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ネリ
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あれから2日経った。ネネリオに会うのが怖くて、あまり部屋から出ないでいた。なんでだろう。あの時ぞっとしたんだ。マキアもネネリオと二人きりになった時、怖くなったと言っていた。まあ、小さな女の子が男と二人きりになった時の怖さと言うのは、俺が感じるものとは少し違うんだろうけど。
部屋の窓からは中庭と、西の塔の馬房が見える。見飽きた景色だが、どうしても見てしまう。兵士たちの列はデュトワイユに着いただろうか……。
いや。考えても仕方がない。彼らのことはもう。俺は関係なくなったんだ。ここで呑気に生きていけばいい。無難に。そういえばネネリオにネリが泥をぶつけた件も話していない。あれはネネリオに謝らないといけなかった。なんでネリは突然あんなことをしたんだ?
はっと気がついた。ネリを見ていない。どっか行けと言ってからずっとだ。ぱっと部屋の中を見回す。サラが部屋の隅に石像のように控えているのに気がついて、ぎくっとする。
「どうかなさいましたか?」
「いや……」
部屋の中を見回してみる。いない……いつもなら、ネリはたいてい部屋の隅やベランダにいた。風呂場やトイレも見てみるけど、やはり影も形もない。いなくなった?
部屋の中から飛び出す。胸騒ぎがする。なんでこんなに落ち着かないのか。追い出したのは俺だ。この世界の奴らには人とすら認められていない。頼んで付いてきてもらったわけでもない。それなのになんで探している?内庭。厩舎。また外に出たのか?
だってあんまりにも一緒にいたから。この世界に来たその日から、最初からネリは影のように寄り添ってくれたから。どうして気づかなかったんだろう。
「カラス!」
急いでリジンする。
「カァー!ナァー!いるか!」
「いるヨォーッ」
「エルフを……俺と一緒にいたエルフを見なかったか」
「アァーッ!見ないヨォーッ!消えちまったんじゃないカァー」
「消えちまった?」
「だってエルフだろォー?」
「……そんな、消えるって何だよ?帰ってくるんだろ?」
「消えたらオワリサァーッ!ニンゲンだって死んだら終わりだろォーッ」
そんな。
「外にはいないナァー」
北の塔にとって返す。本当に?消えた?消えるって何だ?
部屋の中に飛び込む。最後に見たのは?間違いないんだ。どっか行けって言ったあの時だ。だってあんまりネリが責めるような目をするから。
「ネリ!」
サラが黙々と部屋の中を片付けていた。シロは片付けられたばかりの部屋の中をまたあちこちひっくり返しながら探し始めた。クローゼットの中。ベッドの下。ネリがよく座っていたソファの前を何度か通って、そこにずっとあるマントに気がついた。ギムの街で買って、山越えの時着ていたマント。大きな、布の目のつまったマントはくしゃりと丸まって置かれている。シロはまさかと思いながらそのマントを手に取った。
「……ネリ……?」
マントの下には、幼児というよりは赤ん坊に近いくらい小さくなったネリが、死んだように横たわっていた。抱き上げる。軽い。おもちゃの人形みたいだ。ネリのかすかな体温を感じない。血の気のないただ白い肌。片手でも持てるほどの。ぴくりとも動かない。
「ネリ!ネリ‼︎」
なんで?俺が構わなかったから?でもついこの前までは大丈夫だったじゃないか……。どうすればいい?何か言ってくれ……どうすれば良かった?
「ネリ!お前のことがわからないんだ……何か言ってくれよ!」
動物の言葉なんかわからなくていい。ネリの言葉が、ネリのことがわかっていれば……。
──あんなに大きなエルフは珍しいにゃ。
──ニンゲンは何にも知らないにぁ。
動物……。
そうだ。動物たちはいつもネリのことを話していた。動物たちはネリのことを、エルフのことを知っている。シロは部屋の隅で訝しげにこちらを見ているサラを見た。
「サラ、この辺に猫はいないか?猫じゃなくてもいい、何か動物は。なるべく年寄りでものを知ってそうなやつがいい」
早くしないとリジンが解けてしまう。
「早く!命令だ!」
サラはシロの剣幕にびくっと身を縮めながら、窓から北の内庭の隅の、小さな建物を指さした。
ネリを抱いて階段を駆け降り、内庭に飛び出す。こんなところがあることさえ気がつかなかった。上から建物に見えたのは、とても大きな、人が入っていられるくらいの、装飾が施された鳥籠だった。中には様々な種類の大小の鳥たちが何羽も飛び交っている。
「ちょ……教えてくれ……」
金網に指をかけて息をつく。片手のネリはあまりにも軽い。今にも消えて無くなりそうだ。
「ハーン、エルフだ。もう消えそうじゃないか」
誰かが返事をした。誰?
