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1回目:謎の女性
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4月27日日曜日、1:00。スマホの画面を見るとそう表示されている。
俺はバイトの帰り、ファミレスに寄っていた。なんとなく家に帰りたくなくて、いつも寄るファミレス。いつもの席に座り、いつものノートを広げ、近くに筆記用具を置く。そんな日常。
「おっと、着いた。…ファミレス?」
別にここに来たからって何か浮かぶわけじゃないのに。何してんだろ、俺は。
「おー、本物だ…。こんにちはー!」
やっぱり、こんな事辞めて地元に帰った方がいいよな。
「あれ、何か書かないの?というか、気づいてる?おーい。」
…帰ったところで俺は働けるのか?幸せな生活があるのか?いっそのこと——
「おーいって。聞こえてる?」
目の前に手が出てきて、前を見ると、髪が長い俺と同い年ぐらいの女性が座っていた。
「…え?」
誰?知り合いか?いや、こんな女性いなかったはず。じゃあ…相席?ファミレスで?…そんなわけないよな?めちゃくちゃ席空いてるし。
「あ、やっと気づいた。」
「えっと…。ごめんなさい、俺の知り合いだったりします?」
「違うよ。」
「違う…え、俺に何か用ですか?」
「当たり前でしょ。そのために来たんだから。」
…は?
その女性は立ち上がり、言う。
「私は、未来から来たの。名前は教えるなって博士から言われてるんだけど。でも、博士『ミク』って名乗れって言ったんだよ?もっといい名前あったよねー。」
…この人は何を言ってるんだ。
「私は、『カヌレ』がいいって言ったんだけどね。私、甘いもの好きだからさ。」
「…へ、へえ。じゃあ、俺はこれで。」
帰ろう、ヤバいやつに絡まれた。初めてだよ、ファミレス来てすぐ帰ろうと思ったの。
「ちょ、ちょっと!」
俺を帰らせないよう、その人は机の上を片付けようとする俺の手を掴んだ。
「信じてないでしょ!私が未来人ってこと。」
当たり前だろ。むしろすぐ信じる人がいるなら知りたい。
「まあ、証拠がないもんねえ。あ、じゃあ私が知ってる限りのあなたのこと言ってあげる。」
「はあ。」
「あなたの名前は、小林創太。2025年のはずだから、年齢は今年で25歳。2000年10月13日生まれ。天秤座。血液型はA型。兄弟は確かいないはず。高校卒業した後、東京に来て今の事務所の養成所入って、そこから芸人をしている。これまで何度もコンビやトリオ組んでは解散して、今のトリオで25組目。それで、トリオの名前は今年改名して——」
「ちょっと待って。めちゃくちゃ俺のこと知ってる…。」
「だから、未来人なんだって。あ、でもファンならこのぐらい知ってるから証拠にはならないか…。」
いや、俺らのファン5人ぐらいしかいないし、こんな人いなかった気がする。ってことは、本当に…?いや、信じられん。仮に未来人だとしても、俺に何の用なんだよ。
「私も、未来から来たあなたたちのファンだしなあ。」
「…え、未来だと俺たち売れてるんですか?」
「あー、それは言えない。未来のことは教えられない掟なんだよね。」
「そう…。」
まあ、解散してるだろうな。
「でも、これは言える。ネタ書いてるの、小林くんでしょ?」
「は、はい。」
「めちゃくちゃ面白いよ!」
…え?面白い?
「私、2年前に初めて動画サイトであなたたちのネタを見たんだけど!…って、2年前といっても私がいる未来の2年前ね。そのネタがめちゃくちゃ面白かったの!うわ、何てタイトルだったかど忘れした!何だったっけ…?」
「へえ…。」
そういえば、あいつが俺らのチャンネル作ってネタ投稿してるって言ってたっけ。それがまだ未来に残ってるのか?
