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3回目:好意
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「おーい。こんなところで寝てたら風邪引くよ。」
という声が聞こえて、俺は目を覚ます。目を開けると、目の前に女性の顔があった。
「うわっ!」
「あ、ごめん。びっくりした?」
先々週から現れる未来人だ。その彼女が離れると、俺は体を起こす。時計を見ると、1時になっていた。
「もうそんな時間か…。」
「寝るの早いよ。」
「どこがだよ。深夜だぞ。てか、靴履いたままじゃねえか。」
「だって、着いたら家だったんだもん。玄関に置いてくるね。」
彼女はそう言いながら、靴を脱ぎ玄関に靴を置く。その靴忘れるなよ。
「へえ、ここが小林くんの家か。普通だね。」
「普通で悪かったな。というか、先週家に上がるなって言ったよね?」
「小林くんが家にいるのが悪いでしょ。」
プライバシーの侵害で訴えたい。
「何で今日は家にいるの?」
「バイトじゃなかったんだよ。」
「あ、先週と先々週はバイトだったから家にいなかっただけなの?」
「そう。」
そういえば、バイトの話してなかったか。
「それにしても、床の上で寝てるなんて。あ、ビール飲んでるな?」
いつの間にか寝てしまっていた。机の上には食べかけのカップラーメンと空の缶ビールが数本置いてある。彼女は缶ビールの中を見ながらそう言った。
「お酒強いの?」
「普通だよ。弱いわけじゃないし、強いわけでもない。」
「そうなんだ。弱いのかと思ってた。」
俺は、残りのカップラーメンを食べようと中を見る。うわ、麺伸びちゃってる。捨てよ。
「あれ、カップラーメン捨てちゃうの?」
俺がカップラーメンを持って立ち上がると、彼女がそう言ってきた。
「え、うん。伸びちゃってるし。」
「えー、もったいないよ!私が美味しくしてあげる。キッチン借りていい?」
「料理できないんじゃなかったのかよ。」
「それは、和菓子屋さんを目指してた時の話。博士のとこで家事いっぱいしてたら、少し料理できるようになったんだよ。」
「本当か?」
「それを確かめるためにも、私にそれ貸して。」
俺は彼女にカップラーメンを渡す。
「ソファに座ってていいよ。あ、フライパンある?あと、片栗粉と卵。」
「あるよ。ごくたまに料理することあるから。」
親が料理しろって色々食べ物送ってくるからな。
「本当だ。借りるね。」
「何を作るんだよ。」
「お好み焼き風にするんだよ。」
25分までに作り終わるんだろうな?途中でいなくなったら困るからな。
「あれ、鯉のぼり捨ててないじゃん。」
彼女は、キッチンの近くに置いていた小さい鯉のぼりを見て言った。
「何となく置いておいたんだよ。もうこどもの日終わったし、後で捨てようと思ってたけど。」
「そうなんだ。あ、小さい頃の夢聞きたかったのに聞けなかったんだった!」
「…答えてないよ、覚えてなかったから。」
「え、そうなの?」
「うん。」
彼女が料理を始めたのか、キッチンから様々な音が聞こえてくる。
「私、聞いたんだよね。」
彼女はそう喋り出した。
「何をだよ。」
「なんでこどもの日に金平糖を渡してきたのか。博士に聞いたんだよ。」
そういえば、そんな話したな。
「そしたら、『こどもの日じゃなくても、金平糖食べてただろ?』だって。そもそも、こどもの日にあげてたことなんて忘れてたし。」
「じゃあ、結局分からなかったのか。」
「『多分、よく食べてたからあげてたんだと思う。』だって。」
じゃあ、先週の俺の考えはほとんど当たってたんだな。
「それでさ、思い出したことがあって。」
「思い出したこと?」
「うん。私、すっかり忘れてたけど、小さい頃よく博士の家に遊びに行ってたなあって。確かに、その時に金平糖絶対食べてたなあって。」