「どうしたら……消えない?」
「ニンゲンは消えても構わないんじゃなーいのか?」
すたすたと大きな鳥が歩いてきた。孔雀だ。歳をとっているようだ。あちこちの羽が抜けている。足のうろこが厚い。
「構わなく……ねえよ」
「そうなのか?それでずーいぶん消えてしまったけど」
「頼むから。消えてほしくないんだ……ずっと一緒だったんだ……」
「じゃあ、そのエルフは生きるだろう」
孔雀はそれだけ言ってまた踵を返そうとした。
「は?待てよ、なんだそれは」
「エルフってのはそういうもーんだろう。ニンゲンはわすれちまーったのか?」
「そういうもん?」
「エルフってのはーぁ、気とぉ、ニンゲンのアレが、混ざってできるもの。アレさえ戻れーば、生きる」
「アレってなんだよ」
「知らないよーオ。アレはアレだよ。お前ニンゲンなんだから、わかるだろーオ。俺たちには、なーいんだから」
「こいつはダークエルフなんだろ?その……俺の生気を吸ったり、俺を不幸にしたりしないとだめなのか?」
「ハ!チガウチガウ!ダークエルフとエルフの違いもわからなーいのか?バァカ!」
孔雀は言い捨てると今度こそ身を翻して戻って行った。「アレ」?ネリはダークエルフじゃないのか?鳥にはないもの。リジンが終わる。手が熱くぱっと光る。育ったのかもしれない。でも今はそんなことはどうでもいい。気とニンゲンのアレが混ざってできる。謎かけみたいだ。ニンゲンなんだからわかるだろ、か。わからねえからこうなってるんだ。わかりたい。わかりたいんだ、ネリ。
「ネリ……消えないでくれ」
何か言ってくれ。何も話さなくてもいい、あの緑の目で見上げてくれ。お前がずっとそばにいてくれたから、俺はこんな訳の分からない世界でもなんとかやって来られた。どうして気づかなかったんだろう。なんでいらないと思ってしまったんだろう。
風の吹くその鶏小屋の横で、太い柱にもたれ、見るともなく内庭の景色を見ながらネリを抱きしめていた。
俺は何をしに来たんだろうな。この世界に。
ネネリオのように、戦争を起こしてでもこの国を救おうとは思えない。俺にはそんなことできない。人を集めて、軍隊を作って、国王や偉いやつらと渡り合ってなんてとてもできない。光のエイダンは違うんだな。じゃあ俺は?闇のエイダンは。何をしに来たんだろう。時間潰しにちょっと人助けをした気分になって。ネリを追い出して。片方のエイダンは人を惑わす、とトランは言った。
ふとトランに会いたくなった。トランも何か知っているみたいだった。行ってみるかと立ち上がると、ネリは少し大きくなったような気がした。気のせいかな?まだ片手で抱ける。急に二回り近く大きくなった時があった。あの時は何があったんだっけ……。初めて会った日だ。その後も一度そんなことがあった。最初は普通の子どもだと思った。あの時は混乱していたから、よく覚えていない。
ネリを部屋に置いて行くのは心配だったが、このまま抱いて行くわけにもいかない。久々にマントを着て、ネリを抱いているのが一見わからないようにして城を出た。
街の様子はあまり変わっていない。相変わらず賑わっていて、城下の石畳の、噴水のある公園には、トランが座っていた。
「やあ。シロ」
シロは少しだけ片手を上げた。
「元気ないな。なあ、踊ってくれないかな。少し人目を引きたいんだ。稼ぎが今ひとつでね。一曲おごるよ」
曲が始まった。まだリジンできない。
「待った!まだ踊れないよ」
トランが不思議そうな顔をして手を止めた。
「さっきリジンが終わったばかりなんだ。休息だよ」
「別に、リジンして踊れってわけじゃないよ。普通でいい。踊れるだろ?」
「違うんだ。俺はリジンしないとだめなんだよ」
シロは仕方なく、右手のアーガの印のことを話した。誰の葉でもリジンできるけど、それはかりそめの能力で、剥がれてしまえばシロには何も残らない……。
