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58 面倒くさいなパーティー
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その日の夜、王城の宴会場には多くの貴族、ギルド関係者、商会の会頭が集まり、厄介な勇者たちを撃退したこと――いや、正確には俺の優勝を祝っていた。
パーティーが始まった。俺は王族たちと共に宴会場の高台から会場へ入る。
大勢の人々の前に、こんなπの半分くらい晒したドレスで出るのは心細く、思わず王妃様の後ろに隠れてしまった。ちなみに、王子二人とその婚約者たちは少し離れた場所にいる。昼間、固くエスコートを断ったせいなのか、先ほど婚約者たちを紹介された後、彼らは明らかに俺と距離を取った。もしかして王様や婚約者たちに怒られた?特に第一王子。でも変だな、なぜ宰相様は王様の側ではなく、ずっと王子二人のそばにいるのだろう?
『なんと!王家と共に登場するとは、あの娘はいったい……』
『美しいお嬢様だな。あの子は本当に平民なのか?信じがたい。』
『あんな弱そうな女の子が勇者たちを倒したなんて、未だに信じられない。』
宴会場の高台の階段の前で、王様は風魔法を使い、声を広げて話し始めた。
『皆さんもいつも勇者たちの世界を救う活動にご尽力いただき、誠にありがとうございます。勇者たちの代わりに、この場にいる皆に感謝を申し上げます。ありがとう。
『しかし、皆もご存知の通り、先日勇者たちはこちらのアイリスを新しいパーティーメンバーとして迎えるために、彼女に決闘を挑んだ。そして、彼らは敗北した。残念ながら、彼らはすでに聖王国へ帰還している。』
『このパーティーは元々、我が国から勇者の新メンバーが現れることを祝うために用意した。しかし、まさかこんな決闘騒ぎになるとは我々も予想していなかった。勇者たちは不在となったため、すでに準備されたこの宴を急遽アイリスの勝利を祝う場に変更したのだ。』
『とはいえ、当の本人はただの人見知りな研究員のため、今回だけは我が王妃ミラの要望で共に出場するだけで、特別な意図はない。では、この度勇者たちに勝利したアイリスにも一言もらおう。』
(え?!急にこっちに回すなよ!前の世界でもこんな大金持ちのパーティーに参加したことなんてないんだぞ!というか、一言あるなら先に言ってくれよ。貴族の皆さんはこういう場に慣れてるかもしれないけど、こっちはパーティー初心者なんだ。何を言えばいいのか、分かんない……!)
そう思った瞬間、王妃様が俺を前に軽く押し出した。何だこの空気……現場は静まり返り、今の気分はまるで美人コンテストに参加したおじさんが、女性キャラのコスプレでステージに押し出された瞬間のようだ。ヤバい、心臓がめっちゃ跳ねてる。何か話さないと……!
『か、会場の皆様、ごきげんよう。私は学園の研究員のアイリスと申します。』
『今回、勇者様との決闘で勝利したのは決して私の手柄ではございません。すべては、私に魔法と対抗策を教えてくださった学園長、ビアンカ様のおかげです。』
『勇者様は大変お強いですが、私はただ学園長様の策を遂行しただけです。勝てたのは運が良かっただけのこと。』
『こんな平民の私のために、こんな素敵なドレスを貸してくださり、そしてこんな豪華なパーティーを開催してくださった陛下たちに、心より感謝申し上げます。』
(よし!卑怯だが、これで主役は交換できる!頭が真っ白になってこれ以上の方法は思いつかない……ビアンカ様、すまん!)
