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第32話 第4階層 ダンジョンのボス その3
しおりを挟む「気のせいよ。具現化! 宮本 武蔵!!」
リンは『剣豪列伝』を開く。
マジックポイントが70になる。
本から宮本 武蔵の霊が浮かび上がる。
ギョロギョロした大きな目。
立派な口ひげ。
両手にそれぞれ刀を握っている。
武蔵の霊はレンタロウの体に入り込む。
「うっ……」
レンタロウは膝を地面につけてうな垂れる。
「みんな、気をつけて! レンタロウくんの体が爆発するかもしれないわっ!」
リンはレナの後ろに隠れる。
「ワシを呼んだのはそこの小娘だな。敵はどいつじゃ?」
レンタロウは顔をあげる。
全身から殺気を漂わせている。
「成功よっ! 宮本 武蔵! あの首のない騎士を倒して下さい!」
リンはデュラハンを指さす。
「承知した。だが、この貧相な体……本来の力は出せぬがしょうがあるまい。刀が二本あるのが不幸中の幸いじゃな」
レンタロウは右手に信頼の剣、左手に日本刀を持つ。
「なっ! 信頼の剣が光ってるぞ!?」
ハヤトはレンタロウが手にしている信頼の剣が見つめる。
剣の光はどんどん強くなる。
「宮本武蔵……幼少期の名前は辨助。江戸時代初期の大剣豪にして二刀を用いる二天一流兵法の開祖! 巌流島での佐々木小次郎との決闘が有名ね。それに兵法書『五輪書』の著者でもあるわ」
「リン、突然どうした!? 口数が一気に多くなったぞっ!」
「安心して、ハヤトくん。実は私……歴女なの。歴史上の人物に強い思い入れがある。たとえこのゴミクズ男は信頼していなくても、大剣豪・宮本武蔵は尊敬してるし、信頼しているわ」
リンは自分の胸に両手をあてる。
「その信頼に答えねばなるまいな……」
レンタロウはデュラハンを睨みつける。
「憑依は3分間しかもたないわ。それに一度でも攻撃を受けると憑依が解けてしまうから気をつけて!」
リンはレンタロウを見つめる。
「承知した! いざ、尋常に勝負!」
レンタロウはデュラハンに斬りかかる。
「望むところだっ! 来い! 東洋の騎士よっ!!」
デュラハンはレンタロウめがけて大剣を振り下ろす。
レンタロウは日本刀で大剣を受け流す。
大剣は地面に突き刺さる。
レンタロウは右手に握った信頼の剣でデュラハンの胴体を斬りつける。
デュラハンは後ろに跳んで信頼の剣を避ける。
「さすがだっ! だが、二刀流にも弱点はある。パワーだ! 片手では攻撃を受け流すことはできても受け止めることはできまい。これでどうだっ!!」
デュラハンはレンタロウの胴体に向かって大剣を水平になぎ払う。
大剣がレンタロウの日本刀に触れた瞬間、レンタロウはジャンプして空中に浮く。
風の力で回転する風車のように、レンタロウはデュラハンの一撃を回転エネルギーに変える。
猛烈な勢いで空中を回転するレンタロウ。
信頼の剣でデュラハンの肩を斬り裂く。
「ぐあっ! 俺の攻撃を回転力に変えるとはっ!!」
デュランの右肩に裂け目ができる。
ライフが60になる。
「だが……空中では自由に動けまい!」
デュラハンはレンタロウが地面に着地する前に大剣で攻撃する。
「くっ……抜かった!」
レンタロウは刀と信頼の剣を交差させて大剣を防ぐ。
衝撃でレンタロウは後ろに跳ばされる。
「ぐぁっ……無念……」
レンタロウは家の壁にぶつかり、ライフが30になる。
宮本武蔵の霊がレンタロウの体から離れて消えた。
「まだよっ! 私はあと2回魔法が使える。レンタロウくん、次の魔法行くわよ!」
リンは剣豪列伝を開く。
「待つでゴザルっ! 筋肉痛で動けないでゴザル! 武蔵殿の動きに体がついていけなかったでゴザルよ……」
レンタロウは地面に座り込む。
脚が震えて立ち上がれない。
「私がやるわ! 私はみんなを守る盾の騎士!! リン、私に剣豪を憑依させてっ!」
レナはリンの瞳を真っ直ぐ見つめる。
「でも……憑依が失敗したら体が爆発するのよ? 仲間にそんな危険なことさせられないわ……」