「そうだったのか。前の時……赤毛の人と踊った時も不思議だとは思ってたんだ。あんたに与えられた召喚者の力だったんだね。印を見せてもらえるかな?」
シロが右手を差し出すと、トランはそのただ黒い印をじっと見つめた。そして、物言いたげに顔を上げた。なんだろう。
「誰の葉でもリジンできる?例えば、死者の葉でも?」
「あ、ああ。できる……模様が薄いとだめだけど」
トランが、首に掛けていた金色の細い鎖の首飾りを外した。首飾りには、茶色くなったアーガの葉がペンダントトップになっていた。見事な印が刻まれている。シロが持っているダンスの印と同じくらい、緻密で大きい。
「これは、俺の師匠の葉。亡くなる時にもらったんだ」
鎖を抜き、葉だけになる。
「もう一度、師匠の歌を聞きたい……休息時間が終わったら、リジンしてくれないか」
「……」
できるだろうか?先日、ダイワの葉をリジンして痛感した。ちゃんと積み重ねないとだめなんだと。ダンスの葉だって、リジンしている時はよくても、終えた後に身体中が痛む。似顔絵を描くのは大丈夫だったが、歌はどうなのか……
「お願いだ。一度だけでいいんだ」
トランは真剣だった。シロはその熱に押されて、頷いた。
休息の間、マントを着たままトランの横で歌を聞いていた。面白かった。歌詞に物語がある。
……この地に光差しアーガの木が根を下ろし
人の子が生まれ アーガの元に育ち
アーガの木に約束をした
あなたの声に耳傾け
敬い ともに生きよう
祝福を恵み給え
木より賜りしシルシは
約束の証
通りすがる人々が次々に硬貨をトランの前に置かれた箱に入れて行く。そろそろ休息も終わった頃だ。トランと目が合った。やろう……。
マントの中で膝に抱いていたネリを降ろそうとして、はっとした。幼児くらいになっている。
「ネリ!」
ネリはきゅうとシロの服を握り、緑の目で見上げてきた。
部屋の窓からは中庭と、西の塔の馬房が見える。見飽きた景色だが、どうしても見てしまう。兵士たちの列はデュトワイユに着いただろうか……。
いや。考えても仕方がない。彼らのことはもう。俺は関係なくなったんだ。ここで呑気に生きていけばいい。無難に。そういえばネネリオにネリが泥をぶつけた件も話していない。あれはネネリオに謝らないといけなかった。なんでネリは突然あんなことをしたんだ?
はっと気がついた。ネリを見ていない。どっか行けと言ってからずっとだ。ぱっと部屋の中を見回す。サラが部屋の隅に石像のように控えているのに気がついて、ぎくっとする。
「どうかなさいましたか?」
「いや……」
部屋の中を見回してみる。いない……いつもなら、ネリはたいてい部屋の隅やベランダにいた。風呂場やトイレも見てみるけど、やはり影も形もない。いなくなった?
部屋の中から飛び出す。胸騒ぎがする。なんでこんなに落ち着かないのか。追い出したのは俺だ。この世界の奴らには人とすら認められていない。頼んで付いてきてもらったわけでもない。それなのになんで探している?内庭。厩舎。また外に出たのか?
だってあんまりにも一緒にいたから。この世界に来たその日から、最初からネリは影のように寄り添ってくれたから。どうして気づかなかったんだろう。
「カラス!」
急いでリジンする。
「カァー!ナァー!いるか!」
「いるヨォーッ」
「エルフを……俺と一緒にいたエルフを見なかったか」
「アァーッ!見ないヨォーッ!消えちまったんじゃないカァー」
「消えちまった?」
「だってエルフだろォー?」
「……そんな、消えるって何だよ?帰ってくるんだろ?」
「消えたらオワリサァーッ!ニンゲンだって死んだら終わりだろォーッ」
そんな。
「外にはいないナァー」
北の塔にとって返す。本当に?消えた?消えるって何だ?