それが原因なんだろうな、貰ってたのは。
「博士の家…伯父さんの家は、秘密基地みたいでさ。伯父さんが作ったおもちゃがいっぱいあったんだ。伯父さんは、『発明品だ!』って言ってたけど。」
「へえ、すごいね。」
「今考えたら、世に出さずに自己満足でおもちゃを作っているニートだけどね!私がタイムマシン作ること提案しなかったら、私に頼りっぱなしのヒモニートだっただろうし。」
めちゃくちゃボロクソ言うじゃん。
「でも、小さい頃の私はそんな伯父さんの家に行くのが好きだった。好きだったのに、この間まで忘れてたんだけど。」
「そうなんだ。」
「好きだったから、今の私がいるのかな。」
彼女はそう言った。
「最初、親に『博士の助手になる!』って言った時は私がタイムマシン作ること提案したら、博士がその気になってくれたから、嬉しくてなりたいって言ってたけど。家事全くしない博士が心配だったし、機械いじり好きだからできるかなーとも思ってたしね。でも、多分本当はそれだけじゃなくて、伯父さんの家やおもちゃが大好きだったのを心のどこかで覚えてたからなのかなって、博士から金平糖の話聞いてたら思ったね。」
金平糖の話からすごい広がったな。
「ごめん、自分語りしちゃったね。」
「…伯父さんのこと、大好きなんだな。」
「そうなのかな、腹立つこと多いけどね。ねえ、小さい頃好きだったことって今も影響されてると思う?」
彼女はそう言った。影響…されてるな、俺は。
「…人それぞれじゃないか?」
「まあ、そうだよね。」
「…俺は、されてるよ。」
俺はそう言った。少し酔っているからか、自然と声に出していた。
「そうなの?」
「元々、芸人になったのは高校生の時の友達に誘われたからだけど…。親がバラエティ番組見るのが好きで、俺もその影響で見てたんだよ。めちゃくちゃ面白くて、好きだった。幼稚園児の頃の将来の夢、『テレビの人』だったらしいし。」
「…え、さっき覚えてないって。」
「先週は、な。数日前に親からメールが送られてきてさ。断捨離してたら、俺が幼稚園の発表会で将来の夢を言っているDVDが出てきたんだって。見てみたら、そう言ってたよって送られてきた。」
小・中・高は将来の夢なんてなかったはずだけどな。
「それで思い出した。バラエティ番組見るの好きだったなって。」
「昔から、お笑いが好きだったんだね。」
「…そうだな。小学生の時は、面白くて好きな芸人さんいたし。この間までそのこと忘れてたけど。」
そう言って、俺はため息をついてしまう。だからって、手伝いに行っていいのか…?
「どうしたの?ため息なんかついて。…もしかして、ビール飲んでたのと関係ある?」
「いや…まあ、そうだけど。」
こいつに嘘ついてもバレそうだなと思い、俺はそう言った。
「ちなみになんだけど、俺が好きだった芸人さんって誰なのか知ってるのか?」
「もしかして、小林くんが事務所に入りたての頃に言ってた、『憧れの芸人さん』のこと?確か、ネットにそんなこと書いてたはず。」
そうだ、俺は確かに最初の頃そう言ってたかもな。
「賞レースで優勝していて、今でも人気がある芸人さんだよ。」
「ネタはそんなに知らないけど、すごい芸人さんだってのは知ってるよ。確か、事務所の先輩なんでしょ?」
「そうだよ。その芸人さんの単独ライブがもうすぐ…というか来週あるんだよ。来週の金曜日と土曜日に。その手伝いに行かないかって相方に誘われてさ。相方は毎回手伝いにいってるらしいんだ。ただ、今回手伝いの人数が少し足りないらしくてさ。」
「相方って、どっち?」
「光永暁斗だよ。」
いつも元気な奴。「トリオを組もう」と誘ってきたのも彼だ。
「あー、あきちゃんね。」
「…あきちゃん?」
「え、ファンはみんなそう呼んでるでしょ?」
知らない。ファンの声聞いたことないし。ファン5人の間でそう決めたのか?