一礼して下がると、俺の言葉を聞いた皆が拍手を送った。
パチパチパチパチパチパチパチパチ
『おおおおおぉぉぉーーーー!』
『流石王国一の魔道士だ。』
『勇者への策を考えたのはビアンカ様か、流石だ!』
下にいるビアンカ様にも、皆の視線と歓声の中、一礼をする。すると王様が引き続き話を始めた。
『時間が惜しい、余計なことはもう言わん。今日の優勝パーティーを始めるぞ。皆も楽しんでくれ!』
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
俺は王妃様の後に続き、王族たちの席に座った。王様と王子たち、それにその婚約者たちは外で色んな貴族と挨拶をしている。王族の席に残るのは妊娠している王妃様とメイドたち、それと“おまけ”の俺。
王妃様から事前に言われた通り、彼女の側にいれば貴族の挨拶や対応をせずに済むのだが、目の前に並ぶ美味しそうな料理に目が奪われる……食べたい。そんな俺をよそに、王妃様のママ友らしき貴族たちが挨拶を交わしながら世間話を始める。おかげで俺はさらに“置物”と化した。ちらほらと俺を見ている人もいるが、今の俺はずっとシャンデリアの水晶の数を数えて忙しいので、無視することにした。
すると、急に音楽が鳴り、貴族たちは宴会場の中央で踊り始める。こんな退屈なパーティーの中で俺は救世主を発見した。
紳士姿の冒険者ギルドの副ギルマスだ、あの姿はなぜか“セバスチャン”と呼ばれそうな感じ。彼は遠くからこちらに向かい、小さく手を振って近づいてくる。
俺は王妃専属メイドのアンナさんに「副ギルマスに挨拶したい」と、ついでに「食べ物を取ってきてほしい」と伝えた。アンナさんは別のメイドに俺に付き従うよう指示し、王妃様の許可を得てくれる。
王族の席にはあまり近づけないため、副ギルマスは少し離れたところで足を止める。俺はメイドと共に副ギルマスの方へ向かった。
「副ギルマス、こんばんは。お久しぶりです。ギルマスは一緒ではないの?」
「こんばんは、アイリス嬢。お久しぶりです。ジャックはマリアンヌと離れたくないみたいで、代わりにワシが代理で出席した。」
「なるほど。マリアンヌ、愛されてますね。」
「予想はしていたが、まさかアイリス嬢がワシの予想以上に可愛いお嬢ちゃんとはね。顔を隠したがるのも納得したよ。ほほっ。」
「いいえ、メイドさんたちのお化粧が上手なだけですよ。」
「それと、先日の決闘は見事だった。ワシもスッキリしたよ。はははっ!」
「あれはビアンカ様の策のおかげです。私はただ言われた通りに動いただけです。」
「謙遜しなくてもいい。ワシも前任の勇者たちの余計な行動で散々危ない目に遭った。仇を討ってくれてありがとう。」
「そうですか?先代勇者は何をしたんですか?」
「先任の勇者たち……あ、つまり今の教皇様だ。当時、彼らは急にミノタウロスを魔王と称し挑んだ。しかし倒せるわけもなく、そのまま王都まで連れてきたよ。」
「うわーーー。」
「それと食堂では支払いなしで食べ放題、ワイバーンの卵が欲しくて盗もうとしたが失敗し、またワイバーンたちを王都まで連れてきた。あの時、彼らは『勇者は死んではいけない』と捨て台詞を残して、ずっと建物の中に隠れたんだ。皆で戦って多くの犠牲を出した。終盤、ワイバーンが弱ってくると、彼らは建物から飛び出して止めを刺し、まるで自分たちが王都を守った英雄かのように振る舞った。」
「うん、流石勇者様。」
「そうだね。子供の頃から良い魔法の先生が付き、強い装備を持ち、ポーションも商業ギルドでタダで貰える。だから簡単に高ランク冒険者になるんだ。」
「だから金ランクになったのか。」
「だから、あなたが彼らの勇者遊びを止めてくれるのは本当にありがたい。まぁ……本当に止められればいいけどね。」
「これも陛下の策ですから。私はただの駒ですよ。そういえば、勇者たちは技を使う時必ず技名を叫びますが、あれはそうしないと発動できないんですか?」
「いや、基本的にあれは彼らだけだ。新米冒険者にも、時々彼らを真似して技名を叫ぶ者はいるが……。あ、そうそう、マリアンヌから聞いたよ。今度、あなたの薬草畑を見学することになっているらしいね。珍しい薬草が見つかったとか?」
「はい。自分にもよく分からない薬草を見つけました。」
「それは楽しみだね……おや、時間切れみたいだ。次はこんな勇者の話ではなく、薬草について話そう。」
「え?……はい。ではまたギルドで。」
お互い一礼して、副ギルマスは離れていった。同時に後ろから声をかけられる。
「そこの可愛いお嬢ちゃん、僕と一曲どうですか?」
「いいえ、俺と踊って頂けませんですか?」
そこには4人の男性が鬼の勢いでダンスの誘いをしに来た。最初に話しかけてきた男性は思い切り俺の手を持ち、手の甲にキスする気満々だった……鳥肌が立つ。手袋をしているとはいえ、男性が手にキスするのは生理的に受け入れられない。キスされる前に手を素早く引いた。