部屋の中に飛び込む。最後に見たのは?間違いないんだ。どっか行けって言ったあの時だ。だってあんまりネリが責めるような目をするから。
「ネリ!」
サラが黙々と部屋の中を片付けていた。シロは片付けられたばかりの部屋の中をまたあちこちひっくり返しながら探し始めた。クローゼットの中。ベッドの下。ネリがよく座っていたソファの前を何度か通って、そこにずっとあるマントに気がついた。ギムの街で買って、山越えの時着ていたマント。大きな、布の目のつまったマントはくしゃりと丸まって置かれている。シロはまさかと思いながらそのマントを手に取った。
「……ネリ……?」
マントの下には、幼児というよりは赤ん坊に近いくらい小さくなったネリが、死んだように横たわっていた。抱き上げる。軽い。おもちゃの人形みたいだ。ネリのかすかな体温を感じない。血の気のないただ白い肌。片手でも持てるほどの。ぴくりとも動かない。
「ネリ!ネリ‼︎」
なんで?俺が構わなかったから?でもついこの前までは大丈夫だったじゃないか……。どうすればいい?何か言ってくれ……どうすれば良かった?
「ネリ!お前のことがわからないんだ……何か言ってくれよ!」
動物の言葉なんかわからなくていい。ネリの言葉が、ネリのことがわかっていれば……。
──あんなに大きなエルフは珍しいにゃ。
──ニンゲンは何にも知らないにぁ。
動物……。
そうだ。動物たちはいつもネリのことを話していた。動物たちはネリのことを、エルフのことを知っている。シロは部屋の隅で訝しげにこちらを見ているサラを見た。
「サラ、この辺に猫はいないか?猫じゃなくてもいい、何か動物は。なるべく年寄りでものを知ってそうなやつがいい」
早くしないとリジンが解けてしまう。
「早く!命令だ!」
サラはシロの剣幕にびくっと身を縮めながら、窓から北の内庭の隅の、小さな建物を指さした。
ネリを抱いて階段を駆け降り、内庭に飛び出す。こんなところがあることさえ気がつかなかった。上から建物に見えたのは、とても大きな、人が入っていられるくらいの、装飾が施された鳥籠だった。中には様々な種類の大小の鳥たちが何羽も飛び交っている。
「ちょ……教えてくれ……」
金網に指をかけて息をつく。片手のネリはあまりにも軽い。今にも消えて無くなりそうだ。
「ハーン、エルフだ。もう消えそうじゃないか」
誰かが返事をした。誰?
「どうしたら……消えない?」
「ニンゲンは消えても構わないんじゃなーいのか?」
すたすたと大きな鳥が歩いてきた。孔雀だ。歳をとっているようだ。あちこちの羽が抜けている。足のうろこが厚い。
「構わなく……ねえよ」
「そうなのか?それでずーいぶん消えてしまったけど」
「頼むから。消えてほしくないんだ……ずっと一緒だったんだ……」
「じゃあ、そのエルフは生きるだろう」
孔雀はそれだけ言ってまた踵を返そうとした。
「は?待てよ、なんだそれは」
「エルフってのはそういうもーんだろう。ニンゲンはわすれちまーったのか?」
「そういうもん?」
「エルフってのはーぁ、気とぉ、ニンゲンのアレが、混ざってできるもの。アレさえ戻れーば、生きる」
「アレってなんだよ」
「知らないよーオ。アレはアレだよ。お前ニンゲンなんだから、わかるだろーオ。俺たちには、なーいんだから」
「こいつはダークエルフなんだろ?その……俺の生気を吸ったり、俺を不幸にしたりしないとだめなのか?」
「ハ!チガウチガウ!ダークエルフとエルフの違いもわからなーいのか?バァカ!」
孔雀は言い捨てると今度こそ身を翻して戻って行った。「アレ」?ネリはダークエルフじゃないのか?鳥にはないもの。リジンが終わる。手が熱くぱっと光る。育ったのかもしれない。でも今はそんなことはどうでもいい。気とニンゲンのアレが混ざってできる。謎かけみたいだ。ニンゲンなんだからわかるだろ、か。わからねえからこうなってるんだ。わかりたい。わかりたいんだ、ネリ。
「ネリ……消えないでくれ」