「それで、手伝いに行くの?」
「いや…悩んでる。」
「え、どうして?」
「小学生の頃好きだった…憧れた人たちにそんな簡単に会っていいのかなって。俺、ネタが認められてその人たちに呼ばれて会えると思ってたから。」
でも、俺らの実力じゃ会うことなんて一生できない。それに、新ネタ作ってないし。それなら、会ってもいいのかもしれない。まあどうせ、俺らもうすぐ解散するだろうから、覚えられることなんてないけど。
「私は、芸人さんじゃないからわからないけどさ。いいんじゃない?会っても。」
「え?」
「その人たちに知ってもらうきっかけになるかもしれないし、そこから気になって動画サイトなどでネタを見てもらえるかもよ。それに、単独ライブってことはその芸人さんのネタ見れるかもしれないってことでしょ?それって、ラッキーじゃない?」
「手伝いだから、見れるかどうかは——」
「行ったら何か面白いことが起きるかも。」
何を期待してんだ。
「俺は、ネタを認められてやっと会える存在だと思ってたんだよ。努力することで、テレビやライブで共演できて、色んなところに誘われてさ。」
…努力、なんて今はしてないけど。
「ねえ、その中に出会って知ってもらうことは『努力』に入らないの?」
「え?」
「これから共演できるように、誘われるように、憧れの芸人さんの手伝いをしに行くことは『努力』とは言わないの?努力して作り上げたネタを知ってもらうように、見てもらえるように出会うことは『努力』とは言わないの?」
「それは…。」
「気づかれるまで、待ってないといけないの?」
でも…どうせ辞めるし…。
「小林くん、待ってるだけじゃダメだと思うよ。小林くんから動かないと、何も始まらないよ。何かが変わるかも。変わらないかもしれないけど。」
「俺は…。」
「…迷ってるなら、行ってみようよ。どうなるかなんて分からないけど、行動する事で良いことが起こるかも。」
そんなの。
「そんなの、分からないじゃん。」
「小林くん、『信じる者は、救われる』だよ。私のこと、信じてみてよ。まあ、結局は小林くんがどうするかだけどね。」
しばらく、何かを焼く音だけが聞こえる。俺は…どうしたいんだろう。こんなこと考えるぐらいなら、何も考えず彼女を信じて行ってみてもいいのか?
「あきちゃんは、何か考えてるかもなあ。」
彼女は突然そう言った。
「そうか?」
「だって、突然誘ってきたんでしょ?いつもは1人で行ってるのに。」
「だから、人数が足りないから誘ってきたんだって。」
「それ、本当かな?ああ見えて、3人で続けたくて考えて動いてるタイプだと思うんだよね。」
俺にはただただ元気でうるさいだけにしか見えないけど。
「トッキンは行くの?」
「トッキン?時野谷悠のこと?」
もう1人の相方で、マイペースなやつだ。
「そうだよ。」
変なあだ名つけられてんな…。
「あいつは、光永に『お前は絶対来い。何もないだろ?』って言われてた。」
「あはは、ぽい!」
ファンからもそう思われてるのかよ。
「あいつは本当に何も考えてないだろうな…。」
「私もそう思う。でも、そういうところがトッキンの良いところだと思うけどね。」
そうか?理解できない。
「え、じゃあその日『トゥエンティファイブ』揃うってこと!?」
「まだ俺行くって言ってないけど…。」
「やば、神じゃん!私もその日行けたらいいのに。」
「ファンが手伝いしてる様子を見にくるな。」
というか、どう入るんだよ。警備員に止められるだろ。
「はあ、未来人じゃなかったら行けたかもしれないのに。」
「未来人じゃなくても行けないだろ。俺らを見に。」
「小林くんたちも見たいけど、その単独ライブ。普通に見に行きたかったな。」
「え、何で?」
「だって、小林くんの憧れの芸人さんじゃん。絶対面白いに決まってるし。」
「未来じゃ見れないのかよ。」
「えっ!あ…それは、言えない掟なので。」
彼女はそう言った。まあ…そうだよな。
「見れないんだな。」
「違うよ!?私が、その芸人さんが今も単独ライブされてるのか知らないだけだよ!?」
嘘つくの下手か。慌ててるのバレバレだわ。
「まあ、彼らの年齢を考えれば分かることだからいいよ。そんな嘘つかなくて。…そういえば、聞いてなかったけど何年後から来たんだよ。」