「そこからあなたたちのネタ見まくってファンになったんだよね。で、ある日ふと思ったの。初々しい頃のネタ見当たらないなあって。だから、私組みたての時のネタがどんな感じなのか見てみたくて!だから、本当は2年前に来たかったんだよ?あ、この2年前は2025年から2年前ね。2023年に組んだんでしょ?」
「は、はい…。」
めちゃくちゃ喋るなあ。
「もう、博士が25好きでさ。研究所の住所は25番地、タイムマシンに乗れる合格者は偏差値高い大学ランキング25位以内に入ってる大学を卒業した25歳。タイムマシンで行ける年は、『25』が入る過去か未来の年。行ける時間は、深夜1時。理由は、『25時』とも言うから。いれるのは25分だけ。行けるのも最大25回。」
なんだその博士。25好きすぎだろ。25に関する研究しろよ。…いや、なんだその研究って感じだけど。
「もう、博士のことなんてどうでもいいんだよ!ごめん、何の話だったっけ?」
「俺ももう分かんないです…。あの、あなたは俺たちのネタを見に来たんですか?」
「本当は見たかったけど…25時にネタ披露してないでしょ?だから、ネタ書いてる小林くんから何か話聞けたらいいなーって!」
「…そうですか。」
ネタなんて、最近書けてない。営業や若手が出る事務所のライブでは、2年前からしているネタや前違うトリオで組んでた時に作ったネタをしてる。ウケてなんていない。2人はどう思ってるかわからないけど、俺は解散した方がいいと思ってる、なんてファンであるこの人に言えないけど。そもそも、何のネタを見たんだ?…まさか、解散を止めに来たわけじゃないよな?そんなの今更無理に決まってるのに。
「このノート、もしかしてネタ帳?」
気づくと、彼女は勝手に机の上に置いていた俺のノートをペラペラめくって見ていた。
「おい、見るなよ!」
俺は、彼女の手から思いっきりノートを取った。やってしまった…。
「いったー!優しく取ってよ!」
彼女は、明るく笑顔でそう言った。
「…ごめんなさい。見られたくなくて。」
「まあ、私も勝手に見ちゃったし…。このノートはネタ帳なの?さっき少し見た感じコントのセリフ1つもなかったけど。」
「…これは、俺が思いついたことや思ったことをとりあえず書いてるだけのノートです。そこからネタ思いつくかなと思って。」
結果、全くネタ書けてないけど。
「あれ、俺たちコントを主にしてるって言いました…?」
「ふふん。未来のファンを舐めんな。ねえ、今何のネタ書いてるの?見せてよ!」
彼女は目を輝かせながら俺の方を見る。俺は目を逸らしてしまう。
「…未来からわざわざ来てもらったみたいですけど、それは見せることはできません。」
「あー、やっぱり企業秘密的な?でも、私未来人だよ?小林くんが今書いてるネタ知ってる可能性あるよ?あー、今このネタを書いてる時期なのか!ってなるのめっちゃワクワクするなあ、私!あ、それかネタに関する質問してもいい?何聞こうかなあ?」
「そもそも!未来人ってことまだ信じてないですし…。未来人って嘘ついてるファンって可能性もありますよね。」
「え、まだ信じてなかったの!?」
「なので…帰ってください。」
変な感じで誤魔化してしまったな。
「えー、まだまだ時間あるのに!あ、じゃあ私何か注文する!お金は私が奢るからさ!うーん、何がいいかなあ?」
彼女はファミレスのタブレットを取り、メニューを見始める。
「何でですか、なんでそんなにネタのこと聞きたいんですか。」
「そりゃ、好きだからでしょ。好きだから、ネタのこと聞きたいの。」
「ネタを聞くなら、未来の俺に聞けばいいじゃないですか!…いや、未来の俺が続けてなんてないか。辞めた方がいいと思ってるのに。」
「え?」
「…あ。」
思わず言ってしまった。
「え、辞めようと思ってるんですか…?嫌ですよ、続けてください!面白くて、最高なのに!」
「そんな簡単に言わないでくださいよ!ネタなんてほぼ1年書いてないんですよ!ほとんど今まで書いたネタの使い回し。若手ライブに出てもお客さんなんてそんなにいないし、ウケてない。営業行っても、誰1人俺らのことなんて見ていない。そもそも、仕事なんてない日の方が多いし!相方2人とネタの練習することも喋ることもほぼない。相方に誘われたからトリオ組んだけど、ずっと解散した方がいいって思ってるんですよ!芸人なんて辞めて、地元で真面目に働いた方が良いって!地元の同級生は、仕事ちゃんとして、恋人もできて、家庭もできてる人もいる。子どももいる人もいた。そりゃそうだよな、25歳だもんな。俺はずっと何してるんだろって、そんなことばかり考えて。このままお笑い続けても…意味ないよなって…。」
俺何言ってるんだ、ファンの人に。何泣いてるんだ、馬鹿みたいだ。
「…ごめんなさい、こんなこと言われても困りますよね。」
「いえ、私もごめんなさい…。私も簡単に言っちゃって。」
しばらく沈黙が流れる。
「暗くて失望するでしょ。若手のお笑い芸人の裏がこんな感じなんて。みんながそうってわけじゃないから。」
何か喋らなきゃ、と思って出た言葉がこれなんて終わってるよな。
「…全てわかると言ったら嘘になるけど、私も25歳。未来人ですけど。私の周りも結婚してる人何人かいるよ。そのこと聞くと親によく『早く結婚しろ』って言われてて。それに、『博士の助手になる!』と言ったら親は『あんなお遊びみたいな仕事辞めなさい!』って言って!」
「…え、あの25好きのタイムマシン博士の助手なんですか?」
「あれ、言わなかったっけ?」
「聞いてないですよ。」
「そう、博士の助手でもあるの。当時助手になること親は反対してて。まあ、その頃は博士有名じゃなかったし、博士遊んでばっかだったから反対してたんだろうな。それでも、私続けたんです。嫌なこともあったし、変な目で見られることもあった。でも、続けて良いこともあった、タイムマシンも出来た。だから、小林くんも続けたら面白いって気づいてくれるよ!」
…俺は、これを聞いて何も刺さらなかった。気持ちなんて変わらない。それに、博士の助手と芸人って全然違うだろ。
「自分語り、になっちゃったね。」
「いえ…こんな空気にさせた俺が悪いんです。」
「…私決めた!」
彼女は立ち上がった。
「本当は、今日1回だけ小林くんに会うつもりだったけど…私、25回会いに行く。」
「え?」
「毎週来るから。話に来るから、小林くんの気が変わるように。」
「何言って——」
「私は、小林くんに芸人続けてもらいたい。あの3人で、トリオで売れて欲しい。だって、ファンだもん。未来から来たファンだもん。残り24回私が来ても、小林くんが気持ち変わらないなら辞めて良い。私、頑張るから。」
彼女はそう言って、座ってまたメニューを見る。
「よし、フライドポテト食べよう!気合い入れに!」
そう言って、彼女は勝手にタブレットを操作してフライドポテト注文する。
「あー、あと数分しか入れないなあ。それまでにフライドポテト来て欲しいなあ。」
彼女はファミレスに掛かっている時計を見ながらそう言った。
「はい、お金渡しとくね。勝手に頼んじゃったもんだし。」
「えっ…。」
「さっき、奢るって言ったでしょ!フライドポテト、小林くんも食べてね。」
そう言って、俺の目の前にお金を置く。
「小林くん、もしかしたら私が2度と来ないようにどう言おうか迷ってるかもしれないけど、私頑固だから何言われても来るからね。」
なんでわかったんだ。
「当たっちゃった?」
「まあ…はい。」
「やっぱり。ファンだから、わかっちゃうもんね。」
そんなことはないと思うけど。
「あ、同じ25歳だし敬語やめよ?さっきから小林くんだけ敬語なの気になるし。」
「あ…はい。」
今?このタイミングで?
