32 / 42
第三十二話 魔王城の門番
しおりを挟む空はドス黒い雲で覆われ、稲妻が雷鳴とともに地上に降り注いでいる。
数多のドラゴンが火を噴きながら空を飛び回っている。
ふたりの目の前には漆黒の巨大な城がそびえ立っていた。
魔王城だ――
ふたりは確信する。
城全体から禍々しい魔力が溢れでている。
体にへばりつく湿ったドス黒い魔力。
ふたりは手を繋いだまま、魔王城の禍々しさに言葉を失う。
ただ黙って魔王城を見つめていた。
「ちょっ、いつまで手握ってるのよっ!! 離しなさい、この変態!!」
手をずっと繋いでいることに気づき、ルナは慌ててオリバの手を振りはらう。
「いや、ルナが手を繋ごうって言ったんだろ……」
「それは水の中だけの話よ! 私の手を握れたことを一生の励みにしておきなさい!!」
ルナは顔を赤らめ、ひとりずしずしと魔王城へ向かって進みだす。
オリバもそのあとを追う。
ルナが突然止まる。
大きく目を見開いて前方を見つめている。
オリバもルナの視線の先に目をむける。
魔王城の扉の前に巨大な魔物が立っている。
馬の首から上が人間の上半身に置き換わった魔物・ケンタウロスに似ている。
しかし、三体の人型の魔物の上半身がお互いに背中を合わせる形で、ひとつの馬の体に繋がっている。
三つの頭、六つの腕、そして四本の足をもつ魔物。
筋骨隆々で頭の両サイドに角が生えている。
三体の魔物の体の色はそれぞれ違う。
真ん中は銀色、右側は赤色、左側は青色だ。
「……許さない。あんただけは許さない! 死ね! 死になさいっ!!」
ルナは我を失い叫ぶ。
魔物に向かって全速力で走りだす。
「攻撃魔法! エルフの矢!!」
「攻撃魔法! 大地震!!」
「攻撃魔法! オオカミの牙!!」
ルナは次々と魔法を唱えながら敵に接近していく。
しかし、ルナの魔法は真ん中の魔物の体の中に吸い込まれていく。
まったく効いていない。
「落ち着け、ルナ! 魔力の無駄遣いだ。全然効いてないぞっ! 魔王城を守るほどの魔物だ。不用意に近づくとやられるぞっ!!」
オリバはルナを後ろから抱きしめ、無理やり止まらせる。
「離してっ! 離しなさいっ!! あいつだけは絶対にこの手で倒す!! あいつが……あいつがお父さんとお母さんを奪ったんだっ!!」
ルナは目に涙を滲ませながら、オリバの抑止を振り払おうともがく。
それでもオリバはルナを離さない。
冷静さを欠いたルナに勝ち目はない。
「ほぅ、久しいな。お前はいつぞやのエルフの娘か?」
右側の赤い魔物が口を開く。
「そうよ……あんたを封印したせいでお父さんとお母さんは死んだのよ! あんたが殺したのよ!! ……絶対に許さない。この命に代えてでも今ここであんたを倒す!!」
ルナはオリバに抑え込まれながらも、魔物を睨みつけて怒鳴る。
「やはりそうか。あのふたりは覚えているぞ。なかなか手強かったな。よもやこの俺が、エルフごときに封印されるとは思わなかったぞ」
「うるさい、黙れ! 攻撃魔法! エルフの矢!!」
ルナの前に魔法陣が現れた。
そこから無数の光る矢が魔物に向かって放たれる。
真ん中の銀色の魔物がその矢を全身で受ける。
腕組みをしたまま防御すらしない。
矢は魔物の頭や胸に当たるが、そのまま体の中に吸い込まれていく。
「無駄だ。兄貴に魔法攻撃は効かぬ。魔法無効特性の持ち主だ」
右側の赤い魔物が平然と告げる。
「兄貴? お前らは兄弟か!? 俺はオリバ・ラインハルト。大魔王を倒しに来た!」
オリバは魔物を睨む。
「ほぅ。オリバとやら、いい筋肉だ。我ら筋肉魔人にも引けを取らぬ完成された筋肉だな」
真ん中の魔人が顎を撫でながら感心する。
「礼を言おう。だが、筋肉魔人たちよ、お前たちは間違っている! 筋肉は誰かを傷つけるために使うものじゃない! みんなを幸せにするために使うものだ!!」
「ふんっ、笑止千万。筋肉とはすなわちパワーだ。何かを破壊するときその真価を発揮する」
左側の青い魔人がそう言い、近くにあった大きな岩をデコピンで粉砕する。
「とは言え、その完成された筋肉に敬意を表して我らも名乗ろう。俺は筋肉魔人三兄弟の長男・バリンだ。魔法無効特性を持つ。物理攻撃と防御力は最高レベルを誇る」
真ん中の銀色の魔人がそう言い、地面に落ちている大剣を拾った。
この魔人に敗北した戦士の遺品だろう。
バリンはその大剣を自分の胸に突き刺す。
大きな金属音とともに大剣が粉々に砕け散った。
「俺は次男・リシンだ。最高レベルの水魔法使いだ。俺に物理攻撃は効かぬ」
左側の青い魔人が続く。
リシンの右手が青く光る。
その光を空に向かって放った。
…………。
氷漬けのドラゴンが空から降ってくる。
ドラゴンは地面に激突し、激しい振動とともに爆音をあげた。
しかし、ドラゴンを覆っている氷にはヒビひとつ入っていない。
「そして俺が三男・ロイシンだ。最高レベルの火魔法使いだ。俺にも物理攻撃は効かぬ。エルフの村ではこの娘の両親に世話になった」
右側の赤い魔人は左手から炎を出し、氷漬けのドラゴンに向かって放つ。
氷が溶け、ドラゴンは灰となって風に消えていった。
「ロイシン、あんたは十年前に封印された!! なんであんたがここにいるのよ! エルフの禁忌魔法は絶対に解除できないっ!」
ルナが叫ぶ。
「ふん、何事にも例外はある。大魔王様が俺の封印を解いてくれたのだ。さらに! 大魔王様の特殊スキルにより、我ら三兄弟を融合させ、最強の魔人にしてくれた。今や我ら三兄弟は筋肉魔人の王・筋肉魔人王だ!!」
ロイシンはルナを見下ろす。
「そこのエルフの小娘がルナだな? これで全員名乗りが終わった。それでは貴様らふたりには死んでもらおう」
バリンがそう言うや否や、筋肉魔人王は消え、オリバの目の前に現れた。
オリバはルナを後ろから抱きしめている。
バリンはその巨大な拳をふたりめがけて打ち込む。
オリバはとっさに回転し、背中でバリンの拳を受ける。
「ガフゥ……」
オリバの口から血が噴きでる。
初めて物理攻撃でダメージを受けた。
バリンの拳は硬く重い。
オリバの『向こう側の筋肉』でさえ、バリンの攻撃は弾き返せない。
「……ルナ、……大丈夫か?」
オリバはルナを抱きしめながら聞く。
「自分の心配しなさいよっ! バカ!! これじゃ十年前と同じじゃない!! お母さんがその背中で、ロイシンの炎から私を守ってくれたのよ!」
オリバの腕の中でルナは暴れる。
その瞳には涙が滲んでいる。
「同じじゃない! 落ち着け!! お前は成長して強くなった。それに俺もいる! 今度は誰も犠牲にならない! そんで封印じゃなくて、筋肉魔人を完全に倒す!!」
オリバはルナを強く抱きしめたあと、ルナを離した。
ルナは落ち着きを取り戻す。
「……そうね。今の私はあの頃と違う! 禁忌魔法を使ってでもあいつを道ずれにするつもりだったけど、あいつらごときの虫けらに、このルナ様が犠牲になるなんて自然の摂理に反するわねっ!!」
ルナの瞳に自信と闘志が溢れる。
ルナはオリバに回復魔法をかけたあと、筋肉魔人王に向かって杖を突き出し、戦闘態勢に入った。
「ほぅ。この俺の拳をまともにくらって生きている生物がこの世界にいるとはな……。他の筋肉魔人でさえも、俺の拳一撃で仕留められるのだがなぁ」
バリンは感心したようにまじまじとオリバを見つめる。
「さっきは油断していた。今度はこっちも本気でいくぞ! 俺にはいくつもスキルがある!」
オリバは自信満々に宣言する。
「面白いっ!! オリバよ、お前の筋肉と俺たちの筋肉、どっちが本物の筋肉かはっきりさせようではないかっ!!」
バリンは拳を握り、両肘を曲げ、両方の拳を顔の近くに持ってきた。
ボクシングの基本姿勢・ファイティングポーズだ。
リシンとロイシンは両手を上に向け、手のひらに魔法を浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?
黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。
古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。
これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。
その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。
隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。
彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。
一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。
痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる