もう少し見ていたかったです」
俺は言った。
「悪いけどもうすぐで時間切れになる。君は、選択しなければならない」
宇宙のティーシャツを着た人は申し訳なさそうに言った。

「俺は現実の世界を見て思い出しました。俺は外に落ちているタバコのゴミを拾いたかった。本当に拾いたかったんですよ。でも実際意味ないじゃないですか。捨てる人がいる限り問題は解決しないじゃないですか」
途中で悲しさがこみ上げてきたため俺は言葉に詰まりながら言った。
「でも君は、これから拾っていくんだろ? 色々な物を」
宇宙のティーシャツを着た人は俺に指を指して言った。
「はい。でも、時々めんどうくさいと言うより、もっとなんていうか冷酷な自分もいるのです」
「向こうのドアを見てくれ」
宇宙のティーシャツを着た人は部屋の出入り口と思われるドアを指指して言った。
ドアは内側から外の様子が見える仕組みになっており、外で暴れまわるもう一人の自分の姿が確認出来た。
その姿はまるで悪魔だった。

「あれはなんですか? ゲームの敵役みたいなのは」
俺は涙を拭いながら言った。
「君自身さ。君が善なら、あそこにいる君は悪だ。あれが負の感情を生むんだ」
「あれが俺・・・・・・」
俺は恐ろしくなり言葉に詰まった。
「昔ゲームセンターで、ゲームオーバーになるとカウントと共にコンティニュー画面で主人公がプレイヤーに助けを求めることがあっただろ? コンティニューすれば助かるし、しなければ死ぬ。金の問題もあるし、何より単なるゲームに過ぎない。けれども、ゲームだと思って割り切れるか? 俺は割り切れない。有り金全部使ってでもクリアを目指すよ。君も同じだろ? でも、あそこにいる君は平気で割り切ってしまうんだよ」
宇宙のティーシャツを着た人は当然のように言った。

「それは恐ろしいですね」
俺は昔のゲームセンターのことなど知らなかったが、知っていたかのように言った。
「だろ? だが、今から善と悪に分かれた君達を一つに戻す。その後現実の世界を見た感想を聞かせてくれ」
宇宙のティーシャツを着た人は言った。
宇宙のティーシャツを着た人がスマートフォンのようなサイズの機械を取り出した瞬間部屋の中の俺と部屋の外の俺は一つになった。

 
善と悪が一つになった俺は、頭蓋骨が万力で圧迫されているような強い締め付けと痛みを感じた。
言葉を発することが出来ない痛みだったが、不思議と悪の感情のコントロールは容易だった。
「さあ、感想を聞かせて」
透過した人は言った。

俺は痛みに必死で耐えながら言葉を発した「俺は、偽善的で、都合がよくて、今でもほんの少しの愛というか、思いやりみたいなものを求めている。俺がやらないことを他人に押し付けて意味のわからない何かを求めている。それが良いのか悪いのかわからない。というか、善悪の問題ではないと思っている。俺自身の問題なんだ」
「でも君は、これから拾っていくんだろ?」宇宙のティーシャツを着た人は俺に指を指して言った。
「はい、無意味ですけど。でも、愛や優しさや思いやりみたいなものって善の心と悪の心が備わっているからこそ生まれるのだと今思いました。善と悪がひしめき合い混在した世界だからこそ偽善的な感情が芽生えるんです。その芽生えた感情に善悪はなくて、善悪は問題ではありません。問題なのは芽生えた人がその芽生えた感情をどう捉え、認識し、どうするのかということです。
 俺はそういう感情が芽生えたとき素直に受け止めたいです。そしてその感情を必要とする人に黙って手を差し伸べたいです。見返りやお礼の言葉はいらない。解決すればそれで良いんです。話かけられることを嫌う人がいるかもしれない。でも、心から謝罪すればわかってくれると思います。とにかく俺に出来る範囲で偽善的な感情というものを追求していきたいし、意味の分からない何かを求め続けたいです。俺はパラレルワールドの世界のせいで本当の自分というか、現実というものを見失っていたのかもしれません」
俺は話をしている途中で泣きそうになったが、なんとか言い切った。

「なるほどね」
透過した人は言った。
「君の求めているものは幻想だ。君は幻想を求め続けるのか?」
発光している人は強い光を放ちながら言った。
「そうです。幻想でも人間として生まれたからには俺が想像する人間性というものの追及をしなくてはいけないんです。それをやめたら俺は多分人間でいられなくなると思います。幻想を求め続けるということは俺にとって命と同じくらい大事なんです」
「私には理解出来ない。私なら命を絶ってしまうだろう」
発光している人は冗談交じりで言った。
「幻想を求め続けた結果が自らの命を絶つということなら俺は救いがあると思うんです。でも、思考を停止して、理解出来ないと決めつけ命を絶つ行為に救いなんてありません。あったとしても、俺が知る術もあなた達が知る術もない以上わかりっこないんです。少なくとも、その世界から命を絶った者の存在が消えたという残酷な事実しか残らないんです」
俺は言った。

