清く正しく美しく

吾妻みお

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高校生編

天童琴葉

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 私には秘密がある。
 両親にも、友達にも絶対に言えない秘密が。
 清く正しい優等生。みんなはそう思っているけれど、本当の私は全然違う。



「あら~琴葉ちゃん。今日も早いわね」



 天童琴葉の朝は早い。早起きして、通学路に落ちているゴミを拾いながら学校へ行く。それから、教室の花瓶の水を交換して、花壇の花に水をやる。それが琴葉の日課になっているのだ。



 学校の道中では、ご近所さんの河上さんとよく会って、こんな風に声をかけてくれる。河上さんは、健康のために毎朝ウォーキングを欠かさないチャーミングなご婦人だ。

 

 琴葉は立ち止まって、90度のお辞儀をした。



「おはようございます、河上さん」



「良い子だわ~。ゴミ拾いまでして」



 河上さんの視線が琴葉の持っている袋へ移る。今朝は道に落ちていた空き缶とペットボトルを拾った。



「つい気になってしまいまして」



「うちの娘に琴葉ちゃんの爪を煎じて飲ませたいわ~」



 河上さんは「偉いわ~」「良い子だわ~」としきりに言ってくれる。誰かに褒められたくてやっているわけではないけれど、面と向かって褒められるのはやっぱり嬉しい。



「では、私はそろそろ行かなきゃいけない時間なので。気をつけて帰ってくださいね」



 琴葉はもう一度深くお辞儀をして、歩き出した。



 背中の辺りまで伸びる真っ直ぐな黒髪と、きちんと着こなした制服。ブレザーもワイシャツもボタンを一番上まで留めている。



 友達の凪は「今時の女子高生っぽくないね」と笑うけれど、多くの女の子がしているようにワイシャツのボタンをいくつか外してリボンを緩めるのも、短いスカートも落ち着かない。



 そんな私を、みんなは真面目な優等生だと評する。学級委員長をしているから、余計に。



――だけど。



 道端に落ちていた缶を拾ってゴミ袋に入れ、何とはなしに缶を拾った手を見つめる。この手は、毎晩夜遅くまで小説をめくっている。



 それを聞いたら、みんなは「今時小説を読むなんて真面目」と言うかもしれない。でも、私が読んでいるのがただの小説ではないと知ったら、どんな反応をするのだろう。



 両親は「はしたないものを!」と目を真っ赤にするかもしれないし、凪は眉を顰めるかもしれない。少なくとも、みんなが天童琴葉に抱いている「優等生」の仮面は剥がれ落ちるに違いない。



 昨日読んだ本はすごかった。思い出しただけで顔が真っ赤になりそうなほど。愛しい人に触れたいのに許されない焦燥感。理想の人に服従される喜び。それを実際に味わえたら、どんな風なんだろう。



 そんなことを考えていたから、前が全く見えていなかった。



「おっと、危ないよ」



 お腹の辺りに何かが当たって、琴葉は我に返った。目の前に昇降口のドアが迫っていて、琴葉をガードするように腕が伸びている。どうやら、ぶつかりそうになった所を誰かが止めてくれたらしい。



「ご、ごめんなさい!」




  琴葉は飛び退いて、助けてくれた人を見上げた。綺麗な顔が思っていたより間近にあって、思わず胸がきゅっとなってしまった。



「おはよう、天童さん」




助けてくれたのは、爽やかに笑う同じクラスの月島理玖くんだった。



「大丈夫?珍しくぼうっとしてたけど」



 理玖は琴葉の顔を覗き込んだ。より近くなった距離に、琴葉は顔に熱が集まってくるのを感じた。



「大丈夫です。すみません、助けてくれてありがとうございました」



「顔赤いし、熱でもあるんじゃないの?」



「いえ!これは風邪を引いたとかではなく、あの・・・・・・その・・・・・・別件で・・・・・・」



 絶対に言えない!



 昨日読んだ官能小説を思い出して妄想にトリップした挙句、あなたに見惚れて赤くなっただなんて!



 理玖から目を逸らしながら「・・・・・・あと、おはよう、ございます」と蚊の鳴くような声で付け足したら、クスッと笑われた。



「丁寧だね。風邪じゃないなら良かったよ」



 そう言うと、理玖は琴葉からさらっとゴミ袋を取って行った。白くて細くて、でも大きな手に思わず目が奪われてしまった。



「え、あの・・・・・・」



「俺が焼却炉に持って行くよ」



「え、でも、それは私が・・・・・・」



「いつも朝早く来ていろんな雑用やってくれてるでしょ?日頃のお礼を兼ねてね」



 内緒話をするようにそう囁くと「じゃあ」と言って、手を振って行ってしまった。




――知ってたんだ。私が朝早くに来てしてること。




 琴葉はその場に立ち尽くし、しばらくの間動けなかった。
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