「言わないよ。言ったら計算するじゃん。」
「バレたか。」
でも、俺らのこと知ってるってことはそう遠くない未来の可能性高いよな…。そうだよな、いつかは生で見れなくなるんだよな。
「『推しは推せる時に推せ』だね。未来人の私が言うと、めちゃくちゃ説得力あるでしょ。」
彼女は、何かがのったお皿を机に置きながらそう言った。
「じゃーん。伸びたカップラーメンを焼いて、お好み焼き風にしてみました。食べてみて。」
「じゃあ、いただきます。」
俺はそう言い、食べてみる。
「…うん、美味しい。」
「良かった!お好み焼きソースとか青のりとかあったら、もっと美味しくなったと思うけど。」
「…俺、行くよ。」
「ん?」
「事務所の先輩の、憧れた芸人さんの単独ライブの手伝いに行く。会える時に会っとかないとな。」
俺がそう言うと、彼女は何故かとても笑顔になった。
「何だよ。」
「別に?私が2つも名言を言ってあげたおかげかなーって思って。」
「元から存在する名言を言っただけだろ?」
「いいでしょ、別に。」
「…ありがとうな。」
「え?」
「お前と話してなかったら、小学生の頃好きだった芸人さんがいたあの時を思い出してなかったと思う。」
「それを思い出したのは、小林くんの親がメールしてきたからじゃないの?」
「まあ、それもだけど…お前と先週話してなかったら、メールもらってもスルーしてたと思う。」
親のメールちゃんと見たのは、あれが久しぶりだったと思う。
「それに、手伝いに行くかどうか決めることができたから。」
「最終判断は小林くんがしたんだから、感謝されることなんてないよ。」
「それでも、ありがとう。」
俺がそう言うと、彼女はニヤけて
「いやあ、推しに褒められる日が来るなんて。嬉しいなあ。」
と言った。さっきまでの謙遜どこ行った。
「あ!録音チャンス逃してるじゃん私!小林くん、もう一回言ってくれない?『ありがとう』だけでいいから!」
「何でだよ。嫌だよ。」
「3・2・1で録音するからね。じゃあいくよ、3・2——」
1という声が聞こえる前に、彼女の姿が一瞬で消えた。時計を見ると、1時25分になっていた。
「本当、いつも会話の途中でいなくなるんだから。よし、寝るか。」
洗い物は明日にしよう。俺はそう思いながら、ベッドに向かった。
という声が聞こえて、俺は目を覚ます。目を開けると、目の前に女性の顔があった。
「うわっ!」
「あ、ごめん。びっくりした?」
先々週から現れる未来人だ。その彼女が離れると、俺は体を起こす。時計を見ると、1時になっていた。
「もうそんな時間か…。」
「寝るの早いよ。」
「どこがだよ。深夜だぞ。てか、靴履いたままじゃねえか。」
「だって、着いたら家だったんだもん。玄関に置いてくるね。」
彼女はそう言いながら、靴を脱ぎ玄関に靴を置く。その靴忘れるなよ。
「へえ、ここが小林くんの家か。普通だね。」
「普通で悪かったな。というか、先週家に上がるなって言ったよね?」
「小林くんが家にいるのが悪いでしょ。」
プライバシーの侵害で訴えたい。
「何で今日は家にいるの?」
「バイトじゃなかったんだよ。」
「あ、先週と先々週はバイトだったから家にいなかっただけなの?」
「そう。」
そういえば、バイトの話してなかったか。
「それにしても、床の上で寝てるなんて。あ、ビール飲んでるな?」
いつの間にか寝てしまっていた。机の上には食べかけのカップラーメンと空の缶ビールが数本置いてある。彼女は缶ビールの中を見ながらそう言った。
「お酒強いの?」
「普通だよ。弱いわけじゃないし、強いわけでもない。」
「そうなんだ。弱いのかと思ってた。」
俺は、残りのカップラーメンを食べようと中を見る。うわ、麺伸びちゃってる。捨てよ。
「あれ、カップラーメン捨てちゃうの?」
俺がカップラーメンを持って立ち上がると、彼女がそう言ってきた。
「え、うん。伸びちゃってるし。」
「えー、もったいないよ!私が美味しくしてあげる。キッチン借りていい?」
「料理できないんじゃなかったのかよ。」
「それは、和菓子屋さんを目指してた時の話。博士のとこで家事いっぱいしてたら、少し料理できるようになったんだよ。」
「本当か?」