「な!」
「申し訳ございません。私はただの平民なので、貴族のマナーもよく分かりません。それにダンスも学んだことがありませんのです。もしこんなマナーも知らない平民と踊ってしまったら、お貴族様たちには良くないイメージかもしれません。では、私はここで失礼いたします。」
「ちょ……ま!」
早速逃げた。キス魔ですか?貴族の挨拶?知らないわよ。未だに鳥肌が収まらない……もう、無理。
このパーティーはバイキング形式で、メイドさんから「ドレスが汚れないように代わりに料理を取ります」と言われた。確かに、恐らく他にも何かマナーがあるのだろう。正直、料理を食べる人は全くいない。このまま捨てるのか?勿体ない。タッパーが欲しい。
メイドさんを待っている間、また後ろから声をかけられる。貴族は後ろから声をかけるのが好きらしい。
「あなた、さっきのこと見たわよ。」
今度は令嬢3人。さっきのことはまさかキス魔関連の人か?厄介だな。
「はい、何でしょう。」
「はぁ~?!伯爵家のわたくしを見て先に挨拶することも知らないの?こんな失礼な令嬢はどこの家の人なの?」
「あの、自分はただの平民です。貴族のマナーはよく分かりませんので、どうかお許しを。」
「はぁ……まさか平民?ちょっとだけ可愛いだけで、よくもわたくしの婚約者を誘惑しますわね。」
「とんでもないです。これは王妃様のメイドたちのお化粧が上手いだけです。彼女たちの力がなければ、私のような平民は本物のご令嬢たちの前では塵にしか見えません。」
「フ、フン。よく言うわね。まぁ~今回は許して差し上げますわ。今度はわたくしの婚約者に手を出さないこと、いいわね!」
「「そうですわ。」」
取り巻きの令嬢たちも偉そうにハーモニーする。
「もちろんです。彼のような礼儀正しいな人には私よりお嬢様の方がお似合いですから、私はよく分かります。」
「まぁ~これでいいですわ。わたくし今日はいい気分だから、このパーティーを楽しんでいらっしゃい。」
「ありがとうございます。」
多分、俺が令嬢たちに絡まれているのを見たメイドさんが早足で戻ってきた。
「アイリス様、ご無事でしょうか?」
「はい、大丈夫です。」
「半分しか見えませんでしたが、よく彼女の嫌味を躱しましたね。」
「こういう子供タイプは適当に褒めて、彼女の地位がこちらより上だとはっきり話せば、大体は誤魔化せます。」
プライド?そんなもの、社会人になった後すぐに捨てたよ。プライドより穏便の方が得だからね。
「でも無事で良かったです。お料理は令嬢が食べる量を持ってきましたので、また絡まれる前に早めに王妃様の元に戻りましょう。」
「ごめんなさい、わがままを言ってしまって。」
「とんでもない。ずっとそこに座ったままでは退屈なのは分かっていますから。」
「そうですね。私には貴族のパーティーは無理だわ。」
「実は私もです。ふふっ。」
これで王妃様の元に戻った。メイドさんは先程のことを王妃様に報告し、王妃様はメイドさんに「あとでその人たちのリストを渡して」と指示した。当然だろう。野郎たちはさておき、令嬢たちがこのパーティーの主役すら知らないまま絡んでくるのはね。
料理は令嬢が食べる量しか持ってこない。えらく少ない。お代わりも良くないらしく、再び地獄の時間が始まった。当然のように王妃様とそのママ友たちに色々弄られる。何色のドレスが俺に合うのか討論会が始まった。適当に微笑んで、相槌で済ませた。でも王妃様の側にいるおかげで、あれから誰も絡んでくることはなかった。近づくことすらできなかったからね。
パーティーが終わり、真っ先にビアンカ様に謝りに行った。まぁ、ビアンカ様は「想定内のこと」と言って、あっさり許してくれた。やっぱりできる女性はカッコいい。昔のクソバ……お局様とは大違いだ。
その後、いつもの客室に案内され、やっとこのドレス地獄から解放された。ホントに疲れた……特に腰が。もう一回お風呂に入った後、すぐに寝た。
今週も王様のご厚意で「食料庫に行って好きな物を取って良い」と言われた。では、明日の朝は食料庫に寄って、王妃様の依頼用の高価な生地と材料も持って、早めにマリアンヌを迎え、すぐにマイホームに戻ろう。うん、そうしよう。
パーティーが始まった。俺は王族たちと共に宴会場の高台から会場へ入る。
大勢の人々の前に、こんなπの半分くらい晒したドレスで出るのは心細く、思わず王妃様の後ろに隠れてしまった。ちなみに、王子二人とその婚約者たちは少し離れた場所にいる。昼間、固くエスコートを断ったせいなのか、先ほど婚約者たちを紹介された後、彼らは明らかに俺と距離を取った。もしかして王様や婚約者たちに怒られた?特に第一王子。でも変だな、なぜ宰相様は王様の側ではなく、ずっと王子二人のそばにいるのだろう?
『なんと!王家と共に登場するとは、あの娘はいったい……』
『美しいお嬢様だな。あの子は本当に平民なのか?信じがたい。』
『あんな弱そうな女の子が勇者たちを倒したなんて、未だに信じられない。』
宴会場の高台の階段の前で、王様は風魔法を使い、声を広げて話し始めた。
『皆さんもいつも勇者たちの世界を救う活動にご尽力いただき、誠にありがとうございます。勇者たちの代わりに、この場にいる皆に感謝を申し上げます。ありがとう。
『しかし、皆もご存知の通り、先日勇者たちはこちらのアイリスを新しいパーティーメンバーとして迎えるために、彼女に決闘を挑んだ。そして、彼らは敗北した。残念ながら、彼らはすでに聖王国へ帰還している。』
『このパーティーは元々、我が国から勇者の新メンバーが現れることを祝うために用意した。しかし、まさかこんな決闘騒ぎになるとは我々も予想していなかった。勇者たちは不在となったため、すでに準備されたこの宴を急遽アイリスの勝利を祝う場に変更したのだ。』
『とはいえ、当の本人はただの人見知りな研究員のため、今回だけは我が王妃ミラの要望で共に出場するだけで、特別な意図はない。では、この度勇者たちに勝利したアイリスにも一言もらおう。』
(え?!急にこっちに回すなよ!前の世界でもこんな大金持ちのパーティーに参加したことなんてないんだぞ!というか、一言あるなら先に言ってくれよ。貴族の皆さんはこういう場に慣れてるかもしれないけど、こっちはパーティー初心者なんだ。何を言えばいいのか、分かんない……!)
そう思った瞬間、王妃様が俺を前に軽く押し出した。何だこの空気……現場は静まり返り、今の気分はまるで美人コンテストに参加したおじさんが、女性キャラのコスプレでステージに押し出された瞬間のようだ。ヤバい、心臓がめっちゃ跳ねてる。何か話さないと……!
『か、会場の皆様、ごきげんよう。私は学園の研究員のアイリスと申します。』
『今回、勇者様との決闘で勝利したのは決して私の手柄ではございません。すべては、私に魔法と対抗策を教えてくださった学園長、ビアンカ様のおかげです。』
『勇者様は大変お強いですが、私はただ学園長様の策を遂行しただけです。勝てたのは運が良かっただけのこと。』
『こんな平民の私のために、こんな素敵なドレスを貸してくださり、そしてこんな豪華なパーティーを開催してくださった陛下たちに、心より感謝申し上げます。』
(よし!卑怯だが、これで主役は交換できる!頭が真っ白になってこれ以上の方法は思いつかない……ビアンカ様、すまん!)
一礼して下がると、俺の言葉を聞いた皆が拍手を送った。
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『おおおおおぉぉぉーーーー!』
『流石王国一の魔道士だ。』
『勇者への策を考えたのはビアンカ様か、流石だ!』
下にいるビアンカ様にも、皆の視線と歓声の中、一礼をする。すると王様が引き続き話を始めた。
『時間が惜しい、余計なことはもう言わん。今日の優勝パーティーを始めるぞ。皆も楽しんでくれ!』
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俺は王妃様の後に続き、王族たちの席に座った。王様と王子たち、それにその婚約者たちは外で色んな貴族と挨拶をしている。王族の席に残るのは妊娠している王妃様とメイドたち、それと“おまけ”の俺。
王妃様から事前に言われた通り、彼女の側にいれば貴族の挨拶や対応をせずに済むのだが、目の前に並ぶ美味しそうな料理に目が奪われる……食べたい。そんな俺をよそに、王妃様のママ友らしき貴族たちが挨拶を交わしながら世間話を始める。おかげで俺はさらに“置物”と化した。ちらほらと俺を見ている人もいるが、今の俺はずっとシャンデリアの水晶の数を数えて忙しいので、無視することにした。
すると、急に音楽が鳴り、貴族たちは宴会場の中央で踊り始める。こんな退屈なパーティーの中で俺は救世主を発見した。
紳士姿の冒険者ギルドの副ギルマスだ、あの姿はなぜか“セバスチャン”と呼ばれそうな感じ。彼は遠くからこちらに向かい、小さく手を振って近づいてくる。
俺は王妃専属メイドのアンナさんに「副ギルマスに挨拶したい」と、ついでに「食べ物を取ってきてほしい」と伝えた。アンナさんは別のメイドに俺に付き従うよう指示し、王妃様の許可を得てくれる。
王族の席にはあまり近づけないため、副ギルマスは少し離れたところで足を止める。俺はメイドと共に副ギルマスの方へ向かった。
「副ギルマス、こんばんは。お久しぶりです。ギルマスは一緒ではないの?」
「こんばんは、アイリス嬢。お久しぶりです。ジャックはマリアンヌと離れたくないみたいで、代わりにワシが代理で出席した。」
「なるほど。マリアンヌ、愛されてますね。」
「予想はしていたが、まさかアイリス嬢がワシの予想以上に可愛いお嬢ちゃんとはね。顔を隠したがるのも納得したよ。ほほっ。」
「いいえ、メイドさんたちのお化粧が上手なだけですよ。」
「それと、先日の決闘は見事だった。ワシもスッキリしたよ。はははっ!」
「あれはビアンカ様の策のおかげです。私はただ言われた通りに動いただけです。」
「謙遜しなくてもいい。ワシも前任の勇者たちの余計な行動で散々危ない目に遭った。仇を討ってくれてありがとう。」
「そうですか?先代勇者は何をしたんですか?」
「先任の勇者たち……あ、つまり今の教皇様だ。当時、彼らは急にミノタウロスを魔王と称し挑んだ。しかし倒せるわけもなく、そのまま王都まで連れてきたよ。」
「うわーーー。」
「それと食堂では支払いなしで食べ放題、ワイバーンの卵が欲しくて盗もうとしたが失敗し、またワイバーンたちを王都まで連れてきた。あの時、彼らは『勇者は死んではいけない』と捨て台詞を残して、ずっと建物の中に隠れたんだ。皆で戦って多くの犠牲を出した。終盤、ワイバーンが弱ってくると、彼らは建物から飛び出して止めを刺し、まるで自分たちが王都を守った英雄かのように振る舞った。」
「うん、流石勇者様。」
「そうだね。子供の頃から良い魔法の先生が付き、強い装備を持ち、ポーションも商業ギルドでタダで貰える。だから簡単に高ランク冒険者になるんだ。」
「だから金ランクになったのか。」
「だから、あなたが彼らの勇者遊びを止めてくれるのは本当にありがたい。まぁ……本当に止められればいいけどね。」
「これも陛下の策ですから。私はただの駒ですよ。そういえば、勇者たちは技を使う時必ず技名を叫びますが、あれはそうしないと発動できないんですか?」
「いや、基本的にあれは彼らだけだ。新米冒険者にも、時々彼らを真似して技名を叫ぶ者はいるが……。あ、そうそう、マリアンヌから聞いたよ。今度、あなたの薬草畑を見学することになっているらしいね。珍しい薬草が見つかったとか?」
「はい。自分にもよく分からない薬草を見つけました。」
「それは楽しみだね……おや、時間切れみたいだ。次はこんな勇者の話ではなく、薬草について話そう。」
「え?……はい。ではまたギルドで。」
お互い一礼して、副ギルマスは離れていった。同時に後ろから声をかけられる。
「そこの可愛いお嬢ちゃん、僕と一曲どうですか?」