リンはうつむく。
「リン殿!? 説明もなく拙者に憑依させたでゴザらんかっ!!」
「それとこれは話が別よ。誰だって仲間が爆発してほしくないでしょう?」
首を傾げるリン。
「それなら拙者だって爆発してほしくないでゴザろうっ!」
「レンタロウくんは大丈夫よ。だってあなたは花火枠だもの。花火は夜空で爆発してこそ真価を発揮するでしょ? それと同じよ」
「花火枠っ!? 拙者の中に火薬は詰まってゴザさんぞ! 拙者の中には、忠義心、正義感、そして友情のみ!」
レンタロウは胸を叩く。
「下心、変態性癖、そしてストーカー魂の間違いでしょう?」
リンはゴミを見る目でレンタロウを見つめる。
「そんなことゴザらんっ! 拙者は礼節をわきまえているでゴザルよ!」
「そうかしら? それなら、なんで私と話している今もレナさんの胸を凝視しているのかしら?」
「えっ? きゃぁっ!」
レナは両手で胸を隠す。
「ふ……知れたこと。登山家に山に登る理由を問えば『そこに山があったから』と答えるでゴザろう。それと同じでゴザル! そこにおっぱいがあったからっ!!」
レンタロウは目を大きく見開く。
「……さて、あの変態侍は置いといて。レナさん、覚悟はできているの?」
リンはレナを見つめる。
「もちろんよ! やってちょうだいっ!!」
即答するレナ。
「わかったわ……頑張ってね。あなたに合いそうな剣豪を憑依させるわ」
リンは『剣豪列伝』をペラペラとめくる。
「これね! 具現化! アーサー王!!」
リンは『剣豪列伝』を開く。
マジックポイントが30になる。
本から美青年の霊が浮かび上がる。
黄金に輝く髪に碧眼。
純白の甲冑を装備している。
霊はレナの体に入り込む。
「あぁっ! 男の人が私の中に入ってくるっ!?」
レナは頬を紅潮させて身もだえる。
「その言い方は語弊があるわよ、レナさん」
リンは冷静に指摘する。
「ボクを呼んだのはキミだね。でもまさか、女性の体に憑依するとは思わなかったよ」
アーサー王に憑依されたレナは顔をリンに向ける。
「成功ね! アーサー王、あの首のない騎士を倒してください!」
リンは頭を下げる。
「もちろんだよ。ボクの聖剣エクスカリバーがないのは残念だけれど、騎士としてキミの期待に応えるよ」
レナはニッコリ微笑む。
深紅の盾を地面に置く。
両手で信頼の剣を握り、デュラハンと対峙する。
「面白い! ブリテンを統一した伝説の王・アーサーかっ! 全てを両断できる聖剣エクスカリバーの所有者。俺が人間だったときにも貴様の伝説は有名だったぞ。さあ、かかってこい!!」
デュラハンも剣を構える。
「残念ながらエクスカリバーはないけどねっ!」
レナはデュラハンの懐に飛び込む。
デュランは大剣を打ち下ろす。
ドンっ!
鈍い音とともに爆風が生じる。
「なっ……俺の大剣を受け止めるだと……」
デュラハンは呟く。
レナは信頼の剣でデュラハンの大剣を受け止めている。
「この子の頑丈さに感謝だねっ!」
レナは大剣を押し返し、信頼の剣をデュラハンに振り下ろす。
「フンッ!」
今度はデュラハンがレナの剣を受け止める。
お互いに一歩も退かぬ激しい撃ち合いになる。
剣がぶつかり合うたびに轟音と爆風が発生する。
「くっ……ボクにはもう時間がない。それにこの子の体力も限界だ」
レナは後ろに飛び跳ねる。
「さすがだ、伝説の王・アーサーよ! エクスカリバーもなく、借り物の体でここまでやるとはな。だが、もうすぐ憑依が解ける! お前の負けだ、アーサー!!」
勝ち誇るデュラハン。
「勝負は最後までわからないよ。この一撃にボクの全てを懸ける!」
レナは腰を低く落として剣を構える。
体が光り始める。
「いいだろうっ! 貴様の全力、受けてたとう!!」
デュラハンも腰を低く落として構える。
レナは一歩を踏み出す。
デュラハンも前に出る。
二人の剣が触れあった瞬間、広場は光りに包まれた。
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