「それを確かめるためにも、私にそれ貸して。」
俺は彼女にカップラーメンを渡す。
「ソファに座ってていいよ。あ、フライパンある?あと、片栗粉と卵。」
「あるよ。ごくたまに料理することあるから。」
親が料理しろって色々食べ物送ってくるからな。
「本当だ。借りるね。」
「何を作るんだよ。」
「お好み焼き風にするんだよ。」
25分までに作り終わるんだろうな?途中でいなくなったら困るからな。
「あれ、鯉のぼり捨ててないじゃん。」
彼女は、キッチンの近くに置いていた小さい鯉のぼりを見て言った。
「何となく置いておいたんだよ。もうこどもの日終わったし、後で捨てようと思ってたけど。」
「そうなんだ。あ、小さい頃の夢聞きたかったのに聞けなかったんだった!」
「…答えてないよ、覚えてなかったから。」
「え、そうなの?」
「うん。」
彼女が料理を始めたのか、キッチンから様々な音が聞こえてくる。
「私、聞いたんだよね。」
彼女はそう喋り出した。
「何をだよ。」
「なんでこどもの日に金平糖を渡してきたのか。博士に聞いたんだよ。」
そういえば、そんな話したな。
「そしたら、『こどもの日じゃなくても、金平糖食べてただろ?』だって。そもそも、こどもの日にあげてたことなんて忘れてたし。」
「じゃあ、結局分からなかったのか。」
「『多分、よく食べてたからあげてたんだと思う。』だって。」
じゃあ、先週の俺の考えはほとんど当たってたんだな。
「それでさ、思い出したことがあって。」
「思い出したこと?」
「うん。私、すっかり忘れてたけど、小さい頃よく博士の家に遊びに行ってたなあって。確かに、その時に金平糖絶対食べてたなあって。」
それが原因なんだろうな、貰ってたのは。
「博士の家…伯父さんの家は、秘密基地みたいでさ。伯父さんが作ったおもちゃがいっぱいあったんだ。伯父さんは、『発明品だ!』って言ってたけど。」
「へえ、すごいね。」
「今考えたら、世に出さずに自己満足でおもちゃを作っているニートだけどね!私がタイムマシン作ること提案しなかったら、私に頼りっぱなしのヒモニートだっただろうし。」
めちゃくちゃボロクソ言うじゃん。
「でも、小さい頃の私はそんな伯父さんの家に行くのが好きだった。好きだったのに、この間まで忘れてたんだけど。」
「そうなんだ。」
「好きだったから、今の私がいるのかな。」
彼女はそう言った。
「最初、親に『博士の助手になる!』って言った時は私がタイムマシン作ること提案したら、博士がその気になってくれたから、嬉しくてなりたいって言ってたけど。家事全くしない博士が心配だったし、機械いじり好きだからできるかなーとも思ってたしね。でも、多分本当はそれだけじゃなくて、伯父さんの家やおもちゃが大好きだったのを心のどこかで覚えてたからなのかなって、博士から金平糖の話聞いてたら思ったね。」
金平糖の話からすごい広がったな。
「ごめん、自分語りしちゃったね。」
「…伯父さんのこと、大好きなんだな。」
「そうなのかな、腹立つこと多いけどね。ねえ、小さい頃好きだったことって今も影響されてると思う?」
彼女はそう言った。影響…されてるな、俺は。
「…人それぞれじゃないか?」
「まあ、そうだよね。」
「…俺は、されてるよ。」
俺はそう言った。少し酔っているからか、自然と声に出していた。
「そうなの?」
「元々、芸人になったのは高校生の時の友達に誘われたからだけど…。親がバラエティ番組見るのが好きで、俺もその影響で見てたんだよ。めちゃくちゃ面白くて、好きだった。幼稚園児の頃の将来の夢、『テレビの人』だったらしいし。」
「…え、さっき覚えてないって。」
「先週は、な。数日前に親からメールが送られてきてさ。断捨離してたら、俺が幼稚園の発表会で将来の夢を言っているDVDが出てきたんだって。見てみたら、そう言ってたよって送られてきた。」
小・中・高は将来の夢なんてなかったはずだけどな。
「それで思い出した。バラエティ番組見るの好きだったなって。」
「昔から、お笑いが好きだったんだね。」
「…そうだな。小学生の時は、面白くて好きな芸人さんいたし。この間までそのこと忘れてたけど。」
そう言って、俺はため息をついてしまう。だからって、手伝いに行っていいのか…?
