異世界働き方改革~エナドリ自販機で社畜を卒業します~

ゼニ平

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第1部 ホワイティア支部改革編

【第26話】「迫る脅威」

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「《ライフイズエナジー》、起動!」

 知久は《クリアソーダ》を取り出し、一気に飲み干す。
 爽やかな炭酸が喉を焼き、脳内に火花が走る。

 思考が冴える。空間把握、音、視界──すべてが明瞭に浮かび上がり、目前の状況をリアルタイムで処理していく感覚が戻ってくる。

(落ち着け、落ち着け。みんなの命がかかってるんだ。判断ミスは許されない……!)

 ギルド内は騒然としていた。
 みな、戦いの準備を始めている。

「数は!?」

「ざっと見ただけでも三十体以上……! 先頭に、今まで見たことのない大型個体が──!」

「わかった、全員武器を持て! 戦えるやつは村の前に集合だ!」

 知久の号令が場の空気を引き締め、ギルドメンバーたちが慌ただしく装備を手に取り、駆け出していく。

「中央に伝令を! 救援を要請してくれ!」

「わかりました!」

「ミロリー、村の周囲に可能な限り深い穴を掘ってくれ! 侵入経路を塞ぐ!」

「は、はいっ!」

 ミロリーは杖を握り直し、地面に集中する。

「アゼリア、前衛を頼む! 俺は指揮と支援に回る!」

「任せときなさい!」

 赤髪をなびかせながら、アゼリアは真っ先に飛び出した。

「トキワ! 村人を全員広場に集めてくれ!」

「わかりました~!」

 トキワは駆け出しながらも村人たちに笑顔で呼びかけ、混乱の中でもパニックを抑えていた。

「エナさん。村の人たちを先導して、避難をしてくれ」

「……っ! 待ってください! 私も戦います!」

「あなたはホワイティア支部の人間じゃない。命を懸ける必要はない」

「私は、あなたに“また”死んで欲しくありません!!」

 知久の手が止まる。

「先輩命令だ、紫藤恵那(しどうえな)」

 記憶の奥底にある、疲弊した職場の夜。
 小さな背中にコーヒーを渡したあの瞬間が、蘇る。

「…………先輩」

「心配すんなって。もう二度と──死ぬもんか」

「……先輩は、そう言って死んだんじゃないですか」

「だからだよ。もう二度と、死なないって決めたんだ」

 村の入り口では、すでに数体のモンスターが姿を見せていた。
 獣型、虫型、飛行型──どれもこの辺りでは見かけない未知の個体ばかりだ。

「もしかして……どこかのダンジョンから、一気に吐き出された……?」

 偶発的なダンジョンの崩壊。
 それが原因なら、まさに天災に等しい災害だ。

「みんな! 絶対に村には入れるな!!」

 ギルドメンバーたちは全員☆1冒険者。
 普段はスライムや狼の討伐しか経験がない者も多い。だが──今はもう、誰も逃げ出そうとはしていなかった。

「大丈夫だ! 俺たちは変わった。できる!」

 知久が叫ぶ。
 その声に応えるように、アゼリアが剣を構え、燃えるような赤髪をなびかせて飛び出す。

「いくわよォォォ!!」

 続いて他の冒険者たちも雄叫びを上げながら後に続く。

「燃えて爆ぜろ!! ≪フランベルク≫!!」

 王家の秘宝、≪魔剣フランベルク≫が彼女の声に応じて一段と大きく燃え上がる。

(兄貴……あたし、もう仲間がいる。あたしを信頼して、前を任せてくれる仲間が。だから、大丈夫だよ)

「だああああああああ!!!!!」

 体を捻り、剣を振る。剣撃と炎で魔獣たちが次々と倒れていく。
 その剣は戦いの間ずっと、彼女の手から離れることはなかった。

「《アース・ウォール》!!」

 ミロリーの魔法が地面を駆け抜け、モンスターの進路に土壁を立ち上げる。
 トキワは村人を安全な避難路へと誘導しながら、負傷者には癒しの魔法をかけ続けていた。
 知久も後方から指揮をとり、冷静に全体を見渡していく。

「左! 回り込んできたぞ! ゴルディ、頼む!」

「任せろ、大将! このやろう、そこは通さねえ!」

「ミロリー! モンスターを囲うように壁を再形成! 誘導しろ!」

「わかりましたっ!」

 混乱の中でも、ホワイティア支部の仲間たちはかつてないほどの連携を見せていた。

 以前のようなバラバラな連中ではない。たとえ⭐︎1でも、互いに支え合い、信じ合う仲間として、確かに成長していた。

──そのとき、森の奥に、不自然に空気が揺らめく影が現れる。

 地響きが伝わってくる。
 木々をなぎ倒し、ひときわ巨大なシルエットがゆっくりと姿を現した。
 全身が岩のようにゴツゴツとした甲殻に覆われ、目は禍々しい赤。

「……でかい。あれがボスだな」

 知久はすぐさま《ブルーライトニング》を飲み干す。
 視界が鋭くなり、空気の流れすら掴める感覚が宿る。

「みんな、気を抜くな! こいつが本番だ!」

 決戦の幕が、今──音を立てて、上がった。
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