異世界働き方改革~エナドリ自販機で社畜を卒業します~

ゼニ平

文字の大きさ
28 / 58
第1部 ホワイティア支部改革編

【第27話】「無理するな、って言ったのに!」

しおりを挟む
 森の外れ──村を囲う柵の内側。
 焼け焦げた木々の向こうから、モンスターの咆哮が響いた。

「こいつが……ボスか!」

 全身に黒い鱗をまとった四足の巨獣が、うなり声とともに姿を現した。
 その体長は10メートルを超え、背には棘のような突起。眼光は異様なまでにギラついている。

「あれは……《都喰らい》!!☆5の魔獣だ!」

「大昔、ただ通り過ぎただけで都を滅ぼしたと言われている、あいつか!?」

「嘘だろ……あんなの、中央の冒険者でも倒せるかわからないレベルだぞ!!」

「いくら武器が良くなったって言っても……あんなの……!!」

 みな、怖気づいてしまっている。

「来るわよッ!」

 アゼリアが叫ぶと同時に、知久は加護を起動した。

「《ライフイズエナジー》起動、《レッドバイソン》購入!」

 自販機がうなりを上げて反応し、缶が勢いよく飛び出す。
 知久はそれを一気に煽った。

「ぉおおおおッ!!」

 身体に力がみなぎる。今なら、どんな相手にも怯まない。
 知久は剣を握りしめ、巨獣に突撃する。

だが──

「知久待って! 突っ込みすぎよ!」

 アゼリアの声も届かない。
 知久はすでに魔獣の懐まで突き進んでいた。

「これで──終わりだァッ!!」

 知久の剣が唸りを上げ、巨獣の前脚を斬り裂く。だが、それでも倒れない。
 逆に、巨獣の尾が唸りを上げて薙ぎ払われ──

「っが……!」

 知久は吹き飛ばされた。空中でバランスを崩し、背中から地面に叩きつけられる。
 視界が揺れ、缶が転がる音だけが耳に残った。

「知久さん!!」

 駆け寄るミロリーの声。
 知久はよろよろと立ち上がるが、足元がふらつく。

「ま、まだ……戦える……」

 元々、知久に魔物討伐の経験はほとんどない。
 さらに、複数のドリンク同時使用の反動もある。
 体が悲鳴を上げているのがわかっている。
 だが、それでも知久は止まるわけにはいかなかった。
 支部長代理として、皆を守る。それだけしか考えていなかった。
 再び剣を握り、魔獣に向かって行こうとした瞬間。

「もうやめなさいよ!!」

 叫んだのは、アゼリアだった。
 その声には、怒りと焦りが入り混じっていた。

「無理しすぎなのよ、あんたは! 一人で全部背負おうとしないでよ!」

「だって……俺は……支部長代理だから……」

「だからって、倒れたら意味ないでしょ! 何のために、みんながいると思ってるのよ!!」

 アゼリアが支えるように知久の肩に手を置く。

「でも、みんなを守るためには……」

「違いますっ……!!」

 小さく、けれどはっきりとした声が重なる。

「支えるのは、あなただけの役目じゃない。……私たちだって、仲間なんですよ」

 ミロリーの目にも涙がにじんでいた。

「《ヒール・ライト》!!」

 トキワが寄ってきて、傷を癒してくれる。

「あなたがいなければ、わたしは、逃げてばかりでした。だから、一緒に戦わせてください!」

「……っ!」

 知久の肩が震える。
 自分が、また同じことをしていたと気づく。
 前の世界で、全てを抱え込んで潰れた自分を。

 その時。

「このままじゃ村が危ないぞ!」

 ゴルディが叫んだ。
 巨獣は再び体勢を立て直し、咆哮とともに突進の構えを取っていた。

「アゼリア。ミロリー。トキワ。ごめん。俺一人じゃみんなを守れない。だから……頼っていいか?」

「当たり前でしょ!! 行くわよ!! みんなで!!」

 アゼリアが叫ぶ。

「仕留めるわよ!! 全員で!!」

「おーっ!!」

 それぞれが武器と魔法を構え、知久も小さく頷いた。

「ありがとう……」

 ギルド全員の連携が始まる。
 炎と剣、魔法と戦術──
 誰か一人が突出するのではなく、皆で力を出し合う戦い。
 それは、知久が本当に作りたかったギルドの姿だった。

──戦いの果てに、巨獣は崩れ落ちた。

 息を切らしながら、知久は空を見上げる。

「みんな、ありがとう……」

 夜空には、満天の星が広がっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...