「これから、小林くんがどうやったら芸人続けてくれるか考えないとな…。やっぱ相方2人に会って話し合いかな。2人の家の住所教えて。」
「教えないです…教えないよ!そもそも、2人の住所知らないし。」
「え、そうなの?」
「さっきも言ったけど、楽屋で何も話さないんだよ。プライベートも会わないし。」
「なるほど…。」
何がなるほどなんだ。
「ネット検索してみるか。2人の家特定できるかも。」
「するなよ!捕まるぞ!…ってあれ。」
気づいたら、目の前に彼女はいなかった。スマホを見ると、1時25分と表示された。時間になったってことか…?おい、まだフライドポテト来てないぞ。
「何だったんだ…。」
俺はそう呟き、ノートを見る。…彼女は最後のページ見てないよな、きっと。俺は、『何もない』『消えたい』などと暗い言葉を書いてる最後のページを見ながらそう思った。
俺はバイトの帰り、ファミレスに寄っていた。なんとなく家に帰りたくなくて、いつも寄るファミレス。いつもの席に座り、いつものノートを広げ、近くに筆記用具を置く。そんな日常。
「おっと、着いた。…ファミレス?」
別にここに来たからって何か浮かぶわけじゃないのに。何してんだろ、俺は。
「おー、本物だ…。こんにちはー!」
やっぱり、こんな事辞めて地元に帰った方がいいよな。
「あれ、何か書かないの?というか、気づいてる?おーい。」
…帰ったところで俺は働けるのか?幸せな生活があるのか?いっそのこと——
「おーいって。聞こえてる?」
目の前に手が出てきて、前を見ると、髪が長い俺と同い年ぐらいの女性が座っていた。
「…え?」
誰?知り合いか?いや、こんな女性いなかったはず。じゃあ…相席?ファミレスで?…そんなわけないよな?めちゃくちゃ席空いてるし。
「あ、やっと気づいた。」
「えっと…。ごめんなさい、俺の知り合いだったりします?」
「違うよ。」
「違う…え、俺に何か用ですか?」
「当たり前でしょ。そのために来たんだから。」
…は?
その女性は立ち上がり、言う。
「私は、未来から来たの。名前は教えるなって博士から言われてるんだけど。でも、博士『ミク』って名乗れって言ったんだよ?もっといい名前あったよねー。」
…この人は何を言ってるんだ。
「私は、『カヌレ』がいいって言ったんだけどね。私、甘いもの好きだからさ。」
「…へ、へえ。じゃあ、俺はこれで。」
帰ろう、ヤバいやつに絡まれた。初めてだよ、ファミレス来てすぐ帰ろうと思ったの。
「ちょ、ちょっと!」
俺を帰らせないよう、その人は机の上を片付けようとする俺の手を掴んだ。
「信じてないでしょ!私が未来人ってこと。」
当たり前だろ。むしろすぐ信じる人がいるなら知りたい。
「まあ、証拠がないもんねえ。あ、じゃあ私が知ってる限りのあなたのこと言ってあげる。」
「はあ。」
「あなたの名前は、小林創太。2025年のはずだから、年齢は今年で25歳。2000年10月13日生まれ。天秤座。血液型はA型。兄弟は確かいないはず。高校卒業した後、東京に来て今の事務所の養成所入って、そこから芸人をしている。これまで何度もコンビやトリオ組んでは解散して、今のトリオで25組目。それで、トリオの名前は今年改名して——」
「ちょっと待って。めちゃくちゃ俺のこと知ってる…。」
「だから、未来人なんだって。あ、でもファンならこのぐらい知ってるから証拠にはならないか…。」
いや、俺らのファン5人ぐらいしかいないし、こんな人いなかった気がする。ってことは、本当に…?いや、信じられん。仮に未来人だとしても、俺に何の用なんだよ。
「私も、未来から来たあなたたちのファンだしなあ。」
「…え、未来だと俺たち売れてるんですか?」
「あー、それは言えない。未来のことは教えられない掟なんだよね。」
「そう…。」
まあ、解散してるだろうな。
「でも、これは言える。ネタ書いてるの、小林くんでしょ?」
「は、はい。」
「めちゃくちゃ面白いよ!」
…え?面白い?
「私、2年前に初めて動画サイトであなたたちのネタを見たんだけど!…って、2年前といっても私がいる未来の2年前ね。そのネタがめちゃくちゃ面白かったの!うわ、何てタイトルだったかど忘れした!何だったっけ…?」
「へえ…。」
そういえば、あいつが俺らのチャンネル作ってネタ投稿してるって言ってたっけ。それがまだ未来に残ってるのか?
