【G】異世界転移したスリ師は楽勝生活したい!〜他人のスキル盗みます〜

黒遠

文字の大きさ
15 / 32

ガルドの街

しおりを挟む
 ガルドの街はとても賑わっていた。信じられないくらいに。首都、王都……。行き交う人々の服装も馬車の装丁も全く違う。ゲームの中の貴族が着るような、裾の長い華やかなドレスを着た女たち。きらきらと輝く鎧を着た男。石畳の道路。砂埃を上げながら往来する馬車。
「すごい」
「あんたはどこから?肌の色からするとクラブかな?それにしちゃ髪が黒いね」
「そんなところです。能力持ちって、何人くらいいるんすか?」
「んー……もう数え切れないよ。今はね。集め出したのもここ3ヶ月くらいのことだけど、田舎にいるよりずっと条件がいいからなあ」
 シロを乗せた馬車の御者は、ガラガラと軽快な車輪の音を立てながら、大きな門の前に着いた。
「能力持ちの人だよ。現地審査で通った人」
 御者が門番に何かを見せながら声を掛ける。鉄格子の重そうな門がゆっくりと上がっていく。
「そういや、あんたはどんな能力があるの?」
「いろんな葉をリジンできるんす」
「へえ!そりゃたしかに凄い」
 シロはあの日、シュトロウたちのいた納屋を飛び出して、街の真ん中の広場で止まった。そこにはお触れが貼られたままになっていた。文字は読めなかったが、お触れの横に兵士が立っていたので、声をかけた。俺には特殊能力がある。能力持ちとしてガルドの街に行きたい……。
 ポケットの中には何枚ものアーガの葉が入れられていた。死んだ人の葉。神殿の裏のアーガの木から、適当に盗ってきた。シュトロウたちが知ったら今度こそ幻滅するだろう。いいのさ。それが本当の俺だ。もういい人たちのそばにいて、真っ当なやつのふりをするのは疲れた。ちやほやされて楽に生きられるならそれがいい。「出会いは全て幸い」なんだろ?俺みたいなのに出会っちまったのもいい勉強になったと思えばいい。
 馬車はしばらく高い塀の中を進み、素晴らしい広い庭園を通って、白い城の前に止まった。促されて下車する。お伽話に出てくるような、塔が連なったお城だ。
「何用か」
 縦に長い白い扉の両側に兵士たちが槍を持って控えていた。シロはデュトワイユでお触れを読んだ男から渡されていた紙を見せた。
「能力持ちか。入れ。広間に入れば案内がある」
 扉の中に入ると、たしかに体育館より少し狭い程度の広間があった。随分豪華な体育館……。光沢のある布の壁紙。誰かの肖像画。風景画。額縁が豪華な鏡。この広間を突っ切るように廊下が続く。看板があって、何か文字が書かれている。読めない。でも看板は点々と置かれていたので、おそらくこれを辿ればいいと思われた。広い……。
 漆喰が丁寧に塗られてタイルが貼られた煌びやかな廊下を通り過ぎる。だんだん装飾が簡素になってくる。やがて石積みの別棟にたどり着いた。男たちの声が聞こえる。
「ええい!やあ!」
 何かの道場かと思った。木製の剣で戦っている男たちが目に入った。ここも体育館のように広いが、一切装飾がない。石積みが剥き出しの壁。木製の何種類もの武器が部屋の端にたくさん置かれている。部屋のあちこちで男たちが試合なのか練習なのか、ある者は剣を持ち、ある者は槍を持ってしのぎを削っている。
 近くにいた、腕を組んでそれを見ている男に声をかけた。さほど背は高くないが筋肉質な男だった。
「あの、ここって能力もちの人たちが集まるとこでいいすか?」
「うん、そう」
 男はちらとシロを見た。
「君は何?細いね。武芸じゃなさそう」
「あー……俺は……」
「今日来たのかな?大丈夫。案内があるはずだよ」
 言われた通り、すぐにパンパンと手を叩く音が響き渡った。
「皆さんお集まりですね。今日から入られた方はこちらにお越しください」
 線の細い、いかにも役人という感じの男が高く手を挙げた。そちらに行くと、他にもちらほらと集まる者がいた。見事な赤毛の女性。黒髪、黒い肌の男性。
「ハルトの方と、スパダの方ですね。あなたは……」
 じろじろと不躾なくらいに見られる。よほどシロのような髪だけ黒いのは珍しいようだ。元の世界で髪を染めてりゃよかった。どうやって誤魔化そうかと考えたが、男の方が言葉を継いだ。
「エイダンの方では?」
 驚いた。
「いや、ちがいます。生まれつきで……」
 とっさに否定した。シュトロウが殺されるんじゃないかと言っていたのが頭をかすめたからだ。
「失礼しました。今王宮におられるエイダン様があなたのような黒髪に白い肌の方なので」
 そうなの?もしかしたら、俺と同じなのかもしれない。日本から飛ばされてきたのかも。エイダンを見てみたいと思った。
 男はさっきの体育館みたいなところよりはずっと狭くて小綺麗な部屋にシロたちを連れてきて、椅子に座らせた。帳面のようなものを開いて名前を確認する。

