Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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01 チュートリアル

04 Baltroy (理屈と嘘)

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 最近はこの辺で同じ人物と思われるやつがレプリカントの買取の仲介をしている。かなり手広い。でもしっぽを出さない。

 不思議だった。最近の買取人には珍しく、直接対面でレプリカントを引き取っている。今日のバニーノもそうだと言った。ステーションで直接、買取人の乗ったオートキャリアにレプリカントを乗せる。これも不思議な話。オートキャリアを使うのなら、目的地を外部からマークしてレプリカントだけ乗せればいい。なぜわざわざ危険を冒して自分も同乗するのか?

 そしてさらに不思議なのが、買取人の顔を見ているはずのオーナーにその記憶がないことだった。たしかに顔を見た、と言う。フードや帽子をかぶっていた記憶はない、と言う。でも、全く顔を覚えていない。オーナーに嘘をつく理由はない。何か薬でも使っているのか……。

「あの。バルトロイ…さん」

 家でヴェスタと向かい合って、レッダの準備した夕食を食べていた。呼ばれて顔を上げると、ヴェスタが遠慮がちに尋ねてきた。

「なんで、バルトロイさんは豚の子なんて中傷されるんですか?」
「ああ。昼の」
「はい」
「俺は鼻がものすごく利くんだよ。見なくても誰が近くにいるのかくらいは匂いでわかるんだ。豚って犬より鼻がいいから、それでさ。あの人は俺より先に捜査官になったんだけど、前にも上司の前で俺に豚の子って言っちゃって、事務方に回されちまったんだ。左遷だな。ま、俺は恨まれてるんだよ。バディだって三人代わってる」
「それもお聞きしたいと……どうしてバディがそんなに交代してしまうんでしょうか」
「怪我するから。俺がうるさいから。俺はもう一つ特異体質でね。体が丈夫で回復も早いんだ。ちょっとした怪我ならすぐに治っちまう。ここんとこ、実弾の銃は流行らないだろ。超音波破砕銃サウンドブレイカーを使うやつらが増えてる。あれ、防弾シールドを通過しちまうんだ。だけど俺なら撃たれても十分もすりゃ動けるようになるんだよ。細胞に音で傷をつける仕組みなんだけど、一つ一つの傷は小さいからな。
 でも普通のヒューマンはそうじゃない。撃たれたとこが火傷みたいになって即入院だ。あれ、体を貫通するんで、中まで焼けちまうってわけ。お前も気をつけろよ。俺は気にしないで飛び込んじまうんだ。何も考えないで後を追っかけてくると他のバディたちみたいに焼けちまうぞ。
 あとは、俺は体臭がわかっちまうから、毎日シャワー浴びろとか柔軟剤やめろとか、注文つけるんだ。それがうるさいんだろ。お前は体臭がほとんどないからいいな……」

 ヴェスタの髪の色がエメラルドグリーンに近くなった。

「わかりました。明日は何をすればいいですか?」
「当分今日の続き。明日にはお前のブースと端末とブリングが用意されてるはずだ。俺も同じことをやる。つまんないだろ? だから俺以外はあれあんまりしないんだ。一斉配信のメールくらいならするけどね。コールして本人確認までやるのは俺だけ。これもバディになったやつらには評判悪かったんだ。アナログ過ぎるってさ」
「バル、ヴェスタさんの服や生活雑貨が届きました。確認をお願いしますね」
「自分で見ろよ。お前のだろ」

 ちらっとヴェスタに視線をやると、ヴェスタは急いで立ち上がった。髪はすっと落ち着いたグリーンになる。変な髪。

「はい」
「あと、今日はお前がソファに寝ろよ。引っ越ししたらベッド買ってやるから」
「バル、健康状態から判断すると──」
「うるさいなレッダ。わかったよ! 俺がソファなんだろ」
「すみません……」




 翌日はヴェスタにコールさせた。週に製造された分の確認が終わっても、購入後一年たった人たちの追跡コール、三年たった人たちの追跡コールと、やろうと思えばいくらでもできる。
 俺の方は昨日のバニーノの通信履歴を確認する。発信ID非表示のコールが納品の3日後に着信している。発信IDを捜査権限で開示させても、プリペイドのブリングからの発信で追えない。購入者はレプリカント。先日遺体で見つかったやつ。どうやってこの家にレプリカントが納品されたとわかったんだろう。

 試しにバニーノと同日レプリカントが納品された家の履歴も調べる。あるメーカーのレプリカントの納品先にだけ、やはり同じようにコールがある。このメーカーのレプリカントが届く家をわかっていたとしか思えない。どうやって?