「そこからあなたたちのネタ見まくってファンになったんだよね。で、ある日ふと思ったの。初々しい頃のネタ見当たらないなあって。だから、私組みたての時のネタがどんな感じなのか見てみたくて!だから、本当は2年前に来たかったんだよ?あ、この2年前は2025年から2年前ね。2023年に組んだんでしょ?」
「は、はい…。」
めちゃくちゃ喋るなあ。
「もう、博士が25好きでさ。研究所の住所は25番地、タイムマシンに乗れる合格者は偏差値高い大学ランキング25位以内に入ってる大学を卒業した25歳。タイムマシンで行ける年は、『25』が入る過去か未来の年。行ける時間は、深夜1時。理由は、『25時』とも言うから。いれるのは25分だけ。行けるのも最大25回。」
なんだその博士。25好きすぎだろ。25に関する研究しろよ。…いや、なんだその研究って感じだけど。
「もう、博士のことなんてどうでもいいんだよ!ごめん、何の話だったっけ?」
「俺ももう分かんないです…。あの、あなたは俺たちのネタを見に来たんですか?」
「本当は見たかったけど…25時にネタ披露してないでしょ?だから、ネタ書いてる小林くんから何か話聞けたらいいなーって!」
「…そうですか。」
ネタなんて、最近書けてない。営業や若手が出る事務所のライブでは、2年前からしているネタや前違うトリオで組んでた時に作ったネタをしてる。ウケてなんていない。2人はどう思ってるかわからないけど、俺は解散した方がいいと思ってる、なんてファンであるこの人に言えないけど。そもそも、何のネタを見たんだ?…まさか、解散を止めに来たわけじゃないよな?そんなの今更無理に決まってるのに。
「このノート、もしかしてネタ帳?」
気づくと、彼女は勝手に机の上に置いていた俺のノートをペラペラめくって見ていた。
「おい、見るなよ!」
俺は、彼女の手から思いっきりノートを取った。やってしまった…。
「いったー!優しく取ってよ!」
彼女は、明るく笑顔でそう言った。
「…ごめんなさい。見られたくなくて。」
「まあ、私も勝手に見ちゃったし…。このノートはネタ帳なの?さっき少し見た感じコントのセリフ1つもなかったけど。」
「…これは、俺が思いついたことや思ったことをとりあえず書いてるだけのノートです。そこからネタ思いつくかなと思って。」
結果、全くネタ書けてないけど。
「あれ、俺たちコントを主にしてるって言いました…?」
「ふふん。未来のファンを舐めんな。ねえ、今何のネタ書いてるの?見せてよ!」
彼女は目を輝かせながら俺の方を見る。俺は目を逸らしてしまう。
「…未来からわざわざ来てもらったみたいですけど、それは見せることはできません。」
「あー、やっぱり企業秘密的な?でも、私未来人だよ?小林くんが今書いてるネタ知ってる可能性あるよ?あー、今このネタを書いてる時期なのか!ってなるのめっちゃワクワクするなあ、私!あ、それかネタに関する質問してもいい?何聞こうかなあ?」
「そもそも!未来人ってことまだ信じてないですし…。未来人って嘘ついてるファンって可能性もありますよね。」
「え、まだ信じてなかったの!?」
「なので…帰ってください。」
変な感じで誤魔化してしまったな。
「えー、まだまだ時間あるのに!あ、じゃあ私何か注文する!お金は私が奢るからさ!うーん、何がいいかなあ?」
彼女はファミレスのタブレットを取り、メニューを見始める。
「何でですか、なんでそんなにネタのこと聞きたいんですか。」
「そりゃ、好きだからでしょ。好きだから、ネタのこと聞きたいの。」
「ネタを聞くなら、未来の俺に聞けばいいじゃないですか!…いや、未来の俺が続けてなんてないか。辞めた方がいいと思ってるのに。」
「え?」
「…あ。」
思わず言ってしまった。
「え、辞めようと思ってるんですか…?嫌ですよ、続けてください!面白くて、最高なのに!」
「そんな簡単に言わないでくださいよ!ネタなんてほぼ1年書いてないんですよ!ほとんど今まで書いたネタの使い回し。若手ライブに出てもお客さんなんてそんなにいないし、ウケてない。営業行っても、誰1人俺らのことなんて見ていない。そもそも、仕事なんてない日の方が多いし!相方2人とネタの練習することも喋ることもほぼない。相方に誘われたからトリオ組んだけど、ずっと解散した方がいいって思ってるんですよ!芸人なんて辞めて、地元で真面目に働いた方が良いって!地元の同級生は、仕事ちゃんとして、恋人もできて、家庭もできてる人もいる。子どももいる人もいた。そりゃそうだよな、25歳だもんな。俺はずっと何してるんだろって、そんなことばかり考えて。このままお笑い続けても…意味ないよなって…。」
俺何言ってるんだ、ファンの人に。何泣いてるんだ、馬鹿みたいだ。
「…ごめんなさい、こんなこと言われても困りますよね。」
「いえ、私もごめんなさい…。私も簡単に言っちゃって。」
しばらく沈黙が流れる。
「暗くて失望するでしょ。若手のお笑い芸人の裏がこんな感じなんて。みんながそうってわけじゃないから。」
何か喋らなきゃ、と思って出た言葉がこれなんて終わってるよな。
「…全てわかると言ったら嘘になるけど、私も25歳。未来人ですけど。私の周りも結婚してる人何人かいるよ。そのこと聞くと親によく『早く結婚しろ』って言われてて。それに、『博士の助手になる!』と言ったら親は『あんなお遊びみたいな仕事辞めなさい!』って言って!」
「…え、あの25好きのタイムマシン博士の助手なんですか?」
「あれ、言わなかったっけ?」
「聞いてないですよ。」
「そう、博士の助手でもあるの。当時助手になること親は反対してて。まあ、その頃は博士有名じゃなかったし、博士遊んでばっかだったから反対してたんだろうな。それでも、私続けたんです。嫌なこともあったし、変な目で見られることもあった。でも、続けて良いこともあった、タイムマシンも出来た。だから、小林くんも続けたら面白いって気づいてくれるよ!」
…俺は、これを聞いて何も刺さらなかった。気持ちなんて変わらない。それに、博士の助手と芸人って全然違うだろ。
「自分語り、になっちゃったね。」
「いえ…こんな空気にさせた俺が悪いんです。」
「…私決めた!」
彼女は立ち上がった。
「本当は、今日1回だけ小林くんに会うつもりだったけど…私、25回会いに行く。」
「え?」
「毎週来るから。話に来るから、小林くんの気が変わるように。」
「何言って——」
「私は、小林くんに芸人続けてもらいたい。あの3人で、トリオで売れて欲しい。だって、ファンだもん。未来から来たファンだもん。残り24回私が来ても、小林くんが気持ち変わらないなら辞めて良い。私、頑張るから。」
彼女はそう言って、座ってまたメニューを見る。
「よし、フライドポテト食べよう!気合い入れに!」
そう言って、彼女は勝手にタブレットを操作してフライドポテト注文する。
「あー、あと数分しか入れないなあ。それまでにフライドポテト来て欲しいなあ。」
彼女はファミレスに掛かっている時計を見ながらそう言った。
「はい、お金渡しとくね。勝手に頼んじゃったもんだし。」
「えっ…。」
「さっき、奢るって言ったでしょ!フライドポテト、小林くんも食べてね。」
そう言って、俺の目の前にお金を置く。
「小林くん、もしかしたら私が2度と来ないようにどう言おうか迷ってるかもしれないけど、私頑固だから何言われても来るからね。」
なんでわかったんだ。
「当たっちゃった?」
「まあ…はい。」
「やっぱり。ファンだから、わかっちゃうもんね。」
そんなことはないと思うけど。
「あ、同じ25歳だし敬語やめよ?さっきから小林くんだけ敬語なの気になるし。」
「あ…はい。」
今?このタイミングで?
「これから、小林くんがどうやったら芸人続けてくれるか考えないとな…。やっぱ相方2人に会って話し合いかな。2人の家の住所教えて。」
「教えないです…教えないよ!そもそも、2人の住所知らないし。」
「え、そうなの?」
「さっきも言ったけど、楽屋で何も話さないんだよ。プライベートも会わないし。」
「なるほど…。」
何がなるほどなんだ。
「ネット検索してみるか。2人の家特定できるかも。」
「するなよ!捕まるぞ!…ってあれ。」
気づいたら、目の前に彼女はいなかった。スマホを見ると、1時25分と表示された。時間になったってことか…?おい、まだフライドポテト来てないぞ。
「何だったんだ…。」
俺はそう呟き、ノートを見る。…彼女は最後のページ見てないよな、きっと。俺は、『何もない』『消えたい』などと暗い言葉を書いてる最後のページを見ながらそう思った。
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