【G】異世界転移したスリ師は楽勝生活したい!〜他人のスキル盗みます〜

黒遠

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派兵

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 ダイワにマキアを引き合わせると、ダイワはすっかり痩せた彼女を見て涙を流した。マキアもまた、目に涙を浮かべてダイワに抱きついた。
「ありがとう、シロ……あとはもう、知らないふりをしてくれ……」
「ここまでやってそれはねえよ」
 ダイワが城を出る時は記名をしなければならない。戻らなかったら逃げたことがすぐにばれてしまう。それはダイワがマキアと逃げるつもりだと感じた時から、考えていたことだった。なんとか二人を城から出してやりたい……。
 翌日、シロがほとんど習慣で薪置き場に行くと、グインが手をちょっと上げた。
「明日あたり、小僧が出て来られそうなんだ。長いこと付き合ってくれてありがとよ。悪いけど、今日まではやってくれるかい」
「わかった。良かったね。こっちも助かったよ」
「ん?」
 がらがらと薪を運んで配る。東の塔に行って厨房に顔を出したら、宮廷画家が葉を無くしたと言って大騒ぎして塔中を走り回っていると言うから、カラスをそっと呼んで東の塔のテラスに置いてきてもらった。たぶん見つけてほっとすることだろう。
 薪か。配るのも今日で最後。どんな風にこういうのは城の中に持ち込まれるのか。業務用の運搬口みたいなのがあるのか。そういう、業務用みたいなところからならダイワたちも目立たず出られるんじゃないか?あるいは、どこかの城壁を乗り越える?それは難しいんだな。弓兵が見張りをしているから、下手をすれば怪我じゃ済まなくなる。
「おい、ぼさっとしてんなよ。危ないよ」
「あ。はい」
 配るルートももう覚えた。慣れてきたところで終わりなのはなんだかもったいないくらいだ。配り終えると、グインがシロに手招きをした。
「あんたもあんたの仕事があるんだろ。悪かったな。すっかり甘えちまった。これ、少ないけどさ」
 グインはシロに封筒に入った金を渡してくれた。
「いや!いらないよ。俺暇だったんだし……」
「いいから。他にお礼もないんだ」
 しばらく押し問答になった。グインはとにかくお礼がしたいんだという。毎回ちょっとしたものはもらっていたから、ただ働きしたわけでもないのに。
「じゃあ、何か力になれることはないか?今度は俺が助けてやるよ。俺、結構長いんだ。なんでも知ってるよ」
 なんでも知ってる?
「……それなら、もしかしてお城をこっそり出られる方法とかしりませんか?俺、外に出たいんです」
 シロが思いつきで尋ねてみると、グインはちょっとだけ渋い顔をした。
「出ようと思えば出られるだろ。名前書いて出れば」
「俺の……師匠が厳しくて、外に出てることがわかるとひどいんです。記名なしで出られる方法ってないんですかね」
 グインはしばらく黙り込んだが、あたりを見回してシロに耳打ちした。
「あんたには世話になったからな。内緒だぜ。毎日1時15分になると、東の門の衛兵が交代するんだよ。他の門は二人ずつ見張りがいるから必ず一人は残るんだが、東だけは門が狭いんで一人しかいないんだ。交代の時、ほんの少しの間だけ誰もいなくなるんだよ……あとはわかるな。ただ、戻るのは大変だぞ。こっそり見張って、衛兵が便所に行った隙にでも入り込まないといけない」
「わかった!ありがとう!」
「秘密にしといてくれよ。ところであんたは普段何の仕事をするんだい?」
「………」


 グインから聞いた方法をダイワに話すと、ダイワはまた涙を流した。こんな男性がこんなに素直に涙を流すのを初めて見た。試しに二人で東の門を見ていると、グインの言う通り、ほんの二、三分だが誰もいなくなる。気をつければなんとかなるだろう。
「ありがとう……この恩は忘れない」
 大袈裟だな、と思ったけど、なんだか不思議な感じがした。ひまだったからやっただけだ。元の世界では罵られてばかりだったのに、こんなに感謝されることがあるんだ。悪い気はしない。
 