「先週もこんなコールが入っていたんでしょうか」
「先週はなかったと思う」

 試しに先週コールしたオーナーの一人に再呼してみる。そんなコールは来ていないと言われた。

「たまたまこの週の納品書を見た?」
「メーカーしか知らないだろうから、メーカーから漏れたんだろうな。メーカーに申し入れしておこう」
「来週も売却を誘うコールがあるでしょうか?」
「うーん……じゃあ、来週からはコールする時に変なコールがかかってこなかったかも聞くことにしよう。何か規則性が見つかるかもしれない……あ! 俺これから恋人に会うから、お前一人で帰れ。車は呼んでやるから。今夜は俺は戻らない。レッダに飯作ってもらえ」

 いつの間にか七時を回っていた。急いでステーションに向かって車を走らせる。この調子なら八時前に着きそうだ。良かった。まだイグニスは来ていない。

 ステーションにはいつも十数台のオートキャリアがいる。これは現在どの国でもメインの公共交通機関だ。乗り込んで目的地の座標や住所を入れれば、自動操縦で運んでくれる。基本的に使用予定者があらかじめ予約しているもので、急に飛び乗るようなことはできない。予約は三ヶ月前から三十分前まで可能。
 逆に言えば、すぐに使いたくても予約していなければ最短で三十分待たなければならない。これは交通整理上仕方のないことだ。つまり……

 考えが途中で霧散してしまう。イグニスが近くに来たのがわかって振り向く。

「バル」
「イグニス」

 イグニスしか目に入らなくなる。不思議なくらいに。

「うちで食べようか。疲れててゆっくりしたいんだ」
「うん」

 我ながらよく飼い慣らされた犬みたいだ。でもそれでもいい。イグニスと一緒にいられるんならなんでも構わない。テイクアウトで食べ物を買って、ステーションから歩ける距離のイグニスの部屋に入る。まだ温かい食事を二人で食べる。他愛無い話をする。

「ねえ、最近何か変わったことなかった?」
「ああ、うちにレプリカントが来たよ」
「えー。どうしたの、高いでしょあれ」
「人手不足で。助手みたいなのが欲しくてさ」
「人権ある系?」
「そう」
「助手とかなら支配率高い方が良くない?」
「人間に近い方が面白い記事書いてくれるかなって」
「機械に近い方が人間にない視点の記事書いてくれるかもよ?」
「それは思い付かなかったな」

 イグニスには捜査官だとはまだ話していない。IDを交換した時にたまたま記者の身分を設定してあったので、なんとなく言いそびれてしまった。いつかちゃんと話さないといけない。ニコッと向かいでイグニスが微笑む。シャワーを借りて出ると、彼はベッドの中で俺を待っている。獣のように齧り付く。本当に幸せ。何もいらない。銀色の髪も、色違いの瞳も切長の目も、夢みたいに俺を引きつける。

「ねえ、ぼくに何か隠してることない?」
「ないよ。どうした?」
「なんかね、バルが本当はぼくの手の届かない人なんじゃないかって不安になるの。ある日どこかに行ったままになっちゃうんじゃないかって」
「そんなことないよ……」

 隠し事は確かにいくつかあるけど、手の届かない人なんかじゃない。普通の人間。それに俺は他のやつらみたいに簡単には傷つかない。死んだりもしないと思う。突然イグニスの前から消えるなんて俺の方が耐えられない。いつかちゃんと話そうと思うことが溜まっていく。

「今度バルの家に連れて行ってくれる?」
「うん、いいよ。社宅だしレプリカントがいるけどな。来週引っ越すから、片付けたら来てくれよ」
「レプリカントにやきもちやいちゃうかも」
「そんなんじゃねーよ……」

 桜色の唇にキスする。好き過ぎる。一番イグニスが好きだ。そばにいるだけで頭がふわふわする。愛してる。





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