「さて。早速ですが、あなた方の能力を確認させていただきたい」
 赤毛の女性は料理だと言った。リジンすると何十人分の料理でも一時間以内に作ることができる。アーガの葉を役人が確認する。大きさ。模様。
「なるほど。では厨房に相談してみましょう」
 黒髪で黒い肌の男は剣術だった。リジンすれば誰にも負けない。男の手を見ると、たしかにシュトロウと同じくらいか、やや小さい程度に育ったシルシがあった。役人はにこにこと頷いた。そしてシロに水を向けてきた。
「あなたは?アーガの葉をこちらに」
 アーガの葉を見せる。役人の男は少し顔を顰めた。
「まだ育っていない」
「まあ。でも俺は、人のシルシをリジンできる」
 男は信用できないと言う顔をしている。まず自分の葉をリジンする。どうしたら分かりやすい?黒髪で黒い肌の男に手を差し出す。
「あんたのアーガの葉、貸してよ。あとで返すから」
 黒い肌の男は役人らしき男に促されて、しぶしぶ葉をシロの手のひらに乗せた。すうと手の中に吸い込まれていく……。
「あ!ああ……」
 男は目を見開いた。シロの手のひらは薄青く光り、模様を写す。
 わかる。どう剣を持ち、どう振るえばいいか。ぽんと壁にかけられていた木刀を男に渡す。自分も木刀で向き合う。相手の動き。次にどう動くのか。立ち姿を見るだけで、何通りも見えてくる。打ち込んできた。何度かかわす。木刀ががちんと打ち合った時、あっと思った。だめだ。
「なるほど。確かに剣技自体はリジンされているようだが……」
 吹き飛ばされるように跳ね除けられる。筋肉が違うんだ。同じ技を使ったところで、元々の体の素材が違うから話にならない。はらりと葉が落ちる。リジンが終わるのも早い……。
「これは面白い!」
 役人の男はぱちぱちと拍手をした。
「なるほど。確かに人の印をリジンできるんですね。初めて見ました」
「ま、他人のはリジンできる時間も短いんすけど」
「いや、素晴らしい」
 役人はひとしきり感心すると、塔の中を案内した。シロたちは基本的には西の塔を中心に生活するらしい。
「こちらが食堂。こちらがお部屋ですね。二人部屋になっています。練習場は自由にお使いください。王宮の庭は出ていただいて構いませんが、内庭と王のご家族のお部屋がある北の塔には入らないでください」
 部屋は一緒にいた黒い肌の男と同じ部屋だった。
「あんたすごいな。どんな恵があればそんなシルシがつくんだ」
「いや。全然だめだ。今日わかったよ。剣技とかは真似だけできてもだめなんだな」
「筋肉つけたら。俺はダイワ・サハリ」
「俺は……シロ」
 なんだっけ。シュトロウが付けてくれた名前……。
「シロ・イクバヤ」
「イクバヤか。いい名前だ。よろしく」
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...