ホラーショートショート詰め合わせ

きさいち

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山での約束

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「約束をしてくれ」
「やだよ。面倒臭い」
 丸刈りで小汚いガキを山から追い出し、踵を返す。こっちはただ敷地に侵入した不届き者を排除したまでだ。それが何を思ったのか懐かれてしまった。変なガキだ。また会いに行くから一緒に遊ぼう、だとさ。


「約束をしてくれ」
「やだよ。他をあたれ」
 数日してまたあいつはやってきた。近付いてはいけない山に登った罰として外出禁止を言い渡されていたらしい。そのまま出てこなくてよかったのに……。わざと声に出したらそのガキは憤慨したがすぐに機嫌を直して何して遊ぶと聞いてきた。夕刻になるとあいつはまた遊ぶ約束をしろと迫ってくる。とりあえず拒絶した。


「また来るぞ。約束だ」
「帰れ」
 最初の不法侵入から十の月日が過ぎた。やつは背も伸び声も低くなった。悪ガキなのは相変わらずだ。そしていつもと同じ次の約束をして去っていく。人間というものは約束事が好きなのだろうか。


「次はいつ来られるかわからないが、また。約束だ」
「いい加減しつこいな」
 あれからどれだけの季節が過ぎただろう。ガキだったあいつはいつの間にか所帯を持ち、子をこさえていた。山へ登る回数は減ったものの、それでもやつはやってくる。わざわざこの山の近くの仕事を選んだのだという……。山から出られぬ私と違い、こいつはどこへでも行けるというのに、つくづく変なやつだ。


「約束、してくれ」
「やだよ。押し付けるな。お前がやれ」
 しわがれてくたびれた身体。もう山を登る元気すらないだろうに、こうまでして会いに来るのが不思議でならない。そしてあろうことか、私に家族、娘や孫、ひ孫、その先の子々孫々を見守っていてほしいと請うてきた。骨と皮しかないその両手が、冷たい感触が、胸をざわつかせるには十分すぎた。


 今日は山が騒がしい。人の入りが増えたと思ったらあっという間に山の木が切られ、土が削られていった。あいつはあの約束の日から姿を見せない。たくさんの侵入者の一人一人の顔を確認する。当然あいつの姿はない。なんだかもうこいつらを追い出すのも億劫だ。そうこうするうちに山の出口に安置されていた道祖神が人の手によって倒された。
 あいつの匂いを追って山を降りた。初めて歩く道は硬く、デコボコした山と違い歩きやすい。
 
山の出口からほど近く。あいつの匂いの痕跡をみつける。なんだ、随分と近い所にいたのだな。石階段を上り、似た形の石、似た形の木の板が群がる石畳を進む。

 やがて目の前には真新しい墓石が一つ。堂々と鎮座し私を迎え入れた。一度だけ聞いたあいつの名前が石に刻まれている。それで全てを理解してしまった。

 ……あーあ。

 約束なんてするもんじゃない。

 碌なことになりやしない。

 お前の子孫がいる限り、私は何回この光景を見なければならぬのか。

 返事のない石に向かい悪態をついた。


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