「どうしたの?ため息なんかついて。…もしかして、ビール飲んでたのと関係ある?」
「いや…まあ、そうだけど。」
こいつに嘘ついてもバレそうだなと思い、俺はそう言った。
「ちなみになんだけど、俺が好きだった芸人さんって誰なのか知ってるのか?」
「もしかして、小林くんが事務所に入りたての頃に言ってた、『憧れの芸人さん』のこと?確か、ネットにそんなこと書いてたはず。」
そうだ、俺は確かに最初の頃そう言ってたかもな。
「賞レースで優勝していて、今でも人気がある芸人さんだよ。」
「ネタはそんなに知らないけど、すごい芸人さんだってのは知ってるよ。確か、事務所の先輩なんでしょ?」
「そうだよ。その芸人さんの単独ライブがもうすぐ…というか来週あるんだよ。来週の金曜日と土曜日に。その手伝いに行かないかって相方に誘われてさ。相方は毎回手伝いにいってるらしいんだ。ただ、今回手伝いの人数が少し足りないらしくてさ。」
「相方って、どっち?」
「光永暁斗だよ。」
いつも元気な奴。「トリオを組もう」と誘ってきたのも彼だ。
「あー、あきちゃんね。」
「…あきちゃん?」
「え、ファンはみんなそう呼んでるでしょ?」
知らない。ファンの声聞いたことないし。ファン5人の間でそう決めたのか?
「それで、手伝いに行くの?」
「いや…悩んでる。」
「え、どうして?」
「小学生の頃好きだった…憧れた人たちにそんな簡単に会っていいのかなって。俺、ネタが認められてその人たちに呼ばれて会えると思ってたから。」
でも、俺らの実力じゃ会うことなんて一生できない。それに、新ネタ作ってないし。それなら、会ってもいいのかもしれない。まあどうせ、俺らもうすぐ解散するだろうから、覚えられることなんてないけど。
「私は、芸人さんじゃないからわからないけどさ。いいんじゃない?会っても。」
「え?」
「その人たちに知ってもらうきっかけになるかもしれないし、そこから気になって動画サイトなどでネタを見てもらえるかもよ。それに、単独ライブってことはその芸人さんのネタ見れるかもしれないってことでしょ?それって、ラッキーじゃない?」
「手伝いだから、見れるかどうかは——」
「行ったら何か面白いことが起きるかも。」
何を期待してんだ。
「俺は、ネタを認められてやっと会える存在だと思ってたんだよ。努力することで、テレビやライブで共演できて、色んなところに誘われてさ。」
…努力、なんて今はしてないけど。
「ねえ、その中に出会って知ってもらうことは『努力』に入らないの?」
「え?」
「これから共演できるように、誘われるように、憧れの芸人さんの手伝いをしに行くことは『努力』とは言わないの?努力して作り上げたネタを知ってもらうように、見てもらえるように出会うことは『努力』とは言わないの?」
「それは…。」
「気づかれるまで、待ってないといけないの?」
でも…どうせ辞めるし…。
「小林くん、待ってるだけじゃダメだと思うよ。小林くんから動かないと、何も始まらないよ。何かが変わるかも。変わらないかもしれないけど。」
「俺は…。」
「…迷ってるなら、行ってみようよ。どうなるかなんて分からないけど、行動する事で良いことが起こるかも。」
そんなの。
「そんなの、分からないじゃん。」
「小林くん、『信じる者は、救われる』だよ。私のこと、信じてみてよ。まあ、結局は小林くんがどうするかだけどね。」
しばらく、何かを焼く音だけが聞こえる。俺は…どうしたいんだろう。こんなこと考えるぐらいなら、何も考えず彼女を信じて行ってみてもいいのか?
