6 / 6
エピローグ:神の計算違い
しおりを挟む
エピローグ:神の計算違い
天界の配給窓口は、今日も相変わらずの忙しさだった。
「はい、次。聖槍のセット。……次!」
担当の神は、下界を眺めて舌打ちした。
「おかしい……。
私の計算では、あの事務屋の男は今頃、聖剣の勇者の後ろで荷物を運んでいるはずだったんだが」
神のシナリオは完璧なはずだった。
同時期に、同じ街へ、主役の勇者と脇役の事務屋を転生させる。
勇者に華々しく魔王を討たせるため、言葉が通じない場所でも困らないよう『翻訳』を、道中の大量の荷物に困らないよう『倉庫』を、そして常に勇者の隣で汗もかかずに控えていられるよう『適応』を――。
男に与えたスキルセットはすべて、勇者が「快適に冒険するため」の、最高のサポートツール(荷物持ち用)だったのだ。
ところが、どうだ。
神が授けた「勇者のための便利機能」を、男は「国家規模の物流システム」へと変換してしまった。
神が選んだはずの主役(勇者)が、事務屋の前で深々と頭を下げ、活動資金の融資を乞うている。
「馬鹿な……。荷物持ちどころか、主役のスポンサーじゃないか」
さらに神を驚かせたのは、男が選んだ「居場所」だった。
男は、かつての暗殺未遂という痛烈な教訓を経て、砂漠という「難攻不落の要塞」を本拠地に据えていた。
そこは、魔物にとっても過酷すぎる環境。
だが男には『適応』があるため、そこは冷房の効いた書斎と変わらない。
砂漠という土地自体には領土的価値がないため、どの国も奪いには来ない。
しかし、道としての価値は、彼が引いたパイプラインによって跳ね上がった。
何より、その用心深さが神の理解を超えていた。
砂漠を越える者は男のインフラを使うため、その動向はすべて監視下に置かれる。
インフラを使わない者は砂漠に阻まれて目立ち、恩恵を受けている砂漠の民から即座に報告が上がる。
『翻訳』スキルは、今や勇者の通訳ではなく、砂漠に面する国々をつなぐ「中立緩衝地帯のハブ」として、巨大な利権を調整するための外交兵器となっていた。
「三方よし、か……。敵すらも自分の利益の一部に組み込み、勇者たちのスポンサーになった男を、もはや誰も襲う理由がない」
魔王は、男が育て、供給し、投資した勇者たちの「兵站の暴力」によって、抗う術もなく追い詰められている。
「事務屋に魔王は倒せない、と言ったのは私だが……間接的に倒すなんて、聞いていないぞ」
魔王はまだ健在だ。
しかし、男が見出し、投資し、磨き上げた「原石」たちの勢いは止まらない。
砂漠を起点に整備された圧倒的な物流網。
そこから絶え間なく、かつ迅速に供給される完璧な兵站。
飢えることも、渇くことも、武器が欠けることもない勇者軍を前に、魔王軍は戦略的に、かつ確実に追い詰められていた。
(完)
蛇足:異世界転生のチートの「おまけ」部分のみ与えられら、どうなる?というところから発想しました。
天界の配給窓口は、今日も相変わらずの忙しさだった。
「はい、次。聖槍のセット。……次!」
担当の神は、下界を眺めて舌打ちした。
「おかしい……。
私の計算では、あの事務屋の男は今頃、聖剣の勇者の後ろで荷物を運んでいるはずだったんだが」
神のシナリオは完璧なはずだった。
同時期に、同じ街へ、主役の勇者と脇役の事務屋を転生させる。
勇者に華々しく魔王を討たせるため、言葉が通じない場所でも困らないよう『翻訳』を、道中の大量の荷物に困らないよう『倉庫』を、そして常に勇者の隣で汗もかかずに控えていられるよう『適応』を――。
男に与えたスキルセットはすべて、勇者が「快適に冒険するため」の、最高のサポートツール(荷物持ち用)だったのだ。
ところが、どうだ。
神が授けた「勇者のための便利機能」を、男は「国家規模の物流システム」へと変換してしまった。
神が選んだはずの主役(勇者)が、事務屋の前で深々と頭を下げ、活動資金の融資を乞うている。
「馬鹿な……。荷物持ちどころか、主役のスポンサーじゃないか」
さらに神を驚かせたのは、男が選んだ「居場所」だった。
男は、かつての暗殺未遂という痛烈な教訓を経て、砂漠という「難攻不落の要塞」を本拠地に据えていた。
そこは、魔物にとっても過酷すぎる環境。
だが男には『適応』があるため、そこは冷房の効いた書斎と変わらない。
砂漠という土地自体には領土的価値がないため、どの国も奪いには来ない。
しかし、道としての価値は、彼が引いたパイプラインによって跳ね上がった。
何より、その用心深さが神の理解を超えていた。
砂漠を越える者は男のインフラを使うため、その動向はすべて監視下に置かれる。
インフラを使わない者は砂漠に阻まれて目立ち、恩恵を受けている砂漠の民から即座に報告が上がる。
『翻訳』スキルは、今や勇者の通訳ではなく、砂漠に面する国々をつなぐ「中立緩衝地帯のハブ」として、巨大な利権を調整するための外交兵器となっていた。
「三方よし、か……。敵すらも自分の利益の一部に組み込み、勇者たちのスポンサーになった男を、もはや誰も襲う理由がない」
魔王は、男が育て、供給し、投資した勇者たちの「兵站の暴力」によって、抗う術もなく追い詰められている。
「事務屋に魔王は倒せない、と言ったのは私だが……間接的に倒すなんて、聞いていないぞ」
魔王はまだ健在だ。
しかし、男が見出し、投資し、磨き上げた「原石」たちの勢いは止まらない。
砂漠を起点に整備された圧倒的な物流網。
そこから絶え間なく、かつ迅速に供給される完璧な兵站。
飢えることも、渇くことも、武器が欠けることもない勇者軍を前に、魔王軍は戦略的に、かつ確実に追い詰められていた。
(完)
蛇足:異世界転生のチートの「おまけ」部分のみ与えられら、どうなる?というところから発想しました。
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる