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第二十七話 ルナの過去
しおりを挟む「認めない! 私はあんたなんて絶対に認めないんだから!!」
ルナは涙を流しながら大声で叫んだ。
会場内が水を打ったように静まりかえった。
「ルナ様、俺は正々堂々このコンテストで戦いました。どうしてそこまで俺を嫌うんですか?」
オリバは尋ねる。
「あんたを見てると筋肉魔人を思い出すのよ! あいつのせいでお父さんとお母さんは死んだ!! お父さんとお母さんはその命を犠牲にして筋肉魔人を封印したの! あいつだけは絶対に許せない!!」
ルナは泣きながら怒鳴る。
「あいつは私を消そうとしたの。当時七歳だった私は強い魔法なんて使えなった。でも、その時にはもう歴代最高の魔力の持ち主だった。それであいつは私を危険だと判断したの」
ルナはそう言って十年前の出来語を語り始めた。
◇◆◇◆◇◆◇
辺り一面、火の海。
エルフの樹はみんななぎ倒され燃えている。
「ルナ、早く逃げて!!」
お母さんが叫んだ。
筋肉魔人の両手から灼熱の炎が私に向かって放たれる。
間に合わない――
お母さんが私の前に飛び込んできた。
その身をていして私をかばってくれたの。
お母さんの背中は約熱の炎で焼きただれる。
「ルナ、よく聞いて……。ママとパパはルナのこと、世界で一番大切なの。絶対に守ってあげる。だから安心してね」
お母さんは背中の痛みを我慢して笑顔でそう言った。
すぐにお父さんも駆けつけて、ふたりがかりで筋肉魔人を倒そうとした。
お父さんは村長で最強のエルフだった。
……それでもあいつは倒せなかった。
あいつは火属性の魔法使い。
私たちエルフは森属性。
相性が悪すぎたの。
あいつの炎ですべての魔法が燃え尽きたわ。
どうやってもあいつを倒せないことが分かると、普段無口なお父さんがこう言ったの。
「ルナ、生まれてきてくれてありがとう」
お母さんはニッコリ笑ってこう言った。
「ルナ、幸せになってね。いつかきっと、エルフの樹みたいに暖かくて優しい人に会えるわ」
これがふたりの最期の言葉。
お父さんとお母さんは禁忌魔法を使いあいつを封印した。
禁忌魔法のせいでお父さんとお母さんは一週間意識を失い、そのまま帰らぬ人となった……。
◇◆◇◆◇◆◇
ルナが語り終わっても誰も何も言わなかった。
会場内は静寂に包まれ、誰かがすすり泣いている音だけが聞こえる。
みんな目に涙を浮かべている。
「あんたを見るとあいつを思い出すの! そしていつも、同じ質問を自分自身にするの。もしあのとき私が強かったら、お父さんとお母さんは今も生きてるんじゃないかって。最高の魔力があったのにそれを使えなかった私が悪いんじゃないかって。……本当に嫌いなのは筋肉じゃなくて、この私自身よ!!」
ルナは両手で顔を覆い、子どものように泣きじゃくる。
誰も動けない。
慰める言葉も見つからない。
「スキル! マッスルウォーム!」
オリバはルナを抱きしめる。
ルナは抵抗しない。
もう、すべてのことがどうでも良くなっているのだ。
ただ泣きじゃくっている。
オリバの体が光る。
その光にルナも包まれる。
……暖かい。
……そして優しい。
ルナは光に包まれながらそう思った。
この暖かさ、優しさは何かに似ている。
……何に似てるんだろう?
ルナは心の内側がジワジワと暖かくなってくるのを感じながら考える。
「ルナ様、自分を責めないでください。七歳の子どもにできることなんてありません。ルナ様は何も悪くないです。ご両親はきっと、ルナ様がこの世に生まれてきてくれて、七年間だけですが一緒に時間を過ごせて、幸せだったと思います」
オリバはルナを抱きしめ続ける。
そうだ、何に似ているか分かった……。
この暖かさ、優しさはエルフの樹に似てるんだ……。
ルナは両手を広げ、オリバを抱きしめ返す。
大きい背中だった。
まるで大樹の太い幹を抱きしめてるみたいだ。
「ルナ、幸せになってね。いつかきっと、エルフの樹みたいに暖かくて優しい人に会えるわ」
お母さんの最期の言葉が、聞こえた気がした。
ルナはオリバをよりいっそう強く抱きしめる。
その瞳から涙はもう流れていない。
「き、気安く私の体に触れるんじゃないわよ! この変態!!」
ルナは耳まで真っ赤にしてオリバから離れる。
すっかり元気を取り戻している。
「いいわよ、もう! オリバ、このコンテストの優勝者があなただと認めます」
ルナはしっかりとした口調で宣言する。
「オリバ様最高! 私にもマッスルウォームをかけてください!!」
「強くて賢いなんて、歴代最高の優勝者よ!」
「さすが、オリバの兄貴! しびれます!」
会場内が歓声と拍手で埋め尽くされる。
「オリバ! 私はもう帰るわ! 明日の朝、私の家に来なさい。神器を渡すわ」
ルナはオリバに背を向けたまま話す。
「ありがとうございます。了解しました」
オリバは答える。
「そ、それと、その……今までナメクジ男とか言って、わ、悪かったわね」
ルナは後ろを向いたままだ。
「いえ、いいんです。ルナ様も辛い思いを今までずっとしていたんですね。マッスルウォームで少しでも気持ちが軽くなったなら良かったです」
「べ、べべ、別にあんなの何の役にもたってないわよ! 筋肉なんて、ちっとも魅力的だなんて思ってないんだからねっ!! と、とにかく、明日待ってるわ!」
ルナは顔を赤らめ、スタスタと早足で会場を出て行った。
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