発光している人は何も言わなかった。
「ありがとう。まだ少し時間があるな。何か質問があればなんでも答えるよ」
透過した人は言った。
「あなた達は何者ですか?」
俺はすぐに質問した。
「Microsoft agentは人間が作り出したパソコンの化身だった。知ってる? 昔イルカやロボットや魔法使いやボールがパソコンの画面に現れて余計な口をはさんだんだよ。私達も人間の世界に対応した化身のような存在なんだ。私達はそれと似たような存在で、後ろにパソコンよりも大きな何かが存在して私達を制御している。本体の役目は次元の管理とパラレルワールドの管理。一方、化身はパラレルワールド以外の次元に対応をしていないんだ。化身の役目は特に定められていないけど、パラレルワールドの生物と夢で繋がって生物が持っている感情を観測したり、今回みたいな話し合いと面接をしてパラレルワールドにいる人間を引き抜いたり、それこそパソコンの化身のようにアドバイスをしたり、色々やる義務があるんだ。そういう風にプログラムされている」
透過した人は言った。
「人間が好きだからやるんですか?」

「元々は本体から化身に見合った適当な指令が下されて、それに従って行動していたんだけど、無限に等しい次元と時の経過や生まれ変わりによってそれが必要なくなった。私達自身が好き勝手行動してデータを本体に送っているんだ。意味なんてないし、あったとしても私達が知る術はない。イルカやロボットや魔法使いやボール達のように、そういう風にプログラムされているから。いくら彼らのようにぎちぎちに制御されていないとはいえ、結局はデータを送る、会話をする、などのプログラムに化身が従うという意味において、自由度は違えど彼らと私達に大した違いはないんだ。もしかしたら彼らのように私達もお人好しなのかもしれないな」
透過した人は言った。
「もっと人々が傷つかないように、傷つけあわないように、あなた達が出来ることは何かないのですか?」
俺は言った。

「ナイ」
モザイクで覆われた人は低い声で即答した。
「残念だけど化身には出来ない」
透過した人は申し訳なさそうに言った。
「そうですか」
俺は俯きながら言った。
「そろそろ時間だ。どちらを選択するんだ?」
宇宙のティーシャツを着た人は言った。
「俺は何度生まれ変わろうとも日本食が食べたいです」
僕は微笑みながら言った。
「ふふ、楽しませてもらった。私達は君のことを忘れないよ。人間の住む世界はときに残酷だけど悪いことばかりじゃないし悪い人間ばかりじゃない。君はそれを知っているよね」
透過した人は寂しそうに言った。
「はい」
俺は静かに言った。

俺がそう言うと宇宙のティーシャツを着た人は微笑み、俺は目が覚めた。
時刻は深夜の3時だった。
俺はベッドに入り目を瞑ると、今日楓と聴いた古い曲を思い出した。
俺達は人間性を求めるということをしている。自分自身と戦っている。
自分自身を攻撃することは不可能だ。既成概念とは別の違うところにいるから。

俺はいちいち気をとめたりはしないというような、その程度の日々が繰り返されていると思っていた日々を思い出し、そして繰り返しの日常について考えた。
 
一途(いっと)という安息。
それは透過した帳(とばり)のようなものであり、全ての人間のすぐ目の前に存在する。
しかし、人々がそれに気づくことはない。
生があるだけで皆幸せなはずなのだが人々がそれに気づくことはない。
本来その帳を払い除けたいと思うことは到底あり得ないことなのだが、既に起こってしまっている現象と社会の概念が人間のエゴと介在し、一途という安息を歪めてしまっているため、そのような負の感情が生まれてしまうのだ。一途という恐怖、一途という苦しみ等々、人々を死にいたらしめる深刻極まりない負の歪みである。
同じ道を歩むという点においては皆平等であるが、環境が不平等を生じさせる。
人々は、その不平等に気がついているが不平等は解消されない。
それでも誰かが恐怖や苦しみ等々の負の感情を抱いているとき他者はそれを認識し得る。
つまり、誰かの恐怖や苦しみ等々の負の感情を誰かが認識し帳を新しい物に張り替えてやることは本人に出来なくとも他者ならばそれが可能である。
ノーマライゼーションのような福祉的価値観を人々が相互に共有し高め合えれば人々が抱く負の感情の払拭へと繋がり、愛や幸せという不確かなものの全体は確実に均一になるのではないだろうか。

たった今眠りについて、なくなったと思った俺の意識がどういうわけか楓とキスをしている途中で戻った。現実に戻った俺の意識は例によって断片的であったものの、今まで以上に曖昧でなくなっていた。
駅の近くのパーキングに着くと俺は車を停めて、楓を改札まで見送った。
家に着いたのは17時40分だった。
俺は家に着くと自分の部屋に行き何もせずに寝た。
そのころマンドナではありとあらゆる方法で人間を戦わせたり残虐非道なことをさせたり殺し合いをさせることでロボットに人間の持つ狂気を学習させ、驚異的なスピードでロボットは成長していた。
ロボットと化したティジナーニアは言った「人間に明日を与えるな。与える場合は必ず生まれてきたことを後悔させろ」
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