異世界働き方改革~エナドリ自販機で社畜を卒業します~

ゼニ平

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第1部 ホワイティア支部改革編

【第28話】「女神の再訪と決意の夜」

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 夜明け前、ホワイティアの村は静寂に包まれていた。
 つい数時間前まで地響きを上げていたモンスターの群れは跡形もなく、辺りには焦げた木々と崩れた土塁の残骸だけが残っている。

 空が白み始めた頃、知久はギルド支部のベンチに座っていた。
 血の気の引いた顔色、泥に汚れた服。夜通し戦い続けた体は限界を超えていた。

「おーい、大将、生きてるか?」

 肩を軽く叩かれ、ゆっくり顔を上げる。
 そこには、満身創痍のゴルディと、どこか誇らしげな顔をしたアゼリア、ミロリー、トキワが立っていた。

「……生きてる。たぶんな」

「よかった~。さすがに、ちょっと怖かったですよ~」

「死ぬかと思いました……」

「何にせよ、終わったわね。これで、村も支部も守りきれた」

「……みんながいたから、だな」

 知久の声はかすれていたが、その言葉には確かな重みがあった。
 自分ひとりでは絶対に守れなかった。仲間がいて、だからこそ勝てた。

 トキワが静かに差し出したのは、布にくるまれたパンと、ぬるいスープだった。

「大丈夫ですか~? これ、食べてください~!!」

「ありがとう……助かる」

 ギルドの周囲では、他のメンバーたちも少しずつ動き始めていた。
 破損した柵の補修、負傷者の手当て、残骸の撤去。
 それぞれが自分にできることを、静かに、でも誇らしくこなしていた。

「大将、支部長代理なんて肩書き、まじで板についてきたなぁ」

「やめてくれ……まだ全然慣れてないよ……」

 そう言いながらも、知久の顔には、どこか満足げな微笑が浮かんでいた。

──ほんの少しだけ、前に進めた気がした。

 ☆ ☆ ☆

 支部長室は、静寂に包まれていた。
 窓の外では、まだ星が瞬いている。知久はソファに倒れこみ、うつ伏せのまま寝息を立てていた。

 机の上には山積みの書類。横には飲みかけのドリンク缶と、空になった《レッドバイソン》や《ブルーライトニング》の空き缶がいくつも転がっている。

 戦いの後処理をしないといけなかったのだが、

「こっちは任せてあんたは休みなさい。あんた、最近ろくに寝てなかったでしょうが」

「……うん。こっちは私たちだけでも大丈夫です」

「ですよ~」

 なんて言われて早々に帰らされてしまった。
 疲れが、全身にまとわりつく。
 夢か、現か。知久の意識はふっと浮かび上がるように、白い光に包まれた。

☆ ☆ ☆

 気がつくと、彼は白い空間に立っていた。
 かつて一度見たことのある場所。
 そして、目の前に──女神が立っていた。

「久しぶりね。元・社畜くん」

「……女神様?」

 知久は目を見開いた。

「え、どうしてまた……?」

 女神は微笑んで、静かに歩み寄る。

「ちょっとだけ、おしゃべりに来たのよ。これが最後の機会だから」

「最後……?」

「ええ。私はもう、あなたを導く存在ではなくなる。ここから先は、あなた自身の力で道を選んでいくの」

 知久は目を伏せる。

「……俺、ちゃんとやれてますかね?」

 女神は、ほんの少しだけ瞳を細めた。

「そう思うなら、自分で答えを出しなさい。でも……」

 彼女は指先をすっと伸ばし、知久の胸元を軽く突いた。

「あなたは変えたわ。この村を。このギルドを。少しずつ、でも確かに」

「本当ですか……」

「ふふ、疑うの?」

 女神の微笑みには、どこか母のようなあたたかさがあった。

「でもね、これはまだ始まりにすぎないの。あなたの“改革”は、もっと広い世界へと続く。働き方も、生き方も、変えていく。それが、あなたの選んだ道なんでしょう?」

 知久は、ゆっくりと頷く。

「……はい」

 女神は一歩下がり、柔らかく手を振った。

「それじゃあ、私はこれで。……ああ、そうだ」

 名残惜しげに、ふと振り返る。

「あなたの“改革”は、ホワイティアだけじゃく……いずれ世界を救うことになる。そのためにも、頑張ってね」

「俺が、世界を……?」

 光がふわりと舞った。
 そして次の瞬間。

☆ ☆ ☆

「……ん」

 知久はソファの上で目を覚ました。
 朝日がカーテンの隙間から差し込んでいる。
 デスクの上の書類が揺れ、湯気の立つ缶コーヒーの香りがほのかに漂っていた。

「……夢、か」

 ぼそりと呟いて、知久は立ち上がる。

「働き方改革の……続き、始めるか」

 顔を洗いに、ゆっくりと支部長室を出ていく。
 その背中は、どこか清々しく、次の朝を迎える準備ができていた。
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