2 / 58
第1部 ホワイティア支部改革編
【第1話】「冒険者、はじめました。即左遷されました」
しおりを挟む
──空が青い。雲も、やけに白い。
石畳の大通りをぼんやりと眺めながら、四谷知久はつぶやいた。
「……これ、完全に異世界ってやつだよなぁ」
振り返ると、背後には三角屋根の木造建築。
通りの脇にはお洒落な喫茶店や花屋が並び、道端では大道芸人がジャグリングを披露している。
そのすぐ横には、魔法使いっぽいローブ姿の人や、肩に小さなドラゴンを乗せた人まで。
どこを見ても、異世界ファンタジーど真ん中。
まるでゲームやラノベの世界に、まんま飛び込んだような光景が広がっていた。
視線を上げれば、街の奥に巨大な白い城がそびえている。塔の先端が空に刺さるようで、どうやら王都のシンボルらしい。
「うわー……テンション上がるなこれ。ラノベで100回は見た景色だけど、まさか自分が歩くことになるとはな」
夢のような景色に見惚れていたそのとき、不意に背後から声がかかった。
「ほう、貴殿……どうやら”ワタリビト”のようだな?」
振り向くと、そこには燃えるような赤髪と立派な鎧を身にまとった男が立っていた。
腰には鈍く光る巨大な剣。堂々とした佇まい。目つきも鋭く、明らかに只者ではない。
「わ、”ワタリビト”?」
「君たちの言葉では、なんと言ったか……そう、『異世界転生』だったな」
「ああ、なるほど」
話し方こそ堅苦しいが、意外と親切そうな人物だった。
「なに、そこまで珍しいものではない。私の部下にもひとり、”ワタリ”の者がいるからな」
どうやらこの世界では、異世界転生者がちらほら存在しているらしい。
男は街の一角を指差す。
「あそこに見えるのが、冒険者ギルドの中央本部だ」
「冒険者ギルド……!」
その響きに、自然とテンションが上がる。
ファンタジー世界といえば、まずは冒険者ギルド。これだけは外せない定番だ。
「”ワタリ”の者は皆、ギルドと聞くと嬉しそうな顔をするな。貴殿も行ってみるといい。登録すれば依頼を受けて報酬を得られるようになる。冒険者は誰よりも自由な仕事だ。自身の裁量次第で、いくらでも上へ行くことができる」
「ご丁寧に、ありがとうございます」
「なに、気にするな。”ワタリ”の人間は、しばしば強力な“加護”を持ってくる。その力を、この世界のために使ってくれれば……」
「グレン様! こちらにいらっしゃったのですか! 勝手にひとりで抜け出されると困ります!」
後ろから駆け寄ってきた護衛らしき男の声に、彼は肩をすくめた。
「むぅ……では、”ワタリ”の者よ。幸運を祈る」
「はい、ありがとうございました」
グレン──そう呼ばれていた赤髪の騎士に軽く一礼し、言われた通り、ギルドの中央本部へと歩き出した。
期待はある。けれど、それ以上に心配もある。
たとえば──この世界の通貨を、一文も持っていないこと。
そして何より、いまの知久は「無職」である。
異世界に来てなお、無職スタート。
なんとも現実味のある、異世界人生の幕開けだった。
(……まあ、前の世界でも一度無職になったことあるしな。あのときの惨めさ、思い出すだけで胃が痛い……)
『ご職業は?』と聞かれて気まずくなるあの感じ。
書類の『職業』欄に、渋々『無職』に丸をつけるあの屈辱。
昼間から外を歩いていると、周囲の視線が痛い──
もう二度と、あんな思いはしたくなかった。
(……って思ってた結果が、ブラック企業入って過労死だからなぁ。はは、我ながらバカだった)
そんな自嘲気味なため息をつきながら、グレンという騎士に教えられた、王都の中心部にある「冒険者ギルド・中央本部」の受付カウンターの前で──
「……はい。おめでとうございます、☆1です」
現実に引き戻された。
「え? ☆1って……最高ランク?」
「いいえ。最底辺です」
即答された。
クールな美人受付嬢は、表情一つ変えずに説明を続ける。
「ギルドでは、☆1から☆5までのランクがあります。普通の冒険者は☆2~3が大半。☆4はエリート、☆5は英雄級とされます」
「じゃあ、☆1って……」
「ええ。ただの一般人以下です。才能がないか、あるいは問題を抱えている方が対象ですね」
ド直球だった。
だが、それ以上にショックだったのは──
「いやいや、俺一応転生者なんだけど!? 加護とかチート的なの、あるはずなんだけど!? なんだっけ、ライフイズビューティフル……?」
「“加護:ライフイズエナジー”と登録されていますが……内容がよくわからなくて」
「……え、女神様にエナドリがどうとか言われたんですけど!?」
「女神……? エナドリ……? 聞いたことないですね」
うそだろ。
まさかの、魔剣もチート魔法もなし。
唯一の加護が、意味不明なものだったとは──
「ちなみに、異世界転生者の約9割は☆2以上です。あなたのような例は、まあ……個性重視ということで」
めちゃくちゃ優しい笑顔で、最大級の地雷を踏まれた。
「では、あなたは☆1ですので、実地研修として“ホワイティア村”への異動となります」
「い、異動!? 転生してすぐ!? てか王都編、もう終わり!?」
「☆1の方に紹介できる仕事は王都にはありませんので。健闘を祈りますね」
事務的かつ一片の情も感じない“お祈りメール”並の軽さだった。
──かくして。
知久の転生初日は、「異世界生活スタート」ではなく、「地方支部への左遷」という形で幕を開けた。