 ダイワたちがいなくなって、いきなり手持ち無沙汰になった。何の仕事をしているのかとグインに尋ねられても答えることができない。馬とでも話すかと思って厩舎に行こうとしたら、兵舎の方が慌しい。なんだろう?厩舎に行ってみると軒並み空っぽだった。どうして?
 左手にリジンして呼びかける。
「おーい、だれかいるか」
「おお。先日のぼうず」
 この前載せてくれたおじいちゃん馬が、厩舎の隅に残っていた。
「どうしたの?他の馬は?」
「ダイゴンのどこかの町に進軍するらしい。一つの国の中でなあ」
「え?」
「召喚者の言うことを聞かない町があるとかで。脅しで済めばいいが……」
「マジか!」
 デュトワイユのことだ。たぶん。俺が前に口を滑らせたから。城の中にとって返す。ネネリオに話さないといけない。北の塔を登る。衛兵が二人、ドアの両側を守っている部屋。俺のせいだ。
「シロ様、お待ちください。今、ネネリオ様は陛下と謁見中です」
「大切な話があるんだ」
 ノックすることも忘れて執務室に飛び込んだ。
 部屋の中では、ネネリオの足元に王様と昨日の武官が土下座していた。異様な雰囲気。
「……ノックくらいしなよ。二人とも立っていいよ。部屋に帰りなさい」
 王様と武官はのそのそと立ち上がり、そのままシロなんか目に入らない様子で部屋を出て行った。どう見ても尋常じゃない。まあいい、今はそれどころじゃない。
「あの……もしかして、デュトワイユに兵隊を送った?」
「へえ。耳が早いね。秘密にしてるのに。君の左手の能力?教えて欲しいな。どうして教えてくれないの?」
「まるで内戦を始めるみたいじゃないか。そんなことしなくていいよ、話したらわかってくれる……」
「練習だよ。実際に軍を動かすとどうなるのか。大丈夫だよ、向こうだっていざ軍隊を見たら抵抗はしないだろ」
「そんな!ものの試しみたいに言うなよ……」
「そんなこと言うなよ。君は心配しないで。今はのんびりしておきなよ」
 そういえば、シロはネネリオに右手の能力のことを話していたが、ネネリオの能力はわからない。右手のも左手のもだ。王様も武官もおかしかった。ネネリオの力と関係あるのか?サラも、マキアも。マキアのことを確認したいと思ってそれきりだった。
「なあ、あんた、スパダの子に何かしようとしなかったか?」
「ん?なんのことかな?」
「いや、とぼけなくていいよ。目の大きな、この子、この子を呼び出して何かしようとしただろ?」
 マキアの似顔絵を見せると、ネネリオは口の端を上げた。知っている?わからない?
「知らないな」
「サラにも何かしただろ?」
 ネネリオは、はははと楽しそうに笑った。
「しばらく見かけないなと思ったら、随分いろんなことをしてたみたいだね。悪いことは言わないよ。やめときなよ。メイドと遊んでろって言ったよな」
 ネネリオがシロを真正面から見た。シロにはその表情がわからなかった。怒っている?笑っている?なんだか背筋が冷たくなって、シロは飛び出すみたいに部屋を後にした。あの少し寂しいくらいに閑散とした街に、兵隊たちが列をなして踏み込むのを想像する。カインはまだ隠れているだろう。あの病床の父親はどうするのか。
 その時、ぽろりと手のひらにアーガの葉が出てきた。剥がれた。その葉を眺める。ふうと息をつく。
 いや。俺にできることはもう何もない。俺はたぶんあの町では、死者の葉を盗んだ奴として目の敵にされている頃だ。シュトロウのこともカインのことも放り出して。あいつらのことはあいつらがやるだろう。俺にはもう関係ないんだ。会いもしないやつらのことなんて気にしなくていい……。
 ちくちく胸が痛んだ。


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