「あきちゃんは、何か考えてるかもなあ。」
彼女は突然そう言った。
「そうか?」
「だって、突然誘ってきたんでしょ?いつもは1人で行ってるのに。」
「だから、人数が足りないから誘ってきたんだって。」
「それ、本当かな?ああ見えて、3人で続けたくて考えて動いてるタイプだと思うんだよね。」
俺にはただただ元気でうるさいだけにしか見えないけど。
「トッキンは行くの?」
「トッキン?時野谷悠のこと?」
もう1人の相方で、マイペースなやつだ。
「そうだよ。」
変なあだ名つけられてんな…。
「あいつは、光永に『お前は絶対来い。何もないだろ?』って言われてた。」
「あはは、ぽい!」
ファンからもそう思われてるのかよ。
「あいつは本当に何も考えてないだろうな…。」
「私もそう思う。でも、そういうところがトッキンの良いところだと思うけどね。」
そうか?理解できない。
「え、じゃあその日『トゥエンティファイブ』揃うってこと!?」
「まだ俺行くって言ってないけど…。」
「やば、神じゃん!私もその日行けたらいいのに。」
「ファンが手伝いしてる様子を見にくるな。」
というか、どう入るんだよ。警備員に止められるだろ。
「はあ、未来人じゃなかったら行けたかもしれないのに。」
「未来人じゃなくても行けないだろ。俺らを見に。」
「小林くんたちも見たいけど、その単独ライブ。普通に見に行きたかったな。」
「え、何で?」
「だって、小林くんの憧れの芸人さんじゃん。絶対面白いに決まってるし。」
「未来じゃ見れないのかよ。」
「えっ!あ…それは、言えない掟なので。」
彼女はそう言った。まあ…そうだよな。
「見れないんだな。」
「違うよ!?私が、その芸人さんが今も単独ライブされてるのか知らないだけだよ!?」
嘘つくの下手か。慌ててるのバレバレだわ。
「まあ、彼らの年齢を考えれば分かることだからいいよ。そんな嘘つかなくて。…そういえば、聞いてなかったけど何年後から来たんだよ。」
「言わないよ。言ったら計算するじゃん。」
「バレたか。」
でも、俺らのこと知ってるってことはそう遠くない未来の可能性高いよな…。そうだよな、いつかは生で見れなくなるんだよな。
「『推しは推せる時に推せ』だね。未来人の私が言うと、めちゃくちゃ説得力あるでしょ。」
彼女は、何かがのったお皿を机に置きながらそう言った。
「じゃーん。伸びたカップラーメンを焼いて、お好み焼き風にしてみました。食べてみて。」
「じゃあ、いただきます。」
俺はそう言い、食べてみる。
「…うん、美味しい。」
「良かった!お好み焼きソースとか青のりとかあったら、もっと美味しくなったと思うけど。」
「…俺、行くよ。」
「ん?」
「事務所の先輩の、憧れた芸人さんの単独ライブの手伝いに行く。会える時に会っとかないとな。」
俺がそう言うと、彼女は何故かとても笑顔になった。
「何だよ。」
「別に?私が2つも名言を言ってあげたおかげかなーって思って。」
「元から存在する名言を言っただけだろ?」
「いいでしょ、別に。」
「…ありがとうな。」
「え?」
「お前と話してなかったら、小学生の頃好きだった芸人さんがいたあの時を思い出してなかったと思う。」
「それを思い出したのは、小林くんの親がメールしてきたからじゃないの?」
「まあ、それもだけど…お前と先週話してなかったら、メールもらってもスルーしてたと思う。」
親のメールちゃんと見たのは、あれが久しぶりだったと思う。
「それに、手伝いに行くかどうか決めることができたから。」
「最終判断は小林くんがしたんだから、感謝されることなんてないよ。」
「それでも、ありがとう。」
俺がそう言うと、彼女はニヤけて
「いやあ、推しに褒められる日が来るなんて。嬉しいなあ。」
と言った。さっきまでの謙遜どこ行った。
「あ!録音チャンス逃してるじゃん私!小林くん、もう一回言ってくれない?『ありがとう』だけでいいから!」
「何でだよ。嫌だよ。」
「3・2・1で録音するからね。じゃあいくよ、3・2——」
1という声が聞こえる前に、彼女の姿が一瞬で消えた。時計を見ると、1時25分になっていた。
「本当、いつも会話の途中でいなくなるんだから。よし、寝るか。」
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結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
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