石畳の大通りをぼんやりと眺めながら、四谷知久はつぶやいた。
「……これ、完全に異世界ってやつだよなぁ」
振り返ると、背後には三角屋根の木造建築。
通りの脇にはお洒落な喫茶店や花屋が並び、道端では大道芸人がジャグリングを披露している。
そのすぐ横には、魔法使いっぽいローブ姿の人や、肩に小さなドラゴンを乗せた人まで。
どこを見ても、異世界ファンタジーど真ん中。
まるでゲームやラノベの世界に、まんま飛び込んだような光景が広がっていた。
視線を上げれば、街の奥に巨大な白い城がそびえている。塔の先端が空に刺さるようで、どうやら王都のシンボルらしい。
「うわー……テンション上がるなこれ。ラノベで100回は見た景色だけど、まさか自分が歩くことになるとはな」
夢のような景色に見惚れていたそのとき、不意に背後から声がかかった。
「ほう、貴殿……どうやら”ワタリビト”のようだな?」
振り向くと、そこには燃えるような赤髪と立派な鎧を身にまとった男が立っていた。
腰には鈍く光る巨大な剣。堂々とした佇まい。目つきも鋭く、明らかに只者ではない。
「わ、”ワタリビト”?」
「君たちの言葉では、なんと言ったか……そう、『異世界転生』だったな」
「ああ、なるほど」
話し方こそ堅苦しいが、意外と親切そうな人物だった。
「なに、そこまで珍しいものではない。私の部下にもひとり、”ワタリ”の者がいるからな」
どうやらこの世界では、異世界転生者がちらほら存在しているらしい。
男は街の一角を指差す。
「あそこに見えるのが、冒険者ギルドの中央本部だ」
「冒険者ギルド……!」
その響きに、自然とテンションが上がる。
ファンタジー世界といえば、まずは冒険者ギルド。これだけは外せない定番だ。
「”ワタリ”の者は皆、ギルドと聞くと嬉しそうな顔をするな。貴殿も行ってみるといい。登録すれば依頼を受けて報酬を得られるようになる。冒険者は誰よりも自由な仕事だ。自身の裁量次第で、いくらでも上へ行くことができる」
「ご丁寧に、ありがとうございます」
「なに、気にするな。”ワタリ”の人間は、しばしば強力な“加護”を持ってくる。その力を、この世界のために使ってくれれば……」
「グレン様! こちらにいらっしゃったのですか! 勝手にひとりで抜け出されると困ります!」
後ろから駆け寄ってきた護衛らしき男の声に、彼は肩をすくめた。
「むぅ……では、”ワタリ”の者よ。幸運を祈る」
「はい、ありがとうございました」
グレン──そう呼ばれていた赤髪の騎士に軽く一礼し、言われた通り、ギルドの中央本部へと歩き出した。
期待はある。けれど、それ以上に心配もある。
たとえば──この世界の通貨を、一文も持っていないこと。
そして何より、いまの知久は「無職」である。
異世界に来てなお、無職スタート。
なんとも現実味のある、異世界人生の幕開けだった。
(……まあ、前の世界でも一度無職になったことあるしな。あのときの惨めさ、思い出すだけで胃が痛い……)
『ご職業は?』と聞かれて気まずくなるあの感じ。
書類の『職業』欄に、渋々『無職』に丸をつけるあの屈辱。
昼間から外を歩いていると、周囲の視線が痛い──
もう二度と、あんな思いはしたくなかった。
(……って思ってた結果が、ブラック企業入って過労死だからなぁ。はは、我ながらバカだった)
そんな自嘲気味なため息をつきながら、グレンという騎士に教えられた、王都の中心部にある「冒険者ギルド・中央本部」の受付カウンターの前で──
「……はい。おめでとうございます、☆1です」
現実に引き戻された。
「え? ☆1って……最高ランク?」
「いいえ。最底辺です」
即答された。
クールな美人受付嬢は、表情一つ変えずに説明を続ける。
「ギルドでは、☆1から☆5までのランクがあります。普通の冒険者は☆2~3が大半。☆4はエリート、☆5は英雄級とされます」
「じゃあ、☆1って……」
「ええ。ただの一般人以下です。才能がないか、あるいは問題を抱えている方が対象ですね」
ド直球だった。
だが、それ以上にショックだったのは──
「いやいや、俺一応転生者なんだけど!? 加護とかチート的なの、あるはずなんだけど!? なんだっけ、ライフイズビューティフル……?」
「“加護:ライフイズエナジー”と登録されていますが……内容がよくわからなくて」
「……え、女神様にエナドリがどうとか言われたんですけど!?」
「女神……? エナドリ……? 聞いたことないですね」
うそだろ。
まさかの、魔剣もチート魔法もなし。
唯一の加護が、意味不明なものだったとは──
「ちなみに、異世界転生者の約9割は☆2以上です。あなたのような例は、まあ……個性重視ということで」
めちゃくちゃ優しい笑顔で、最大級の地雷を踏まれた。
「では、あなたは☆1ですので、実地研修として“ホワイティア村”への異動となります」
「い、異動!? 転生してすぐ!? てか王都編、もう終わり!?」
「☆1の方に紹介できる仕事は王都にはありませんので。健闘を祈りますね」
事務的かつ一片の情も感じない“お祈りメール”並の軽さだった。
──かくして。
知久の転生初日は、「異世界生活スタート」ではなく、「地方支部への左遷」という形で幕を開けた。
0
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる