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第1部 ホワイティア支部改革編
【第17話】「仲間の声、届かぬ背中」
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翌朝。知久はギルドの一角にゴルディを呼び出していた。
「……つまり、大将はこの支部を変えたいんだな?」
「ああ。帳簿を見ればわかる通り、マルベックは金を抜いてる。それだけじゃない。労働環境も、報酬体系も、全部おかしい。今のままじゃ、俺たちが潰れる」
「まったくだ。あの野郎、働いてねえくせに、部屋だけは立派にしてやがるからなあ」
ゴルディは顎に手をやって、にやりと笑った。
「面白れえ。乗ったぜ大将。俺でよけりゃ、力になる」
「ありがとう。お前がいてくれて助かる」
しかし、他のギルドメンバーたちは──そうはいかなかった。
仲間たちを集めて事情を説明する知久。
だが、反応は鈍かった。
「不正? ……まぁ、そうかもしれねえけど、俺たち☆1だぜ?」
「他の支部に行ったって、居場所なんかねえよ」
「この支部が潰れたら、俺たち、どこに行けばいいんだよ」
「確かに環境はクソだが、ここで生きてくしかないんだ……」
その言葉に、知久は返す言葉を失った。
自分たちには選択肢がない、と信じ込まされた仲間たち。
その重たい空気が、知久の胸をひどく締め付けた。
『お前の代わりなんていくらでもいるんだからな!』
『辞めたいだぁ!? お前みたいな使えない奴ががこの会社以外で仕事できると思ってるのか!?』
『この会社を辞めても辛いのは変わらねえぞ!?』
前の世界で、毎日のように聞かされたパワハラ上司の罵声を思い出す。
冷静になった今となっては、矛盾したことを言われていたことがわかる。
だが、当時の知久にはそのことがわからず、ただ黙って言うことを聞いていた。
ほとんど洗脳状態だったと言っていいだろう。
今の彼らは、当時の自分と同じだ。
「……そっか」
短くそう答えて、知久はその場を去った。
搾取する者への怒りを胸に秘めて。
次に向かったのは、村の教会。
柔らかな風が吹く中、教会の裏庭で花の世話をしていた少女──トキワが顔を上げた。
「あら~知久さん。顔色がよくないですけど……大丈夫ですか~?」
「トキワに、ちょっと聞いて欲しいことがある。大事な話だ」
知久は事情を説明した。マルベックの不正、証拠集め、そして支部の改革。
「この村の教会出身のトキワなら、村の人たちにも顔が効くし、ギルドメンバーたちを説得するにも力を貸して欲しいんだ。だから……」
聖女様と呼ばれ、村人からもギルドメンバーからも慕われている。
彼女がこちらについてくれれば、より多くの人を動かすことができる。
そう思ったのだが──
「ごめんなさい。わたし、そういうの、怖いです」
静かに、けれどはっきりと彼女は言った。
「争いとか、対立とか……私、誰かとぶつかるのが苦手で……」
「……そうか。無理は言えないよ」
肩を落としかけたそのとき、トキワが言った。
「でも……知久さんの気持ちは、なんとなくわかります。わたしも、誰かのために何かしたいって、思ったことあるから……」
その声は、か細く、それでもどこかで震えていた。
「わたし、勇気がないから……すぐには動けないかもしれない。でも……知久さんが頑張るなら、応援は……するかも……」
知久はゆっくりと笑った。
「ありがとう。……それだけでも、力になる」
まだ十分じゃない。
でも、確かにほんの少しだけ、心が動いた。
夜。支部の裏手、人気のない倉庫前。
知久はひとり、ため息をついた。
「……仲間も、証拠も、思い通りに集まらない」
焦りが胸をざわつかせる。時間だけが過ぎていくこの状況に、苛立ちさえ感じていた。
そのときだった。
ふっと、気配もなく風が流れる。
「焦っているようですね」
振り返れば、フードで顔を隠した謎の人物──暗がりに紛れて、表情は見えない。
声だけでは女性なのか男性なのかわかりづらい。
「あんた、この前の……! なんで、あんなもの俺に渡したんだ!?」
相手はこちらの問いには答えなかった。
「このままじゃ何も変わらない。あなた自身の力が、まだ足りない」
「……じゃあ、どうしろってんだ」
「加護は、ただの道具ではない。“願い”に応じて進化する。使いこなすんです。もっと深く。あなたなら、できるはず」
そう言い残して、謎の人物は夜闇に消えた。
残された知久は、拳を強く握りしめる。
「……願いに、応じて……」
目を閉じ、深呼吸する。そして静かに、加護の起動を宣言した。
「《ライフイズエナジー》、起動」
いつものように自販機が目の前に出現する。
が、パネルに書かれている文字と、見覚えのない缶が半透明で表示されている。
---------------------------------------------------------------------
《スキルポイントを消費して新たなドリンクを解放できます》
《所持スキルポイント:3》
→《ナイトシーカー 消費:2》:諜報特化
→《エーテルミスト 消費:3》:魔力強化
---------------------------------------------------------------------
(今必要なのは……こっちだ)
ボタンを押した方の缶を押すと、スキルポイントが消費され、新しいドリンクが購入できるようになったようだ。
再度押すと、ガタッと音が鳴り、いつものように受け取り口から出てきた。
――≪ナイトシーカー≫
黒い缶に金の文字で《NIGHT SEEKER》と書かれたこのドリンクは、10分の間、視界強化、気配遮断、静音移動を同時に可能にする。
……と効能の欄に書かれていた。
