平穏な生活があれば私はもう満足です。

火あぶりメロン

文字の大きさ
7 / 187

7 はじめての王族生活

しおりを挟む
ドラゴンの襲撃は、実感がないまま終わった。

先ほど、マリアンヌさんが「ゆっくり」と声をかけながら食事を持ってきた。諜報メイトたちも戻り、どうやらドラゴン襲撃の際、本当に俺を部屋から出さないよう命令が出ていたらしい。魔力暴走の影響で、部屋で療養するのが最優先事項だとか。嘘くさい話だ。

ドラゴンの撃退には成功したものの、再び襲ってくる可能性があるため、帝都内の騎士や兵士たちはいまだ警戒態勢を続けている。

メイドたちの話では、ドラゴンは伝説上の魔物で、文献には記録があるものの、実際に目撃されたのは500年以上前のことらしい。さらに噂では、ドラゴンを撃退したのは黒髪黒目の強者だとか。茶番だわ…これ。

ちなみに、俺を診察する予定だった魔道士団長――多分地下室にいるハゲのアイツ――は、ドラゴンの件で今日は来られなくなったらしい。明日の朝に来るとの伝言があったが、来るなボケ。

「申し訳ございません、姫様。 陛下は姫様を大切にされていることは有名ですので、 きっと御身のお体を案じて、このように命じたのでしょう。」
「うん…平気…ありがとう。」
「こちら、食べやすいスープです。 どうぞお召し上がりください。」
「マリアンヌ…ありがとう…。」

うん、久しぶりの食事だ。 スープには少しだけ肉や野菜が入っていて、淡い味わいが美味しい。 でも腕がうまく動かせないせいで、結局マリアンヌさんに食べさせてもらうことになった。 食べ終わった頃、外はもうすっかり暗くなっていた。

その後はお風呂タイム。 元男性の俺だから絶対自分の身体をエ○いことする?いや…こんな一歩間違えたら死ぬ環境では何もしない。 前も言ったでしょう、手足未だに思うままに動かないし、それに三次元にはもう興味が無くなったのです。

貴族…いや、王族のお風呂はホントにメイドさんが一緒にお風呂場に入って手伝うのだ、すごい。 メイドたちに手足をマッサージされた、気持ちいい。

お風呂中、俺はずっと考えている。 

何故手足があんまり効かないのか?俺的な見解では身体交換したせいだと思う。 多分ね、この身体に残った動作の記憶と魂の記憶が混ざったから神経系統が混乱した、手足の長さが違うからね、筋肉の力加減も違うよ。 オタク的に説明するとロボットゲームで最強機体を使い慣れた時、急に性能最弱の機体に乗せられたような感じ、身体が俺の指示に追いつかないみたいな。

言葉も同じ理由で説明できる。この身体の脳内には、この世界の言語が深く染み付いている。だから耳で聞けば理解できる。 素人な俺でも、言いたいことをよく考えれば単語くらいは話せる。今は単語しか言えないが、本を読めばすぐに吸収できると思う。 ただ、脳内の他の記憶はわからない。この世界の思い出のような記憶は、魂にあるのだろうか?

お風呂が終わり、ワインレッド色のスリップに着せられた。…これ、17歳の女の子が着るものなのか?触り心地は確かにいいが…。 それより、さすがにいつも単語のみで話すのは良くないと思う。だから寝る前に、ベッド隣にある本棚の本を読み始めた。

予想通り、本の内容を簡単に理解できた。箱を開けたかのように、この世界の言語をマスターした気がする。 え?待て待て、ではあの悪役傲慢姫も同じく日本語を習得した可能性が十分ある!……この世界には日本語の本がないので、多分、前の俺みたいに単語しか話せないよね。 絶対、絶~対~日本語を使わないようにしないと。うっかりでもダメ…ゼッタイ。

すぐには慣れないね、話したいことはこのかわいい声の主が代わりに話してるような感じで、違和感が働き過ぎ、脳がバグるわ。あの地下室っぽい場所で聴いた、あの姫様の声ってもっと威厳があるのですが、元々はこんなかわいい声なのか。

それと例の水玉が今日一日何回も出できました、これによって俺が出した結論は多分、俺の魔力自然回復力が高すぎるせいであの水玉は出てきたと思う。

ゲーム脳で解析すると、元々魔力満タンになったらこれ以上の魔力は貯められない。魔力の自然回復力を魂の能力と仮定すれば、身体交換した俺の魂内でセッティングした上限にはまだ達していなかったので、そのまま回復し続けた結果、余った魔力は水玉として現れた。水玉がある状態だと全身が痛むから、ずっと魔力を放出し続けなければならない……何か魔力の無駄遣いみたいで、勿体ないなぁ。

「姫様、そろそろ寝るのお時間でございます。」
「もうこんな時間ですか、マリアンヌ、今日はありがとうございます。あなたが側にいてくれてホントに良かったです、明日もよろしく頼みます。」
「え?いえ、もったいないお言葉をいただき感謝します。…では明かりを消します。」
「ええ、お願いしまするわ、あなたもお休みなさい。」

魔道具の明かりが消え、月の淡い光が窓から部屋を照らしてきた。俺は見た、今日起きたらずっと無表情のマリアンヌさんが微笑んでいるのを。良い社員には褒めるべきだ、ヨシ!

「おやすみなさいませ、姫様、ではお先に失礼致します。」

マリアンヌはこの部屋に繋がってる隣の自室に戻り、俺は窓の外の月を見上げた。

(この世界は地球と変わらなく月は一つだけですね。ホントに異世界に来たが、それともこれは実はいつもの校長室の中のここなのか…校長室の扉を探してそこから出るとまたいつもの日々に戻れる。)

(いやいや、バカの事を考えるな、逃走方法を考えろ。何か嫌な予感がする、できる限り早めにここから離れないと。)

俺はベッドに乗り、脱走計画を考え始めた.


------------------------------------------------------


マリアンヌは魔道具の明かりを消し、アイビー姫の部屋と繋がった自室に戻り、自室の魔道具に魔力を送り淡い黄色の光を付け、ため息をした。

(はぁ~、今日ホントにあの姫様に調子狂わせたわ…。まるで。)
(7年間姫様に礼に言われたことなかったのに、今日は沢山言われた。それに最後のアレはなによ…長年の頑張りを認めてくれた感じ…ま、まあ~悪くないわ。)
(それとなに?あの笑顔、はじめて見た。まさかあの残酷な黄金姫がこんな笑顔を出せるとは。)
(はぁ~そのままずっと記憶喪失のままではわたしのストレスも減り、仕事もやりやすいと思う。)

(そしてまさかのドラゴン…ホントに死ぬと思ったわ。)
(もう~胃が痛くなる。早く寝ましょう。)

メイド服を脱ぎ、胃薬の薬草をカップに入れ、魔法で水を生成し、一気に飲んだ。そして寝巻きに着替える。

(ですが、あの娘大好きな王様、魔力暴走したから、まさか一回もお見舞いしてくれなかったわ。それとあの禁止令……。)

(やめやめ、いちメイドの範疇ではないわ、は誰でも。わたしは今まで通りご奉仕だけでそれでいい。)

明かりを消し、マリアンヌはそのままベッドで眠りました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...