何か言ってくれ。何も話さなくてもいい、あの緑の目で見上げてくれ。お前がずっとそばにいてくれたから、俺はこんな訳の分からない世界でもなんとかやって来られた。どうして気づかなかったんだろう。なんでいらないと思ってしまったんだろう。
風の吹くその鶏小屋の横で、太い柱にもたれ、見るともなく内庭の景色を見ながらネリを抱きしめていた。
俺は何をしに来たんだろうな。この世界に。
ネネリオのように、戦争を起こしてでもこの国を救おうとは思えない。俺にはそんなことできない。人を集めて、軍隊を作って、国王や偉いやつらと渡り合ってなんてとてもできない。光のエイダンは違うんだな。じゃあ俺は?闇のエイダンは。何をしに来たんだろう。時間潰しにちょっと人助けをした気分になって。ネリを追い出して。片方のエイダンは人を惑わす、とトランは言った。
ふとトランに会いたくなった。トランも何か知っているみたいだった。行ってみるかと立ち上がると、ネリは少し大きくなったような気がした。気のせいかな?まだ片手で抱ける。急に二回り近く大きくなった時があった。あの時は何があったんだっけ……。初めて会った日だ。その後も一度そんなことがあった。最初は普通の子どもだと思った。あの時は混乱していたから、よく覚えていない。
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「やあ。シロ」
シロは少しだけ片手を上げた。
「元気ないな。なあ、踊ってくれないかな。少し人目を引きたいんだ。稼ぎが今ひとつでね。一曲おごるよ」
曲が始まった。まだリジンできない。
「待った!まだ踊れないよ」
トランが不思議そうな顔をして手を止めた。
「さっきリジンが終わったばかりなんだ。休息だよ」
「別に、リジンして踊れってわけじゃないよ。普通でいい。踊れるだろ?」
「違うんだ。俺はリジンしないとだめなんだよ」
シロは仕方なく、右手のアーガの印のことを話した。誰の葉でもリジンできるけど、それはかりそめの能力で、剥がれてしまえばシロには何も残らない……。
「そうだったのか。前の時……赤毛の人と踊った時も不思議だとは思ってたんだ。あんたに与えられた召喚者の力だったんだね。印を見せてもらえるかな?」
シロが右手を差し出すと、トランはそのただ黒い印をじっと見つめた。そして、物言いたげに顔を上げた。なんだろう。
「誰の葉でもリジンできる?例えば、死者の葉でも?」
「あ、ああ。できる……模様が薄いとだめだけど」
トランが、首に掛けていた金色の細い鎖の首飾りを外した。首飾りには、茶色くなったアーガの葉がペンダントトップになっていた。見事な印が刻まれている。シロが持っているダンスの印と同じくらい、緻密で大きい。
「これは、俺の師匠の葉。亡くなる時にもらったんだ」
鎖を抜き、葉だけになる。
「もう一度、師匠の歌を聞きたい……休息時間が終わったら、リジンしてくれないか」
「……」
できるだろうか?先日、ダイワの葉をリジンして痛感した。ちゃんと積み重ねないとだめなんだと。ダンスの葉だって、リジンしている時はよくても、終えた後に身体中が痛む。似顔絵を描くのは大丈夫だったが、歌はどうなのか……
「お願いだ。一度だけでいいんだ」
トランは真剣だった。シロはその熱に押されて、頷いた。
休息の間、マントを着たままトランの横で歌を聞いていた。面白かった。歌詞に物語がある。
……この地に光差しアーガの木が根を下ろし
人の子が生まれ アーガの元に育ち
アーガの木に約束をした
あなたの声に耳傾け
敬い ともに生きよう
祝福を恵み給え
木より賜りしシルシは
約束の証
通りすがる人々が次々に硬貨をトランの前に置かれた箱に入れて行く。そろそろ休息も終わった頃だ。トランと目が合った。やろう……。
マントの中で膝に抱いていたネリを降ろそうとして、はっとした。幼児くらいになっている。
「ネリ!」
ネリはきゅうとシロの服を握り、緑の目で見上げてきた。
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