「これなら、やれる……!」
知久の表情に、再び光が戻った。
夜の帳が降りる中、反撃の一歩が、静かに踏み出された。
「……つまり、大将はこの支部を変えたいんだな?」
「ああ。帳簿を見ればわかる通り、マルベックは金を抜いてる。それだけじゃない。労働環境も、報酬体系も、全部おかしい。今のままじゃ、俺たちが潰れる」
「まったくだ。あの野郎、働いてねえくせに、部屋だけは立派にしてやがるからなあ」
ゴルディは顎に手をやって、にやりと笑った。
「面白れえ。乗ったぜ大将。俺でよけりゃ、力になる」
「ありがとう。お前がいてくれて助かる」
しかし、他のギルドメンバーたちは──そうはいかなかった。
仲間たちを集めて事情を説明する知久。
だが、反応は鈍かった。
「不正? ……まぁ、そうかもしれねえけど、俺たち☆1だぜ?」
「他の支部に行ったって、居場所なんかねえよ」
「この支部が潰れたら、俺たち、どこに行けばいいんだよ」
「確かに環境はクソだが、ここで生きてくしかないんだ……」
その言葉に、知久は返す言葉を失った。
自分たちには選択肢がない、と信じ込まされた仲間たち。
その重たい空気が、知久の胸をひどく締め付けた。
『お前の代わりなんていくらでもいるんだからな!』
『辞めたいだぁ!? お前みたいな使えない奴ががこの会社以外で仕事できると思ってるのか!?』
『この会社を辞めても辛いのは変わらねえぞ!?』
前の世界で、毎日のように聞かされたパワハラ上司の罵声を思い出す。
冷静になった今となっては、矛盾したことを言われていたことがわかる。
だが、当時の知久にはそのことがわからず、ただ黙って言うことを聞いていた。
ほとんど洗脳状態だったと言っていいだろう。
今の彼らは、当時の自分と同じだ。
「……そっか」
短くそう答えて、知久はその場を去った。
搾取する者への怒りを胸に秘めて。
次に向かったのは、村の教会。
柔らかな風が吹く中、教会の裏庭で花の世話をしていた少女──トキワが顔を上げた。
「あら~知久さん。顔色がよくないですけど……大丈夫ですか~?」
「トキワに、ちょっと聞いて欲しいことがある。大事な話だ」
知久は事情を説明した。マルベックの不正、証拠集め、そして支部の改革。
「この村の教会出身のトキワなら、村の人たちにも顔が効くし、ギルドメンバーたちを説得するにも力を貸して欲しいんだ。だから……」
聖女様と呼ばれ、村人からもギルドメンバーからも慕われている。
彼女がこちらについてくれれば、より多くの人を動かすことができる。
そう思ったのだが──
「ごめんなさい。わたし、そういうの、怖いです」
静かに、けれどはっきりと彼女は言った。
「争いとか、対立とか……私、誰かとぶつかるのが苦手で……」
「……そうか。無理は言えないよ」
肩を落としかけたそのとき、トキワが言った。
「でも……知久さんの気持ちは、なんとなくわかります。わたしも、誰かのために何かしたいって、思ったことあるから……」
その声は、か細く、それでもどこかで震えていた。
「わたし、勇気がないから……すぐには動けないかもしれない。でも……知久さんが頑張るなら、応援は……するかも……」
知久はゆっくりと笑った。
「ありがとう。……それだけでも、力になる」
まだ十分じゃない。
でも、確かにほんの少しだけ、心が動いた。
夜。支部の裏手、人気のない倉庫前。
知久はひとり、ため息をついた。
「……仲間も、証拠も、思い通りに集まらない」
焦りが胸をざわつかせる。時間だけが過ぎていくこの状況に、苛立ちさえ感じていた。
そのときだった。
ふっと、気配もなく風が流れる。
「焦っているようですね」
振り返れば、フードで顔を隠した謎の人物──暗がりに紛れて、表情は見えない。
声だけでは女性なのか男性なのかわかりづらい。
「あんた、この前の……! なんで、あんなもの俺に渡したんだ!?」
相手はこちらの問いには答えなかった。
「このままじゃ何も変わらない。あなた自身の力が、まだ足りない」
「……じゃあ、どうしろってんだ」
「加護は、ただの道具ではない。“願い”に応じて進化する。使いこなすんです。もっと深く。あなたなら、できるはず」
そう言い残して、謎の人物は夜闇に消えた。
残された知久は、拳を強く握りしめる。
「……願いに、応じて……」
目を閉じ、深呼吸する。そして静かに、加護の起動を宣言した。
「《ライフイズエナジー》、起動」
いつものように自販機が目の前に出現する。
が、パネルに書かれている文字と、見覚えのない缶が半透明で表示されている。
---------------------------------------------------------------------
《スキルポイントを消費して新たなドリンクを解放できます》
《所持スキルポイント:3》
→《ナイトシーカー 消費:2》:諜報特化
→《エーテルミスト 消費:3》:魔力強化
---------------------------------------------------------------------
(今必要なのは……こっちだ)
ボタンを押した方の缶を押すと、スキルポイントが消費され、新しいドリンクが購入できるようになったようだ。
再度押すと、ガタッと音が鳴り、いつものように受け取り口から出てきた。
――≪ナイトシーカー≫
黒い缶に金の文字で《NIGHT SEEKER》と書かれたこのドリンクは、10分の間、視界強化、気配遮断、静音移動を同時に可能にする。
……と効能の欄に書かれていた。
「これなら、やれる……!」
知久の表情に、再び光が戻った。
夜の帳が降りる中、反撃の一歩が、静かに踏み出された。
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