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第十三話 暗黒の魔導士 その二
しおりを挟む「魔王城の番犬ケルベロスをたった一撃で仕留めるとはな。人間にしては見事だ。我が名は暗黒の魔導士ウラノス。すべてを無に葬り去る者だ」
ウラノスはオリバを睨む。
「俺はオリバ・ラインハルトだ。この町を救うためお前を倒す!」
オリバも睨みかえす。
「オリバ殿! 我々も魔法で援護しますぞ。ノバ! 早く立ち上がるのじゃ。オリバ殿に救ってもらった命、無駄にするでないぞ!」
ボサが力強く叫ぶ。
ノバは涙を手で拭い、杖を拾って立ち上がった。
「奴は魔法使いじゃ。ワシらの魔法耐性はトップクラス。物理攻撃をオリバ殿に防いでもらえる今、勝機は十分にあるぞ」
ボサはノバを励ます。
「愚かな奴らだ。ワレからすれば貴様らなど魔法使いと呼べる代物ではないわ。ご自慢の攻撃魔法をもう一度しかけてくるがよい」
ウラノスは低い声で笑いだした。
ボサはホーリー・ライトニングを、ノバはホーリー・クロスをもう一度唱えた。
「黒煙」
ウラノスは人差し指を立て、そう唱える。
人差し指の先端から黒い煙が立ち上る。
その煙はホーリー・ライトニングとホーリー・クロスを包みこみ、魔法を打ち消した。
「ば、ばかな……」
ボサが絶句する。
「これが本当の魔法使いだ。『黒煙』は闇魔法使いなら誰でも使える最下位の魔法だ。それでも使い手によっては、貴様らの放つ上位魔法なぞたやすく打ち消せる力を持つのだ」
ウラノスは見下した表情でボサとノバに目を向けた。
「貴様らのような雑魚魔法使いが何匹いてもなにも変わらん。だが、そのタンクトップ男は危険だ。ここからは本気でいく。真の魔法使いの力を見るがよい!」
ウラノスの体全体からドス黒い魔力が溢れだした。
魔力がどんどん高く濃くなってくる。
ウラノスの足元から粘り気のある真っ黒な液体が染み出してきた。
「ありえない。あれが魔力なんて……。魔力が濃すぎて液体になるなんて聞いたことない……」
ノバは驚きと恐怖の入り混じった目でウラノスを見つめる。
ウラノスの足元から勢いよく真っ黒な液体が流れ始める。
液体は床一面に広がり、オリバの足首の高さにまでなる。
黒く重たいその液体は触れるだけで不愉快な気持ちになる悪意に満ちた魔力だった。
「まだだぁぁあ!!」
ウラノスがドス黒い魔力を吐きながら叫んだ。
ウラノスの体から洪水のように黒い液体が溢れだす。
液体はドアや窓の隙間から部屋の外に広がっていく。
黒い液体がオリバの膝に達した頃にはグレイ邸の床はどこも黒い液体で埋め尽くされた。
「これが真の魔法だ! 暗黒魔法レイジネス!!」
ウラノスの前に三つの小さな黒い球が浮かぶ。
黒い球が回転し始める。
黒い液体がその球の周りに集まり、黒い球に吸収されてゆく。
黒い球がどんどん大きくなってゆく。
グレイ邸の床を覆い尽くしていた黒い液体が瞬く間に黒い球に吸収され消え去った。
ウラノスの前には人の大きさほどの黒い球が三つ浮かんでいる。
ウラノスが両手を前に突き出すと、三つの黒い球がオリバたちに向かって飛んできた。
オリバは黒い球を殴る。
……まったく手ごたえがない。空気を殴ってるみたいだ。
黒い球はオリバを包み込んだ。
真っ暗で何も見えない。
何も聞こえない。
ただ、黒い球が放つ悪意だけは体全体で感じる。
左右にパンチやキックをしてもなんの手ごたえもない。
オリバが次の手を考えていると、黒い魔力が体の中に染み込んできた。
「そうはさせるかぁぁ!!」
オリバは全身の筋肉に力を入れ、筋肉を固くした。
それでも黒い魔力はオリバの中にどんどん侵入してくる。
オリバの向こう側の筋肉は物理攻撃に絶対的な硬度を誇る。
しかし、魔法耐性がないオリバの筋肉にこの魔法は防ぎようがなかった。
オリバは体の中から黒い魔力がもつ憎悪や悪意を強く感じる。
あまりの悪意に寒気を感じる。
すべての黒い魔力がオリバの体に侵入した。
やっとあたりが見渡せるようになった。
部屋の中は何も変わっていない。
ウラノスはニヤニヤしながらこっちを見ている。
オリバは自分の体を見た。何も変わっていない。
体も自由に動かせる。
「大丈夫ですか! ボサさん、ノバさん!」
オリバは後ろを振り返った。
ボサとノバは無傷で立っていた。
ただ、ぼーっとしている。
「ふたりとも、体に異常はありませんか?」
オリバは尋ねる。
「こんな仕事めんどくさ~~い。お家に帰ってゴロゴロした~~い」
突然、ノバが床の上でゴロゴロと転がり始めた。
「ワシも年金生活したいの~。庭でチェスでもしながらのんびり生活するんじゃ」
ボサはダイニングテーブルの上に腰かけ、テーブルの上にあったワインを飲み始めた。
「じいちゃんばっかりずるい! ノバも食べる!」
ノバは立ち上げりもせず床の上をコロコロ転がってテーブルに移動し、ケーキを食べ始めた。
「ふたりともしっかりしてください!! 目の前に敵がいるんですよ!」
オリバはふたりの肩を掴み強くゆすった。
「……確かに……敵を倒さないと……めんどくさい……他の誰かに倒してもらっとくれ……」
ボサの声には感情がこもっていない。
「もう……すべてがめんどうだよ……一歩も動きたくない……何もしたくないよ……」
ノバもぼんやりと呟く。
「ふたりとも!! そんなこと言ってる場合じゃないんです!!」
オリバはさらに強くふたりを揺さぶる。
「無駄だ。これが我が奥義レイジネスだ。すべての人間を無気力にする。この町全体にかけてやった暗黒魔法だ。魔法耐性が特別強いそいつらでもこのざまだ。魔法耐性のない貴様がどうなるか楽しみだな」
ウラノスはニヤニヤしながらそう言った。
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