「いいえ、俺と踊って頂けませんですか?」
そこには4人の男性が鬼の勢いでダンスの誘いをしに来た。最初に話しかけてきた男性は思い切り俺の手を持ち、手の甲にキスする気満々だった……鳥肌が立つ。手袋をしているとはいえ、男性が手にキスするのは生理的に受け入れられない。キスされる前に手を素早く引いた。
「な!」
「申し訳ございません。私はただの平民なので、貴族のマナーもよく分かりません。それにダンスも学んだことがありませんのです。もしこんなマナーも知らない平民と踊ってしまったら、お貴族様たちには良くないイメージかもしれません。では、私はここで失礼いたします。」
「ちょ……ま!」
早速逃げた。キス魔ですか?貴族の挨拶?知らないわよ。未だに鳥肌が収まらない……もう、無理。
このパーティーはバイキング形式で、メイドさんから「ドレスが汚れないように代わりに料理を取ります」と言われた。確かに、恐らく他にも何かマナーがあるのだろう。正直、料理を食べる人は全くいない。このまま捨てるのか?勿体ない。タッパーが欲しい。
メイドさんを待っている間、また後ろから声をかけられる。貴族は後ろから声をかけるのが好きらしい。
「あなた、さっきのこと見たわよ。」
今度は令嬢3人。さっきのことはまさかキス魔関連の人か?厄介だな。
「はい、何でしょう。」
「はぁ~?!伯爵家のわたくしを見て先に挨拶することも知らないの?こんな失礼な令嬢はどこの家の人なの?」
「あの、自分はただの平民です。貴族のマナーはよく分かりませんので、どうかお許しを。」
「はぁ……まさか平民?ちょっとだけ可愛いだけで、よくもわたくしの婚約者を誘惑しますわね。」
「とんでもないです。これは王妃様のメイドたちのお化粧が上手いだけです。彼女たちの力がなければ、私のような平民は本物のご令嬢たちの前では塵にしか見えません。」
「フ、フン。よく言うわね。まぁ~今回は許して差し上げますわ。今度はわたくしの婚約者に手を出さないこと、いいわね!」
「「そうですわ。」」
取り巻きの令嬢たちも偉そうにハーモニーする。
「もちろんです。彼のような礼儀正しいな人には私よりお嬢様の方がお似合いですから、私はよく分かります。」
「まぁ~これでいいですわ。わたくし今日はいい気分だから、このパーティーを楽しんでいらっしゃい。」
「ありがとうございます。」
多分、俺が令嬢たちに絡まれているのを見たメイドさんが早足で戻ってきた。
「アイリス様、ご無事でしょうか?」
「はい、大丈夫です。」
「半分しか見えませんでしたが、よく彼女の嫌味を躱しましたね。」
「こういう子供タイプは適当に褒めて、彼女の地位がこちらより上だとはっきり話せば、大体は誤魔化せます。」
プライド?そんなもの、社会人になった後すぐに捨てたよ。プライドより穏便の方が得だからね。
「でも無事で良かったです。お料理は令嬢が食べる量を持ってきましたので、また絡まれる前に早めに王妃様の元に戻りましょう。」
「ごめんなさい、わがままを言ってしまって。」
「とんでもない。ずっとそこに座ったままでは退屈なのは分かっていますから。」
「そうですね。私には貴族のパーティーは無理だわ。」
「実は私もです。ふふっ。」
これで王妃様の元に戻った。メイドさんは先程のことを王妃様に報告し、王妃様はメイドさんに「あとでその人たちのリストを渡して」と指示した。当然だろう。野郎たちはさておき、令嬢たちがこのパーティーの主役すら知らないまま絡んでくるのはね。
料理は令嬢が食べる量しか持ってこない。えらく少ない。お代わりも良くないらしく、再び地獄の時間が始まった。当然のように王妃様とそのママ友たちに色々弄られる。何色のドレスが俺に合うのか討論会が始まった。適当に微笑んで、相槌で済ませた。でも王妃様の側にいるおかげで、あれから誰も絡んでくることはなかった。近づくことすらできなかったからね。
パーティーが終わり、真っ先にビアンカ様に謝りに行った。まぁ、ビアンカ様は「想定内のこと」と言って、あっさり許してくれた。やっぱりできる女性はカッコいい。昔のクソバ……お局様とは大違いだ。
その後、いつもの客室に案内され、やっとこのドレス地獄から解放された。ホントに疲れた……特に腰が。もう一回お風呂に入った後、すぐに寝た。
今週も王様のご厚意で「食料庫に行って好きな物を取って良い」と言われた。では、明日の朝は食料庫に寄って、王妃様の依頼用の高価な生地と材料も持って、早めにマリアンヌを迎え、すぐにマイホームに戻ろう。うん、そうしよう。
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